239 ハイエルフの過去

※背景事情としてですが、陰惨な内容が含まれています。ご注意ください。

少しでも不安を覚える方は、この話を飛ばしていただいても良いかと思います。次回と次次回の冒頭にあらすじを入れております。

今回は、お話を飛ばせるように三話連続更新にしました。表のメニュー画面に戻って、二話後をクリックするのも良い手です!


重ねて申し上げますが、過去の話とはいえ気分の悪い内容があります。また、性描写を想起するようなものもございますが、当方はそれらを推奨するものではありません。







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 誓約魔法についての説明が終わると、同じく固有魔法の「封印」について、話が始まった。

「我等の持つ封印魔法は結界魔法の最上位だと言われているが、実は結界とは別物なのだ」

 先ほどの興奮が収まって、皆がシンとしてしまった。

 ヒラルスの言葉に重みが加わったからかもしれない。

 シウには感じられないが、彼の持つ強圧魔法が発動したようだ。

 ゲハイムニスドルフの上層部には「強圧魔法」のスキル持ちばかりが集まっている。

 これは精神魔法である「威圧」の更に上位で、書物では古代竜に匹敵するとまで言われていた。もちろん、大袈裟に書いているのだろう。

 実際の古代竜の威圧はもっとすごい。

 シウが古代竜イグと出会った時、彼は威圧などしていないのに、クロもブランカも怯えていた。しかし、今のふたりは平然としているからだ。

「封印魔法は、我等の祖先が編み出したものだ。元から備わっていたものではない」

 ざわりと困惑が広がる。

 年寄りの部類に入る者や、すでに知っていた者などは無反応だった。

 物知らずの若者をからかうでなく、真面目に話を聞いている。

「血脈だけに伝わる固有魔法を使って作り出した新たな魔法も、血に込めた。これらを、後世に残すためだ」

 それは、罪を償うためのものだった。

 ヒラルスは長い長い話を始めた。




 古代帝国時代よりずっと前、エルフは見目の良さから狙われ続けていたそうだ。

 その中でもハイエルフは、より特異性のある種族固有の魔法を目的に、捕まっていた。

 その魔法とは、誓約魔法のことである。

 彼等は誓約魔法を使って、格上の存在である古代竜を強制的に従えさせたこともあるらしい。ただ、あまりに強大な力のため、術者は耐えきれずに死んでしまったという。

 他にも、捕えられた者たちは不遇な扱いを受け続けたようだ。

 しかし、とうとうハイエルフたちは立ち上がった。

 ヒラルスが言う。

「我等の祖先は、禁忌の魔法を使った」

 彼の言葉に更に重みが加わる。ヒラルスは「禁忌の魔法」のところで圧をかけた。

 その魔法とは、緑枯魔法のことだった。

 祖先のハイエルフたちは、人族の住まう場所を枯らし尽くしたという。

「我等には創生魔法もあった。森を再生する魔法だ。これを取り引きに使ったのだよ」

 やがて、独特の強大な力を取り引き材料に、ハイエルフたちは国を作り上げた。

 同時に人族たちもまとまり、大きな国「帝国」が出来上がる。

 オーガスタ帝国の始まりだ。

 帝国はハイエルフの国を独立国家として優遇し、政治的な取引によってその能力を使っていった。

 エルフは守られ、ハイエルフの下に集まった。

 栄耀栄華を極めた時代、ハイエルフの固有魔法は外へと向けられた。

 魔人族との争いや、大型魔獣との戦い。西にある魔人族の大陸にまで手を伸ばした。

 もちろん、ロワイエ大陸にある小さな国々も飲み込んだ。緑枯魔法と創生魔法を使って、時に無謀な相手との「誓約」も利用した。


 自分たちも強大な力相手に恨んでいたはずだった。

 それなのに、立場が変わることで同じことをしていたのだ。

 恨まれないはずがない。


 その頃のハイエルフは、自らの種族特性である固有魔法「血操魔法」や「血視魔法」を用いて、種族の管理も行っていた。

 これらは血脈を縛る魔法だった。その名の通り、血族の者を操ることができ、血族の者を監「視」することができた。

 それらを使って、どうしたのか。

 ハイエルフたちは、各国の王族や有力者に娘あるいは息子を送り込み、子供を産ませた。血族を作り続けたのだ。

 そして操った。


 それでも対抗し、敵対してきた相手には緑枯魔法で国ごと滅ぼした。

 人間のいなくなった死の大地に乗り込んで、創生魔法で蘇らせる。

 ただし、蘇るのは森だけだ。

 死んでしまった命は生き返ったりしない。


 ハイエルフの中には蘇生魔法という切り札もあった。

 ハイエルフの中でも滅多に出ないユニーク魔法だったが、一世代に必ず生まれてきた。

 精霊の愛し子と呼ばれる彼、ないし彼女を、ハイエルフの王たちは他国への脅しに使った。

 滅ぼされた国の王が蘇生され、死の大地となった国を見せられて、また殺される。

 そうした非道も行ったそうだ。



 やがて、魔人族が放ったあるもののせいで、ハイエルフたちの進む道は変わった。

 ハイエルフの血が混じった、魔獣を作り上げられていたのだ。

 どうやって作ったのか、詳細は今でも分からないそうだ。たぶん、ゴブリン・オークなどを使って、徐々に大型の魔獣と交わらせることで血を繋いだのだろう。

