234 戦利品、村の歴史、衰退




 ところで、シウも鑑定魔法の、ある項目が増えた。

 ゲハイムニスドルフの話を聞いてから鑑定をし続けていると、段々と「能力者」のレベルが分かってきたのだ。ついには表示もされるようになった。

 『年齢/見た目年齢/レベル』と表示されるので、大変分かりやすい。

 鑑定魔法がどんどん進化しているような気がして有り難いのだが、あまり頼りすぎるのも怖いのでほどほどにしようと思う。



 戦利品もいろいろあり、村の中央へ戻る際には人が集まってきた。

 竜人族のように元気よく集まってくるということはなく、静かにそうっとだが、最初に比べたら雲泥の差だ。

「すごい、今日の狩りの成果?」

「パリドゥスも行ったの? 大丈夫だった?」

「大丈夫よ。それに、これはキルクルスさんたちが狩ってきてくれたの」

「やっぱり竜人族はすごいわね」

 パリドゥスの友人らしい女の子を中心に、アエテルヌスらの家族や、その関係者が多いようだ。

 グラキリスも、お疲れ様ですと労われている。

 幾人かはキルクルスとクレプスクルムにも、礼を言っていた。

 魔獣を狩ってくれてありがとう、だとかだ。

 今日はご馳走だと言う人もいて、普段から竜人族が狩ったものを置いていくことも分かった。

 持ち帰ったりはしないのだ。

 優しい種族だと思う。

 それに対してほとんどの人は感謝の気持ちを持っているようだが、中には当たり前のように考える者もいるらしい。

「しょぼい獲物だ」

「どうせなら、コカトリスにしろよな」

 見ていると、レベルが高めの者が言っているようだ。

 早晩、揉めそうだと予想して、シウは彼等から視線を戻した。





 翌日、予定していた誓約魔法の件は、先延ばしになった。

 担当してくれるレーウェの体調が悪いようだ。冬場はよく熱を出すそうで、周囲の者が念のために休ませたということだった。

 血が濃くなりすぎて、だからこそ先祖返りには体の不調が出てくるのかもしれないなあと、思う。

 最近は外からの血も入ってこないようだ。

 昔は冒険者がやって来ると、取り込めそうな人だけ壁の中へ案内して残ってもらったそうだ。

「それって拉致監禁じゃねえの……」

 怖いよう! とロトスが両手で頬を掴むようにして変な顔をする。彼の独特の表現方法は面白いのだが、出典が分からないことも多くて悩む。そういう時は黙ってスルーだ。

「シウ、ツッコミ忘れてるヨ」

「あ、ごめんね。それ、分かんない」

「【ムンクの叫び】じゃん!」

「ふうん。それはともかくさ――」

「流された! 流された! 大事なことなので二回言いました!!」

「分かったから。で、そうやって維持していたのに、最近は出ていかれるばっかりなんだって」

「……まあいいんだけど。あー、シウのおやっさん、じゃなかった爺さんか。その人も出て行っちゃったんだよなあ」

「人数も減っちゃって大変みたいだね」

「そのうち絶滅するぞ。やべーな」

「隠れ住んでる人もいるらしいけど、アポストルスが怖くて連絡取り合わないうちに、場所が分からなくなったとか言ってたしね」

「バカじゃん!」

「こらこら」

 あとはまあ、エルフとの間で血を繋げば良かったのに、当初それを否定していたのはゲハイムニスドルフも同じのようだ。

 結局、心優しい人間たちの助けを借りて隠れ住むうちに、混ざり合っていったようだが。


 金の日は、本来の予定が潰れたこともありプリスクスにゲハイムニスドルフの歴史を習った。

 ロトスはフェレスたちと遊びに行こうとしたところを、シウが捕まえて一緒に話を聞いた。

 フェレスたちは今日も狩りへ行くんだと、キルクルスやアエテルヌスらと出掛けている。

 クレプスクルムはシウとロトスに付き合ってくれた。

(美女に囲まれて嬉しいけど、人妻なんだよね、この人)

(どっちのこと?)

(どっちも美女です!)

(やっぱり年上好き?)

