271 馴染んでいるレオン
図書館での変わったお茶会が終わると、シウはレオンが移動し始めたのを察知して帰ることにした。
カルロッテには校内は比較的安全だが、気を付けるようにと注意してその場を後にした。
で、帰り際のレオンをロッカーで捕まえたのだが。
「……一緒に帰ろうって、待ってたのか?」
「うん」
「いや、あのな。俺、子供じゃないからな?」
「そうなんだけど」
「俺、方向音痴でもないしな?」
などと言いつつも、まあ友達と帰るってのもいいか、と呟いて一緒に帰宅した。
ただ、帰宅後に、ロトスへ、
「こいつ、やけに心配症なんだけど?」
と暴露していて、ロトスからはまたしても、ウザい父親になる発言が飛び出てきた。レオンも一緒になって大爆笑だ。
新しいところで大丈夫かなと心配したのに、これである。
でもよく考えたらロワルの魔法学校でもレオンはふてぶてしかった。シウが心配するようなタイプでもない。
どうして忘れていたのだろう。
レオンには鼻で笑われるし、ロトスはきゃっきゃと笑うしで、なんとも言えない顔になったシウである。
ところで、レオンはロトスの成長した姿に驚いてはいた。
でも「ちょっと出自を説明できない変わった種族で、攫われるのが怖いから匿っているんだ」と言えば納得してくれた。
リグドールもそうだしアキエラもそうだが、何故か、
「シウが言うなら、そうなんだろう」
とすぐに納得してくれる。
どうも、シウは変な人間扱いされているようだ。
ロトスのことに限ってはそれで良かったのに何故か釈然としないシウだった。
その日の夕方には、ミルトとクラフトだけでなくシルトたち三人もやって来た。
久しぶりにリュカの顔を見に来たのだ。
リュカは相変わらず長の休みはラトリシアで過ごしている。今回もソロルやラトリシア組の者たちとで残っていた。が、ミルトやシルトたちは里帰りで会っていない。だから久々に会いに来たというわけだ。
獣人族の彼等はリュカと挨拶した後、すぐにアントレーネの部屋へ行って赤子三人の成長ぶりを確認していた。
リュカもそうだったらしいが、とにかく屋敷の者たちも赤子の成長ぶりを喜んでいる。
「意味のある言葉を喋っているな。こいつらは賢いぞ」
「マルガリタが一番賢いな」
「カティフェスはこのまま成長しそうだ」
「てことはガリファロはやんちゃなままか。これ、大変だぞー」
大変だと言いながらも、皆、楽しそうだった。
わいわいやっていたので、レオンも覗きに来た。ついでなので紹介する。特にシルトの方は今後会う可能性が高い。レオンもそのうち戦術戦士科へ行くと行っていたからだ。
シルトは後輩になるかもしれないレオンに先輩ぶった態度を取ろうとしたようだが、冷静に応じるレオンと、後ろでジッと見ているミルトやシウたちに気付いて取り繕っていた。
「いや、俺は別に、その。……レオン、授業では共に頑張ろう」
「ああ。よろしくな、先輩」
レオンはそつなく返したかと思ったらニヤリと笑ってシルトに拳をぶつけていた。もちろん、仲間同士がやる合図だ。
冒険者ギルドの会員でもあるシルトは、すぐに応じていた。
翌日、生産科へ行くとこちらもメンバーが半数ほど入れ替わっていた。
シウよりも古い生徒は上級位になっており、クラスリーダーに選ばれた生徒は肩を落としていた。
あと、アマリアが卒業してしまったため、ちょっぴり華やかさというのか、甘い雰囲気が消えていた。寂しいものだ。
シウは相変わらず自由気ままに作ろうとしていたのだが、途中レグロに呼ばれて廊下に出た。
「シウよ。お前、火の日の午前が空いたって聞いたんだがよ」
「あ、はい」
アラリコ情報かなと思いながら返事をしたら、レグロが小さい背で――シウより少し低い程度だが――肩を組んできた。
「俺の親友がよ、お前を引っ張ってこいって言うもんだからな」
「はあ」
「魔法建造物開発研究科、どうだ?」
そう言えば、リストにも入っていた。どこにするか悩んでいたが、相手から声を掛けてくれるならそれもいいかもしれない。
苦手だったり、勉強したいと思えない科もあるので除外したリストの残りにも、入っていた。
「火の日の午前にあるんですね」
「二と三時限目だ。続けて受けるだろ?」
分けて受けるよりは良いので、頷いた。レグロは笑顔だ。
「昼に教授室へ行けばいいでしょうか」
「いや、今から行って来い」
「えっ」
「あいつ、一時限目には絶対仕事を入れんのだ。昼は完全に休むやつだし、今がちょうど良い」
「せっかく早く来たのに」
「いいじゃねえか。こっちは二時限目から参加すりゃあよ」
「はーい」
仕方ない。元々、この生産科の授業は本当は卒科扱いだ。レグロの優しさで置いてもらっているだけで。
