253 ジークヴァルドのところへ




 ガルエラドとアウレアを転移させた後、シウたちは一度ロワル王都へ戻った。

 アントレーネもロトスも、まだスタン爺さんと過ごしたいようだったし、王都で過ごすのも良い。

 年始はお店も開いていなかったため、もう少し滞在しようと決めた。


 シウはジークヴァルドに呼ばれていたこともあって、宿舎へ遊びに行くことにした。

 もちろん通信してからだが、ジークヴァルドは暇らしく、どうぞどうぞと言われてしまった。


 さて、誰を連れて行こうかと考えて思案した結果、クロとブランカに決めた。

 先日はフェレスだったので、本日は留守番をしてもらおう。

 アントレーネはベリウス道具屋の手伝いをしながら、赤子たちの面倒を見ると言っている。邪魔にならないようにねと告げて、シウは歩いて王城へ向かった。



 王城の外門からはいつものルートを外れて、軍関係の建物が連なる方面へと馬車は向かった。

 ジークヴァルドがあらかじめ申請してくれていたため、外門で専用馬車に乗ることができたのだ。

 王城内は基本的に走ってはいけないし、騎獣に乗っての移動も禁止されている。正式に招かれているわけではないから馬車なしで、長い距離を延々と歩いて行くのかと思っていたから助かった。

 少し離れたところに騎獣管理塔が見え、そこにいる聖獣たちが各師団の騎獣隊へ通っているのだろう。聖獣や騎獣の通勤風景というのを想像して、シウは笑った。

 やがて、馬車は質実剛健といった、しかし立派な建物の前に止まった。

 停留所前には立番らしい兵士がおり、建物の扉にもきらびやかな格好の衛兵が二人、入口を守っている。

「もしや、シウ=アクィラ様ですか?」

 兵士に聞かれて、はいと答えたら、扉前の衛兵の一人が中へ入った。

 微かに聞こえてくるのは、専用執事への報告だ。

 ジークヴァルド様の客人が見えた、と伝わっていく。やがて、従者を連れたジークヴァルドがやってきた。

「やあ、早かったな。門まで迎えに行こうかと思っていたところだ」

「ううん。それより、軍関係者じゃないのに、入って良いのかな?」

「ここは宿舎だから構わないそうだ。大丈夫、許可は取っている」

 だよな、という顔をして衛兵二人を見たジークヴァルドに、彼等だけでなく執事もまたにこやかに頷いた。

 どうやら、ジークヴァルドはここで好ましく思われているようだ。

 人懐っこいところがあって、王族ではあるが偉ぶったところのない自然体の姿が、受け入れられたのだろう。

 ジークヴァルドに案内されて彼の部屋へ行くと、すれ違う騎士たちが挨拶をしていた。彼等はかしこまるでなく気さくな様子だった。

「ここはさ、師団の上級騎士が入る宿舎なんだ。ちょっと肩身が狭いんだけど、結局、臣籍には降りずにしばらくは王族の仕事も併用していくと決まったから、仕方ないよな」

「しばらくってことは、いつかは?」

「まあ、ゆっくり結婚相手を探すかって話。レオン兄上も、これから本格的に相手探しだ。俺はその後だな。ハンス兄上のことがあったから、婚約者さえ作ってなかったんだよ。そういうこともあって、今、直系王族の仕事を減らすのは難しいんだ」

 姉上も嫁入りするだろうからと続け、ジークヴァルドは室内に入った。

「ただ、騎士としての仕事を一通り勉強するには師団が良いだろうってことで、一年はあちこちを渡り歩く予定。その後、王騎士団に転属で、王族の仕事と併せてやっていくことになる」

