236 水路作りに油の木の畑作り




 翌日、グラキリスの了承を得てから、水路作りを行った。

 探知ができると伝え、井戸も掘った。時間も勿体無いのでサクサクとやるものだから、グラキリスも様子を見に来た他の人たちも唖然としている。

 クレプスクルムが、

「驚くでしょう? わたしたちのところでも、こうだったのよー」

 と説明していた。


 水路は土属性持ちの補助を頼んでいたが、立候補してくれる人が出てこないので、ロトスがひとりで頑張って土属性魔法と手作業で掘っていた。

 すると、段々と参加してくれる人が出てきた。最終的には、見学に来たうちの半分が手伝ってくれたのは嬉しい。

 残り半分も、魔法は使えないし体力もないので、と申し訳無さそうだったのが救いだ。

 大変控え目でおとなしい人が多いものの、基本的に道理を分かっているからこそ、おずおずと手を挙げたのだろう。

 水路が出来上がって汲み上げた地下水を流す時は、おとなしい人たちなりに小さく両手を挙げて喜んでいた。

 そして水路をフェレスとブランカが流れていくと、皆が笑った。クロはブランカの上でサーフィンだ。

「俺もやりたい」

 ロトスが羨ましい口振りで言うので、

「乗っておいでよ」

 と言ったのに、彼は何故か乗りに行くことはなかった。

 水路に飛び込んでまで、はしゃぐ人がいなかったので恥ずかしかったのかもしれない。竜人族なら、飛び込んでいただろう。



 午後は、畑についての講義をしながら、資料を作成した。畑の管理者たちに渡すつもりだ。

 ハウスの使い方や種の蒔き方、育て方など、いろいろ書いてある。

 彼等の文字はロワイエ語だったので、問題なく意見の交換もできた。

 水路作りの時に見学しに来ていた人の中で、手伝えなかった者は午後の勉強会に出たりしていた。

 また生産魔法持ちが簡易魔法袋を作りたいと自ら言い出したり、少しずつ前向き意見もあった。

 長老たち、上部の人間に言われたからではなく、アエテルヌスらから話が回ってきたようだ。

 これだけ助けてもらっているのに、自分たちがやらないのはおかしいだろう、と。

 改革しないと生き残れないという危機感は、彼等にもあったのだ。


 本当はもっと危機感を抱かねばならないのが能力者たちなのだろうが、レベルの高い人ほど顔を見せることはなかった。

 排他的なところはアポストルスと似ているなと思う。

 それが血の縛りというものなら、なんとなく不安に感じてしまう。

 なにしろシウもまた、その血を引いているからだ。




 翌日も朝からフル稼働だった。

 油の木を育てても良いという許可が出たので、村の外で場所を決めて作ることにした。

 当初は村の人にやってもらおうと思っていたが、時間がない。

 つきっきりで付き合うこともできないので、初期段階はやってしまうことにした。

 どうなるかは、彼等の自由だ。

 でも、昨夜も晩ご飯のあとに、簡易魔法袋の作り方を教えてほしいとやってきた者もいて、いけるんじゃないのかという気持ちでいる。

 水路作りの時も保守について説明していたら、熱心にメモを取り出した者もいた。

 だから、少し期待もしている。

 気になるのは青年団長バルバルスとその取り巻きたちだ。

 彼等は一向に参加してこないし、見学にも来ない。

 ネックは彼等だろうなとロトスやキルクルスたちとも話している。


 油の木を育てる畑も、ロトスや土属性魔法持ちに頑張ってもらって水路を作らせ、その間にシウはフェレスに乗って転移し、油の木を引っこ抜いては空間庫へ入れるという作業を行った。

 ブランカが倒れた油の木を興味津々で見ているので「燃えたら危ないから触っちゃダメ」と注意したのだが、案の定といういうのか当然のごとく、しばらくして油にまみれた格好でシウのところへ戻ってきた。

「ぎゃぅぅ……」

 とれないの、と項垂れている。定期的に発動する浄化魔法では取れなかったようだ。

 溜息を吐いて、《異物除去》してから、強力な《洗浄消臭》を掛けた。

「油が毛皮に付いたら気持ち悪いだろうに」

「ぎゃぅん……」

「あと、このへんにはいないけど、火鶏が彷徨いてたらすぐ火が付いちゃうからね。火だるまになったら、毛皮燃えちゃうよ~」

 物理耐性の防御も彼女の首輪には掛けているが、魔法の火だと毛ぐらいは燃えてしまうかもしれない。身体にまで影響しないよう強化はされているが、毛は身体じゃない気がする。