シウはさっさと片付けようと、廊下を急いで進んだ。
受講についてはあっさりと決まった。
レグロに話を持っていった時点で、歓迎ムードなのだろう。
教師はメトジェイ=トレンメルと名乗り、男爵位を持っているそうだ。特筆すべきは生産魔法がレベル五、岩石魔法もレベル五あることだ。更に基礎属性のうち四つがレベル三ある。かなりの高能力者だった。
新魔術式開発科のヴァルネリが聞いたら、喜んで飛び跳ねるに違いない。
「では、来週からよろしくお願いします」
「ああ。楽しみにしてるぞ」
と、機嫌よく手を振られた。
彼は、レグロから話をよく聞かされていたとかで、シウのような生徒が欲しかったようだ。いやー良かった、嬉しい、と明け透けに喜ばれてしまった。
シウは面映い気持ちで教授室を出ていった。
昼休み、食堂へ行くといつもの場所にいつものメンバーが座っていた。
他に、一緒に昼を摂るだけの生徒もいたのだが、入れ替わりが見て取れた。無事、卒業できたのだろう。新しい面子は、元からいた生徒に連れられてきたようだった。
あれがシウだ、と説明している子もいる。
「レオンはまだ来てない?」
「初年度生は三時限目もギリギリまでかかるだろ。早めに切り上げて来る余裕もないさ」
そう言うが、ディーノは初年度生の時から割と要領が良かったと思う。
クレールもシウと同じことを思ったのか、苦笑していた。
やがてエドガールやシルトがやって来て、遅れてレオンが到着した。
「早いな、みんな」
「三時限目取らない生徒や、早めに切り上げてくれる先生もいるからなー」
ディーノの答えに、レオンは頷いた。
「そうなのか」
レオンはディーノたちとも仲が良くなっているようだ。普通に話しかけている。席も取ってもらっており、そのまま座っていた。
「今日の日替わり定食なんだった?」
「Aがハンバーグ、Bがエビフライ。俺等は食べ放題のCにした」
「悩むな……」
というか、すごく馴染んでいる。レオンはもしかして、リア充なんだろうか。
最近ロトスに教えられた言葉で想像し、ちょっと落ち込んでしまった。
レオンがリア充なら、シウは引きこもりの非リア充というものだったことになる。
いや、今生は違う。
たぶん。
シウが一人真剣に考えていると、
「あっ、シウ! ちょっと聞いて。ニルソンがまた余計なことをしたらしいのよ!」
プルウィアがやって来て早々に、怒り始めた。それをクレールが宥め、ディーノたちがやいのやいのとからかってくる。
うん、違う。
シウは良い友達に恵まれた。
「プルウィアは苦労性だなあ。気にしなきゃいいのに」
「そういうことじゃないのよ。あの人のせいで、サハルネ先生だって困ってるの。もちろん、わたしたちもよ。ねえ、クレール、そうよね?」
「うーん、まあ、そうかな」
「はっきりしないわね。あなた、授業の時は意見をハキハキ言うのに」
「プルウィアさーん。クレールは精神的にいろいろ疲れてんの。傷付いちゃってるんだから」
「引きずりすぎよ」
「抉るようなこと言うなよな。そうやってポンポン言う女性がいるから、緊張しちゃうんじゃないか。男は繊細なんだぞ」
ディーノとやり合い始めたが、互いに言い合うのが楽しいようなのでシウは間に入るのを止めた。
レオンはポカンとしたままだ。
彼もそのうち、ここにいる人のことが分かってくるだろう。
なにしろ、シウよりもずっと上手に馴染んでいるのだから。
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本日、拙作の
「魔法使いで引きこもり?」二巻が発売されます。
よろしければ、書籍の方もよろしくお願い申し上げます。
以下、本屋さんでのご注文に際して必要な情報です。
「魔法使いで引きこもり?2 ~モフモフと学ぶ魔法学校生活~」
出版社: KADOKAWA
ISBN-13: 978-4047352254
少しの間だけ「本文最後に宣伝を付け加え」ます。めざわりだなーということでしたら「**********」が見えたらササッと閉じていただけるといいかなーなんて! お手数かけますがよろしくお願いします。
更にコミカライズ情報です。
yui先生が描いてくださいました!
https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_MF02200433010000_68/
ありがとうありがとうです!
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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