 その作られた魔獣には、血族を支配することのできる血操魔法は効かなかった。何故かは分からない。魔獣だったから、と結論付けた者もいた。当然、血視魔法も通じなかった。

 しかし、最悪なことに、相手からは使えた。ハイエルフは追われることになったのである。


 もちろん、対等な取引相手である帝国も、ハイエルフをみすみす失うような真似はしない。守りもした。

 ただし、そこには守ってやるという強者の意見が組み込まれた。

 討伐隊には必ずハイエルフが入らねばならなかったし、固有魔法を自由に使わせるという条件も含まれた。何よりも最前線に立たされることとなった。

 ハイエルフが従ったのは、魔獣に襲われて死ぬ同胞が増えたからだ。


 元々、魔人族が操る魔獣は大型だったが、ハイエルフの血を引いた魔獣は更に大型化の一途を辿った。

 そして確実にハイエルフを探し出した。まるで、血視魔法のスキルがあるかのように、追いかけてきた。

 本能に忠実な魔獣が何故そこまでと、皆が思った。魔獣に詳しい研究者も首を傾げた。

 ――それもまた、ハイエルフの血のせいだった。


 ヒラルスが絞り出すように声を張り上げる。

「誓約魔法が作用していたのだ。元々魔人族は洗脳に優れている。魔獣を洗脳して、武器として使ってきた種族だ。彼等はそれを利用して、洗脳の更に上位でもある誓約魔法を、ハイエルフの血が組み込まれた魔獣に同調させた。『ハイエルフを死ぬまで襲え』という『意思』を組み込んだ」

 魔人族も、ハイエルフとの間に子を作ったのだ。その子を洗脳し――彼等にハイエルフの血脈とは知らせずに――更に魔獣を洗脳させるようにした。ハイエルフという同じ血を引く魔人と魔獣は互いに同調し合い、とうとう、出来上がったのが先の魔獣だ。


 ハイエルフは魔力が多く、人族と違って魔力は増えていく種族だった。

 魔力食いで、強大な魔法を行使することでも有名だった。

 血を操り、血にこだわってきた種族でもあった。

 彼等の血を引いた魔獣は、更なる変化を遂げた。

 巨大化し、かつ、倒し難いものとなっていたのだ。

 ハイエルフが襲われるからといって、隠れていることは許されなくなった。

 なにしろハイエルフを追うための道すがらで、人々が魔獣に殺される。

 これまで驕慢な態度で君臨してきたのだから、魔獣を倒すために前面へ押し出されても仕方ない。

 また、ハイエルフの固有魔法、緑枯魔法でも魔獣は倒せた。

 ハイエルフたちは魔獣討伐隊を作って、帝国軍人らと共に大陸中を走り回った。


 しかし、強大になっていく魔獣を相手に、皆が疲弊し始めていた。

 同盟国同士、あるいは同族同士で粗探しをするようにもなった。

 そんな時、あることが判明した。

 捕らえた魔人族から、奇妙な話を聞いたのだ。


 ヒラルスが掠れた声で言う。

「更なる力を得ようと、ハイエルフの王族が密かに魔人と通じていたのだよ」

 魔人族に、血族を渡していたのはハイエルフの王族だったのだ。

 魔人相手に、他の国々を掌握したのと同じようなやり方で接した。そんな作戦が上手くいくとでも思ったのだろうか。

 娘や息子を人質として送り出し、利用しようと画策した。送り出された彼等がどう思っていたのか、考えようとしなかった。




 ヒラルスは低い声で、絞り出すように皆へと告げた。

「……魔獣には、本国から捨てられた同胞たちの恨み辛みの血が、込められていたのだよ」

 集会場に集まっていた若者たちが、顔色をなくした。



 それを知った当時の王は、魔獣を倒すことを躊躇してしまった。

 その判断のせいで、魔獣は更に勢いを増し、強くなった。強くなりすぎてしまったのだ。

 もはや、倒せるようなものではない。

「そこで血族を支配することのできる血操魔法から派生した、封印魔法を編み出したのだ」

 結界魔法としても使うため、その上位と思われているが、実態は違う。

 血族を縛るための魔法だそうだ。

 だから、彼等でしか使えない。

「封印魔法を編み出した一族は、それらを全てのハイエルフの血に混ぜるため、非道なこともしたようだ。更なる罪を重ねたというわけだ。言葉では言い尽くせないような、実験を繰り返したと聞く。だが、詳細が書かれたものは帝国滅亡時に散逸したらしい。我等には口伝で残るが、あまりに凄惨ゆえ、長老会にしか伝えておらぬ。知りたい者には教えるがな」

 ヒラルスは大きな溜息を吐いた。







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具体的なシーンなど、かなり端折りました。

そのため「意味が通じない」という弊害もあるかと思います。

そこは本当に未熟なところです(いつものことだけど)。

また時間をおいて落ち着いて読み直すと、修正できるのではないかと(希望的観測)考える次第です。


自分の持つセーフのラインが人とは違う。ということを肝に銘じて、これからも精進してまいります。

こんなところまで読んでくれてありがとうです。あと、肩透かしの人、すまぬです。大人にはいろいろあるんだ……(小声




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