232 却下、提案、今後について




 若手に都合の良い意見は、ヒラルスが却下していた。

 中堅のグラキリスたちが言い含めていたものの、彼等は最後まで納得できないようだった。

 しかし、シウが、

「無償で援助するわけないでしょう」

「僕にも都合があるのに、親切で申し出たことを延々議論されて待たされても困る」

「なんで魔法袋を貸さないといけないのかな?」

 意味が分からない、とバッサリ切ったので、彼等の意見は空回りとなった。

 ロトスの方が厳しくて、もっとスッパリ切り捨てていた。

「いや、なんで俺たちがそこまでやんないとダメなの? シウが竜人族に良くしてるのは、貴重なものもらったからだし、そもそも仲良しになったからじゃん。優しく受け入れて、感謝の気持ちばっかしかない竜人族とさあ、最初っからコソコソ遠目で観察して猜疑心の塊で精霊に偵察させるような相手に、どうやったらこれ以上親切にしてやれるのよ。逆になって考えてみたらよく分かるんじゃね? あんたらがやろうとしてるの『搾取』っつうんだけど、意味分かる?」

 ものすごく小馬鹿にしたような口調と顔で言うので、さすが上手いなあと感心した。

 なによりも、ロトスが言ってもあまり嫌味に見えない。

 人徳というか、聖獣の雰囲気だろうか。相手に聖獣だとはバレていないと思うが、とにかく「本当に嫌な奴」には感じられなかった。

 ただ、言葉は厳しいので、若手たちもグッと言葉に詰まったようだ。

 結局このことで、若手からの意見が止まったので、話は進められることになった。


 温泉については後回し。

 畑の様子を見る。土地にあった作物を育てることや、必要な資料の作成。シウが持っている種があれば譲るとも決めた。

 ヒュブリーデケングルの腹袋を簡易魔法袋に仕上げる方法を教える、というのも決まった。

 水路と新たな水源の確保については、シウが全部やってしまう。一応、水路に関しては保守もあるので、土属性魔法を持っている者に補助を頼んだ。

 食料を譲る話も出た。

 竜人族の里で、蕎麦の栽培が上手くいかなかった時のことを考えて大量に仕入れていたのだ。持ち越しても良いつもりで手に入れたが、溜まる一方だったので譲ることにした。

 小麦の在庫数を聞くとかなり少ないので、助けになるだろう。

 ヒラルスは対価を払うと言うので、無理のない範囲でと答えた。

 手先が器用な彼等は細工物を作っているようだし、何か気に入ったものがあればもらうことにする。


 しかし、これから冬になるというのに、食料の貯蔵量があまりに少ない。

 どうするつもりだったのか聞いてみたら、雪が深くなる前にもう一度街へ行くつもりのようだった。キルクルスたちにも護衛を打診していたとか。

「今から? 騎獣もないのに、徒歩だとかなりかかるでしょうに」

「ええ、ですから、数日内には送り出すつもりでした。が、使者殿の話もありましたので」

 食料が足りないなら融通してもいいよ、と竜人族らしい返事が来たようだ。ついでにシウも行くので問題解決になるかも、などと伝わったらしい。

 竜人族は気がいいというか、前向きな性質なのだなと改めて思った。



 畑や畜産、村の外壁周辺の見回りなどは午後からに決まった。

 その前に昼食を摂ろうということになり、チラチラと見つめられた。

 先ほど、強硬に反発していた青年団長のバルバルスはさすがにそうした姿を見せなかったが、どっちつかずで意見も消極的だった若手たちが見ている。

 プリスクスがみっともないから止めなさいと注意して、皆を広間から追い出そうとしたが、それを止めた。

「じゃあ、ちょうど良いので蕎麦粉を使った料理を作ります。オリーゴロクスで採れた野菜と同じものを使ってね。昨日もそうだったけど、意見はもらえなかったので。今日は意見を出すことを条件に、提供します」

