237 ハイエルフとはなんだろう




 午後は保管庫の確認と、増築作業だ。

 寒い地域なので地下に食料保管庫を幾つも持っているが、もう少し環境を整えて温度が一定になるよう魔術式を書いたものを魔核に付与して固定した。

 彼等にも分かるように、資料も添付している。

「付与魔法持ちは? いなくてもこの程度なら、金と無属性魔法の持ち主がいたらすぐ覚えられるから。今日の勉強会に、持っている人を集めてください」

「あ、はい」

 プリスクスは鑑定魔法持ちなので、村人のスキルを管理して覚えている。

 脳内で抽出したらしいデータを、手伝いの女性に伝えて指示していた。


 ふと気になって聞いてみた。

「魔道具作成はしていなかったんですね」

「ええ、あまり。外から買う方が便利だというのもありましたが……」

 そこまで口にして、彼女は頭を振った。

「いいえ。矜持が邪魔をしたのね。わたしたち、ハイエルフの血を引いているがゆえに、固有魔法も多く持っているでしょう? 魔力も高い。だから自力の魔法でなんとかすることばかり考えていた。だから、薬草師もいないし、簡単な鍛冶もできない」

 政治をする、上の人間が能力者だからこうなったようだ。

 でも、この村のほとんどは、人族に近い。

 能力は高いが、あくまでも人族だ。

「ここで隠れ住んでいくのなら、もっと自前でやれるようにしないとダメですね」

「ええ」

 プリスクスは溜息を吐いて、肩を落とした。

「……今までは足りない分はオリーゴロクスに助けられ、年に一度か二度の買い出しにも行ってもらって、頼ってばかりだった。考えれば、自力で、村だけでやっていけたことなどなかったわ」

 持ちつ持たれつのはずが、段々寄りかかっていた。

 竜人族は気が良いので、いいよいいよと安易に請け負っていたのだろう。

 もちろん、竜人族にはそうするだけの理由がある。

「彼等は、あなた方の使命をとても尊敬していますよ。危険な場所へ自ら赴き、封印を施す。命を落とすことも多い旅路なのに、あなた方は続けてきた。アポストルスが忘れ去っても、彼等に命を狙われていると分かっていても、続けてきたことは賞賛されることだと思います」

「シウ殿……」

「竜人族にもそうした面があって、本当に不思議に思ったものです。……僕は利己的な人間なので。ですから、本当は僕が偉そうに言う権利はどこにもないんですよね。ただ、竜人族の友人たちが心配で、つい口出ししてしまいました」