 脅かすと、ブランカは一瞬戸惑うように動きを止め、それから急に慌ててぎゃんぎゃん鳴き出した。

 毛がないのはいやー、ということらしい。

 脅かしすぎたかなと思ったが、フェレス以上に、興味を持ったものへの突撃傾向が強いため言い聞かせることにした。

「だからね、注意したことはちゃんと聞くように。ぜーんぶ毛が無くなったら、はだかんぼうになるね。恥ずかしいよ~」

「ぎゃぅぎゃぅぎゃぅ!!!!」

 いやいや、いやいや、と悶えているので、シウはそろそろからかうのを止めた。

「嫌ならきちんと言い付けを守ること。そうしたらフサフサの毛皮はそのままだよ」

「ぎゃぅ?」

 ほんと、と疑わしそうなので、笑ってしまった。

「本当。ほら、浄化もしたから綺麗になった。ふっさふさして、格好良いねえ」

「ぎゃぅ!」

「よしよし。じゃあ、周囲の警戒しといで。クロは遊ばずにずっと上空を旋回して働いてるよ」

「ぎゃぅっ!? ぎゃぅぎゃぅ」

「フェレス、ブランカに付いていってあげて」

「にゃー」

 はーい、と気軽に返事して、追いかけていった。

 フェレスも油の木で遊ぶかと思っていたが、ちょっとは賢くなったのか、樹液の出る様子を見て目を細めていたので警戒していたらしい。

 長毛種なので、油が付いたら嫌なことになる、と気付いたのは偉い。

 もっとも、彼はすでに何度も似たような経験はしている。たとえばメープルだったり、白乳の木であったり。

 そう考えたら、今のところ失敗していないのはクロだけだ。

 今も上空で頑張っている彼の失敗が、いつになるのかちょっと楽しみになってしまったシウだ。



 畑予定地へ転移したのは、ロトスに連絡を入れてからにした。

 作業の手伝いをしていた人を戻してもらったのだ。

 転移を見られたくないというより、大量の油の木を保管できる「空間庫」の存在を知られたくないからだった。

 いくらなんでも、ただの魔法袋というのは通用しないだろうと思う。

 シウたち一行の食料などがまだあるとバレているところヘ、更に油の木が入るというのは異常だ。

 シウだけではない。

 ロトスの魔法袋はオプスクーリタースシルワで拾ったものを再利用しているが、こちらも古代遺物級で相当珍しい、貴重な品だ。

 フェレスたちには親しくない人の前での使用禁止を言い渡しているので、バレていないはずだが、少し自重すべきだった。

 ロトスは「今更だと思うけどなー」と言っていたが、物資の融通に関しては「簡易魔法袋を大量に持っている」からだと嘘を突き通しているので、大丈夫。

 今回の油の木さえ、なんとかすれば。


 ということで、ロトスだけに残ってもらった。

 補助係というのか、シウの指示通りに魔法を使って植えていく。

「穴はもうちょっと深く」

「へい」

「じゃあ、順番にこっちからね。そのまま木を空間庫から取り出していくから、埋めるのもやって」

「えー、じゃあ、穴掘りと埋めるの両方やるのか?」

「そうだよ。土属性魔法と風属性魔法、レベル上がってるよね?」

「ううう。分かった」

 細かい作業になるので集中しなくてはならず、ロトスにとって苦手なことなのだ。

 でもスパルタである。

 流れ作業だと魔法の精度も上がるし、レベルを上げやすいはずだ。

 遠慮なくロトスをこき使った。


 その間、フェレスとブランカにも穴掘りを命じたり、火除け用の防火水路の点検作業など、仕事を与えた。

 クロは相変わらず上空で警戒中で、たまに村から「命令」を受けた精霊に話をして追い返していた。

 作業場所は強力な結界を張っているので、精霊にもどうやら見えないようだし、追い払っていることで「視ていることは分かっている」と伝えられる。

 これに懲りて、精霊を寄越すのを止めてくれたらいいのだが、相手はなかなか諦めないようだった。

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