「……いいのですか?」

「はい。その代わり、手伝いを。まさか手伝いもせずにタダ飯食べようって魂胆じゃないですよね?」

 冗談半分、挑発してみたが。

「手伝います! それで食べられるなら全面的に手伝いますとも!」

 と、元気よく女の子が手を挙げていた。

「ありがと。でも男性も手伝って下さいね」

 手伝いそうにないバルバルスに向かって言うと、フンと鼻息荒く返事して出ていってしまった。

 やはり手伝う気はなかったようだ。

 彼の取り巻きらしい手下の若者もついていき、残った面々は大きな溜息を吐いていた。


 会議で話したのはほとんど能力者ばかりだったが、厨房で働く者はレベル一という、ハイエルフの血をほとんど引かない者が多い。

 アエテルヌスもそうらしく、バルバルスからは見下されていると嘆いていた。

「それぞれに役割があるだけで、同じ人間なのにね」

 シウが調理しながら答えていると、補助をしていた厨房の者たちが一斉にこちらを見た。

「ちょっと勘違いしちゃってるんだね、彼」

「……そう、そうなんだ。前はそれほど差はなかったのに。俺たちはハイエルフ特有の魔法は持っていないが頑強で、外へ出る危険な仕事を請け負っていた。護衛として、能力者を守って外にも出たし、オリーゴロクスまでの危険な使者役も俺たちだ。お互いに尊重しあっていたのに」

「魔力が高くてハイエルフの固有魔法があるからと、調子に乗ったのよ」

 カリダという少女が――いやもう大人なので女性と言えば良いのか――困ったように笑って話す。彼女はレベル四らしいが、分け隔てなく接するので長老組からの信頼も厚いようだ。アエテルヌスも同調している。

 しかし、彼女は言い過ぎてしまった。

「先祖返りがなんだっていうのよ。狙われるだけだわ」

「カリダ!」

「あ……。ええと、その――」

 シウは苦笑して、聞いてないことにする、と告げた。

 彼女はホッとしていたが、シウは微妙な気持ちだ。

 ロトスは念話で、

(結局、能力者は能力者で差別があるってことだろ? カリダは先祖返りほどの力はなかったってことだなー)

 と、呆れた様子で伝えてくる。

 シウは肩を竦めることで、それに答えた。



 蕎麦粉のガレットは、評判が良かった。

 混ぜる小麦は少量でいい。それも評判の良かった理由のひとつだ。

 慣れないと蕎麦は美味しくないと思う人も多いが、ここ最近は貧しい食生活が続いていたらしく、とても喜ばれた。

 その場で、各家庭に緊急用として配ることも決められた。

 村では食材など全てが配給制らしい。まとめて備蓄されており、七日に一度配給する。

「火鶏の肉まであるとは……。本当に有り難い」

「真空パックという特別な方法で保存しているので保つはずですが、破れていると腐るので匂いなどで確認してくださいね」

 竜人族には恐ろしくて渡せなかった代物だが、繊細で猜疑心のある彼等なら大丈夫だろうと真空パックのものを渡してみた。

「あくまでも緊急措置です。取り引きとして納品したに過ぎません。今後は保管庫などに、狩った肉類を適切に処置して保存することおすすめします」

「はい。あの竜人族ができているのですから、我等もやってみせますとも」

 と、グラキリスは張り切っているが、彼等もやっぱり竜人族が大雑把なことを分かっているようだ。


 料理の味についてや調理方法など、気付いた点を皆が意見した。

 おとなしい人もいたが、なんでもいいから言ってみてとお願いしたら、ハーブを育てたいのだとボソボソ告げた。

 以前からハーブで調理したら少しマシになると言っていたそうだが、却下されていたらしい。

 森の中にあるから、そのために採取ヘ行くのは危険だと止められていたようだ。

 村で自生していたものは残念ながら山羊に食べられてしまったらしい。

「じゃあ、それも取りに行こう」

「いいんですか?」

「もちろん。だって、生きていく上で食べることって大事でしょう? 少しでも良くしようと考えるのはとても良いことだと思う」

「シウは食いしん坊だもんな」

「ロトスもね」

「そうだよん。でもそれが生きる原動力だったんだもーん」

 ロトスの何気ない言葉に、おとなしかった女の子はハッとした顔になり、無言で何度も頷いていた。


 キルクルスやクレプスクルムも含めた大食事会は、楽しい時間となった。

 そして午後から外へ出ると聞いて、二人共喜んでいた。

 体を動かすことが好きな竜人族だから、村の中で、しかも部屋の中で過ごすのは苦痛でしかないようだ。

 フェレスたちは言わずもがな。

 森へ行くよと伝えたら、きゃっきゃと嬉しそうに騒いでいた。

 それを、皆が微笑ましそうに見ている。

 アエテルヌスが以前チラとこぼしていたが、かつてこの村にも聖獣はいた。外の世界のルールを知っているため、バレると恐れてハッキリと明かしたわけではないが。

 竜人族の里よりも人が多いため、また希少獣が現れるかもしれない。

 その時、満足に食べさせてあげられる環境でないと。

 そう考えたら、援助する気持ちも増すというものだ。

 もちろん一番は、竜人族へおんぶにだっこをさせないための、自助努力を促すためである。

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