 そこまで話して、ジークヴァルドはにやりと笑いながら、隣室の扉を開けた。普通なら従者の部屋のはずだが、そこにはアスプロアークイラがいた。

 全方位探索で分かっていたが、ここは驚いてあげた方がいいのかな。そう思って、わあ、と声を上げたのだが自分で聞いても嘘くさい驚き方だった。

 はたして。

「なんだそれ」

 と、言われてしまった。

 シウは苦笑しながら、ジークヴァルドに続いて部屋に入った。

「こんにちは。久しぶりだね。僕のこと、覚えてる?」

「くぃー!」

 おぼえてる、との返事が来た。そして、後ろからも声。

「ぎゃぅぎゃぅ!」

「きゅぃ!」

「くぃ! くぃくぃ!」

 どうやら、こちらも覚えていたようだ。また遊ぼうねと互いに言い合っている。

 シウとジークヴァルドは顔を見合わせて笑った。


 ジークヴァルドは結局、アスプロアークイラの健気な気持ちに応えることにした。

 聖獣自ら、「あの人が好き」と言うのを、断れる人間はそうはいない。

 他にアスプロアークイラの下賜を狙っていた王族もいたそうだが、ジークヴァルドとの相性が良いことなどを理由に騎獣管理塔が断ったとか。

 そのためもあって、王族の仕事と併用することを決めたそうだ。

 直系王族の身分のままなら、下賜されることに問題はない。

 聖獣を手元に置くのも、王族とはいえ大変なことのようだ。

 ロトスを手元に置いているシウとしては、絶対に彼等にはバレてはいけないと肝に銘じた。



 さて、鳥型ということですでに成獣扱いのアスプロアークイラは――実際にももうすぐ一年経つので成獣となるが――聖獣ということもあってか精神が大人だ。

 同じく精神が大人のクロと話をしつつ、何故かいまだに子供っぽい無邪気なブランカを宥めながら遊んでいた。

「小さい子たちがくんずほぐれつで遊んでいるのを見るのはやっぱり楽しいな」

「小さい子……?」

 ジークヴァルドの言葉に、彼の従者が小声で返していた。その気持ちは分かる。小型希少獣のクロはともかく、騎獣の中でも重量級のブランカと、聖獣でもあるアスプロアークイラがいては、部屋の中は圧迫感しかない。

 いくら、上級騎士用の宿舎とはいえ、ぎゅうぎゅうに見えるのだ。必然的に遊ぶと言えば、くんずほぐれつでしか無理だ。

 これは後で表に出してあげないと可哀想かもしれない。

 それよりも、だ。

「彼女の名前は決まった?」

 とても大事なことだ。鑑定で分かってはいるが、まだ教えられていないので先に聞いておく。

「カロスというんだ。ちょっと格好良い感じの、名前にしてみた」

「良いね」

 シウよりよほど、良い名付けだ。

「ありがとう。ところでさ、シウと仲良くなりたかったのは本当なんだけど、相談したいこともあって」

 身を乗り出してきたので、シウもどうぞと促した。

 ジークヴァルドは隣室の開け放した扉の向こうに見える三頭の団子を眺めながら、口を開いた。

「アスプロアークイラは聖獣だから、乗れるということは分かっているんだけど、直近の資料では実際に乗ったって話がないんだ。カロスは俺を乗せたがっているけど、騎獣管理塔の研究者や兄上たちが少し難色を示していて」

 ようは怪我をするのではないか、問題になりはしないかと心配なのだろう。

「試してみたら良いのに」

 何も最初から無理をする必要はない。安全に気をつけて低空飛行をするとか、やりようはいくらでもあるのに。

 変なところで箱入りなんだなと、妙な感想を抱いていたら。

「いや、鳥型の希少獣に乗るのはないことだろ? だから、まあ、いろいろあるんだよ」

「……うん?」

「つまり、ほら、他に乗れると言ったら――」

 ああ、そういうことか。

 納得して、それから苦笑した。

「ポエニクスしか、いないね」

 シウからすれば、グリュプスもそうとう乗りにくそうな気はする。

 グリュプスは上部が鷲風で、下部が獅子の形だ。乗るのは獅子部分だから、乗れると言われればそうなのだが。

 その言い分からすると、鳥型で乗れるのはポエニクスとアスプロアークイラということになる。どちらも希少すぎて、ほぼ、乗り方の情報はない。

 では何故ジークヴァルドがシウに相談してきたのか。

 シウが現在のポエニクス、つまりシュヴィークザームと仲が良いことを知っているからだ。

「シュヴィはねえ、滅多に人を乗せないからなあ」

「そうなのか」

「僕も乗ったことはないなあ」

 と言うと、ジークヴァルドは分かりやすく萎んでしまった。

「でも、ロトスは乗ってたよ」

「えっ?」

「ああ見えて、シュヴィは小さい子好きだしね。ロトスがもうちょっと小さかった頃に乗せてたよ。あとブランカも一度だけ。動き回るから嫌だって二度目はなかったけど」

 想像したのか、ジークヴァルドがクスッと笑った。

 そして、ロトスを思い出したのか、あいつ乗ったのかーいいなー、と呟いている。

「何事も挑戦だし、カロスが嫌がってないならやってみようよ。騎乗帯は、簡単に作ってみる」

「え、作れるのか?」

「古代書に書いてあったんだ。オーガスタ帝国時代には、ポエニクスやアスプロアークイラに乗ったって記述があったし、簡易だけど絵図もあった。やってみるよ」

「いや、俺が驚いたのはそっちじゃないんだけど」

 革製品を作り出せるのか、ということらしい。

「生産魔法持ってるし、シーカーでも学んでいるからね。きちんとしたものは、王族御用達のところへ持っていって作ってもらえばいいよ。まずは乗ることから始めよう」

「……分かった。ありがとうな、シウ」

「どういたしまして」

 というわけで、場所を移動することにした。

 三頭にとっても、この場所から出ていくことは良いことだったろう。もはや、団子が固まってしまうような状況になっていたので。

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