(るせーやい。てか、クレさんってガル兄貴の母親なんだよな……ヤベえな)

 何がヤバいのか分からないが、シウは聞かなかったことにした。



 一時は盛り返すほど増えたハイエルフの血族たちも、アポストルスとの争いや、奴隷狩り、隠れ住むことによる衰退のせいで減ってしまった。

 最近は子供の数も増えないのだとプリスクスは嘆いた。

 それは血の濃さも原因だろうが、何よりも栄養不足なのだと思う。

 プリスクスもそれは気付いていて、竜人族が食料改革に乗り出して、しかも早速妊娠したという話を聞いてからは目の色が変わっていた。

「では、本当に妊娠されていたのですね?」

「確認しましたから」

 シウが答えると、プリスクスは目を輝かせた。

「すごいわ!」

「でしょう? だから、あなたたちも、もっと前向きに食料について考えるべきよ」

 クレプスクルムが自慢げに言う。

「ええ!」

「でも、どうして今回の仕入れの小麦がこんなに少なかったの? これじゃあ、わたしたちが持参したものだけじゃない」

 クレプスクルムが言うと、途端にプリスクスの顔がサッと青くなった。

 深刻そうなので言えないことかと思ったが、彼女は辺りを見回してから「守ってて」と小声で告げた。精霊に声を掛けたらしい。

「……実はトイフェルアッフェの魔核を売ったでしょう?」

「確か、別行動になった時ね。護衛を断られたので、担当の子が少し気にしていたみたい。下品な真似をすると思われたのだろうかって、ね」

「あ、ごめんなさい。そうよね、いつも付いてきてくれるのに断るなんて失礼だわ」

 クレプスクルムだから質問できたのかと思えるような会話が続いた。

 そしてプリスクスだから、答えてくれたのかもしれない。

「驚くほど高額だったから、わたしたちも驚いたのだけど……。でも別の者が、もっと高く売れたはずなのではと言い出して――」

 ハッキリとは言わないが疑う者がいたようだ。

 彼女は更に続けた。

「それに、ヒュブリーデケングルの簡易魔法袋、分けてもらってたわね? それが一つ無くなっているの。あんな大事なもの、仕入れに行った全員がどこにあるのか分からないと言い出して」

「つまり、どういうことかしら」

 クレプスクルムは本当に分からないらしくて、真面目に首を傾げている。

 ただ、シウもロトスも彼女よりはスレているので、なんとなく話が見えてきた。

 プリスクスが危惧しているのもそのへんだろう。

 ようは、誰かがどこかで、抜いているのだ。

(フラグじゃーん。どう考えてもバルバルスだろ?)

(でも、彼、外へは出ないはずだから仕入れの旅には出てないと思うけど)

(あ、そっか。んじゃ、手下!)

(その線かな。話の通じる人に入れ知恵しといて、誰にも金額や買ったものについて話さず、戻ってきてから隠したとか)

(こわーい)

 きゃあ、と女の子みたいな声を上げる。もちろん、フリである。

「シウ、どうして笑ってるの? 面白い話だった?」

 クレプスクルムに不思議そうな顔で問われて、シウは苦笑した。

「ううん。ちょっとね。それより、それ、きちんと調べないとね。在庫管理ができてないって、致命的だと思う。どうやって冬を乗り越えるつもりだったのか、上層部にも聞いてみたいよね」

「……それは」

「足りなければ、わたしたちの里からも――」

「そういうやり方だから、甘えちゃうんだよ。舐められている、とも言い換えられるけど」

 クレプスクルムが目を丸くし、プリスクスはサッと目を逸らした。顔を赤くして俯くのは、それなりの自覚があるからだ。

「そういう方法を続けていくと、発展もしないし、むしろ後退していくんだよ。そして衰退していくってことなんだ」

「共倒れだよな~!」

「そこは声に出すんだ?」

「聞かせるべきことは聞かせるのが、俺の流儀!」

(きりっ)

 最後は笑いで〆るあたり、やっぱりロトスは良い子だ。

 シウは笑って、二人の女性を見つめた。

「今、改革しないと。次の命へ繋げていけなくなる」

「そうね」

「……そうですね。はい。シウ殿――」

 感極まった様子のプリスクスは、クレプスクルムに任せた。こういうのは苦手だ。

 クレプスクルムはよく分からないなりに、細くて白い可憐なプリスクスをそうっと抱き締めていた。

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