 頭を下げると、プリスクスは頭を横に振った。

「いいえ。シウ殿に指摘されるまでもなく、わたしたちはもっと自分たちの卑怯な部分を見つめなければならなかった」

「卑怯とまでは――」

「いいえ。卑怯なのよ。……だって、封印の作業は、先祖の罪を隠すためだもの」

 目を瞑り、彼女は拳を握って震えていた。

 怒りのような、それでいて親に怒られる前の子供のような、奇妙な面持ちだった。



 詳しい話は長老を含めてと言われたので、それ以上問うことはしなかった。

 これを機会に、若手への説明も行うそうだ。

 本来はもう少し先にする予定だったらしい。十数年後に向かうであろう、戦力となる世代へ、徐々に教え込むつもりだった。

 ところが最近、勘違いをしているのか増長している者がいる。

 しかも、村の生命にも関わる大事な財産を紛失、あるいは盗んだ者がいるのだ。

 村が最も求めている「種族特性の固有魔法」を持っているから、というのは言い訳にならない。そう彼女は言い切った。

 明日、ちょうどレーウェの体調も戻ってきたのでシウたちに誓約魔法を掛けてくれるという。

 それと同時に、種族特性の固有魔法について講義するつもりだったからと、彼女は晴れやかに語った。

 シウは、ロトスの本来の姿がバレないのであれば皆の前でも構わないので、了承した。

 それに、歴史に触れることを思えば、正直に言うと興味津々だ。


 将来、シウにも子供ができるかもしれない。

 その子にも関わることかもしれないのだ。

 だからこそプリスクスもシウに聞く権利があると思ったのだろう。





 翌日、朝から曇天の中、中央にある大きな屋敷へと皆が集まってきた。

 中央付近に住まう人はほとんどが集まっており、壁際の集落に住まう者でも能力者は全てが集められている。

 警備を外すことはできないので外回りの狩り班や、兵士などは参加していないが、能力者ではないため構わないそうだ。

 彼等にもまた別途、話をするらしい。

 集まっているのは見た目の年齢が三十歳より下の者ばかりだった。

 エルフもそうだが、見た目年齢がイコール精神年齢というところもあって、本来の生きた年数よりも見た目を大事にしているらしい。

 だから、実年齢が七十五歳同士でも見た目年齢が十八歳と三十八歳ということになって、明確に線引されている。

 前者はテネルという少女で、彼女もまた種族特性の固有魔法を持っていた。レベルは低いが、この村でも珍しい特殊な固有魔法持ちで、遠巻きにされているようだ。

 その彼女と幼馴染みだと教えてくれたアンプルスは、見た目がオジサンということもあって、集会場の警護のような形で立っている。

 同じ年に生まれたのに、こんなにも違う。

 テネルは能力者でレベルが三、アンプルスは能力者ではなく限りなく人族に近い。

 この世界は不思議に満ちていると思っていたが、ロトスと顔を見合わせて、改めて驚きあった。

「ファンタジーだね」

「ファンタジーだぜ」

 何よりも、シウたちに誓約魔法を掛けてくれる予定の、アウレアの曽祖父レーウェが、見た目年齢が三十四歳と表示されているのだ。

「しかも、三十四歳に見えないね」

「薄幸の美青年っぽいな。エルフすげえ。あ、ハイエルフか。ククールスの兄貴も大概だと思ってたけど、こっち、もっとやべえな」

「あー、ククールスはなんか、違う気もするけど。そう言えば、エルフもハイエルフも寿命は似たようなものなんだって。ハイ、っていうからハイなんだと思ってた」

「シウ、どうした、発言がバカだぞ」

「いや、だってさ」

 違いが分からなくて――なにしろ物の本の説明だと『血統と魔力量』のような説明だった――ならば、この村で言う非能力者、レベル一の人はエルフ族になるのか? というわけで。

 首を傾げていたら、話を聞いていたらしいプリスクスが笑って教えてくれた。

「そうですよね。外の人は、ご存知ないのでしたね」

 そう言って、微笑みながら続けた。

「エルフは始祖の種族のひとつだと言われていますが、後に大精霊に愛された者が我等ハイエルフの元祖と言われています」

「つまり、大精霊とエルフの血を引く血統がハイエルフ、と?」

「ええ」

(わーお)

 ロトスが妙な感嘆をして、何故かシウを肘で突いてきた。意味が分からないが、彼よりプリスクスだ。

「では人族とは異なるんですね?」

「そう、伝えられているけれど……。でもたぶん、エルフ自体が人族の派生したものだと思っているわ。だって姿があまりにそっくりなんですもの。違うと論じるのはおかしな話よね」

 確かに。

「でも、なんだか面白いですね。竜人族は人と古代竜――ドラゴン――との間に生まれた者が始祖と言われているでしょう?」

 シウの言いたいことが伝わったようで、彼女も笑った。

「ほんとね。でもだからこそ、わたしたちは長年、手を取り合ってきたのかもしれないわ。祈りを捧げる相手は違うけれど、それぞれ、偉大なる先祖の血を引いている。そのことに誇りを抱いている。だから、助け合って、いえ、助けてきてもらったのね」

「助け合って、でしょう? だって、竜人族の赤子を一年の間、面倒見てきたあなたたちだ。竜人族が感謝している気持ちは、僕にも痛いほど伝わってきました」

「……ありがとう、シウ殿」

(なんか、いい話になってきてる)

(いい話だから、いいんじゃない?)

(いい話だから、いい、とか。面白くないなー)

(笑わせるつもりで言ってないんだけど……)

(たまには笑わせろよな。シウ、つまんない男にだけはなるなよ? きりっ)

(それ、もう分かったから)

 笑いながらロトスをいなして、集会場を眺めた。

 長老が壇上に立ち、挨拶をしている。

 おおむね、皆が尊敬の念や、年上の者に対する正しい態度で注視していた。

 ただ、やはりバルバルスたちだけは不満そうな、つまらないといった顔で見ている。

 彼等がこの後どうなるのか、ロトスではないが楽しみだと思った。

 ロトスは、

(ここで一発大逆転、お前らは井の中の蛙ヤローだ、若造共よ分かったか! ってなるんだろ。超楽しみ。ザマア展開待ってました、ってなもんだ)

 と、騒いでいた。

 ちゃんと念話はシウにだけ届くよう、調節して。

(……それ、どこを突っ込んでいいのか分からないんだけど、スルーしていいやつ?)

(いいよん。でも、そのうち覚えるって。『スルー』も覚えたシウだからな!)

(なんか、汚染されていってる気がするんだけど)

(ぶはっ! それ超面白い!!)

 いや、冗談で言ったわけではないのだが。

 でもロトスが気楽な様子で緊張もしていないので、良かった。

 なにしろ、本来のメインイベントは、シウとロトスの繋がりを強固にする「誓約魔法」なのだから。

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