194 楽しい文化祭見学とリュカのお友達




 生産科の教室ではまだ早い時間ということもあり、人はそれほど多くなかった。

 これから混んでくる予想だ。

 ロトスは生徒たちの作品を眺めながら、わくわくした様子で楽しんでいた。

「うわっ、これ【フィギュア】じゃん!」

「可動式の人形だよ。式紙を使うと自動で動かすことも可能だし、普通に手でも動かせるんだ」

「うひゃあ、すごい。こっちのはめっちゃ精巧だし、あ、これ格好良い!!」

 子供みたいに喜ぶので、アマリアのブースで留守番をしていた従者のジルダは微笑ましそうに見ている。そして式紙を渡してくれた。

「どうぞ。お使いくださいませ」

「わあ、メイドさん! ありがとう!」

 使い方を説明すると、素直に喜んで稼働させている。

 すると周囲にいた人たちも寄ってきて、様子を眺め始めた。去年も最初に誰かが使い始めてから人が集まってきたのだなあと思い出す。

「うわあ、動いた! シウ、これ、めっちゃ面白い!」

 ロトスが楽しげに騒ぐのでお客さんたちが更に集まり、ジルダは少し大変なことになっていた。


 アマリアの手の平サイズ人形は人気があって、今やシリーズ化されているほどだ。

 服などの装飾品を手がける人も出てきて、ブース上部に飾りとして置いている人形の服は本物と同じ夜会服を着ていた。女の子モデルはもちろんドレスだ。

「この二体を組み合わせてダンスをさせることもできるんだよ」

 その複雑な式紙は高価だが、人形と共に売れているらしい。

 服を作っている人も、最初は趣味でやっていたのを、今では本業にしているとか。

 専業主婦の多いラトリシアの女性たちが集まって、縫っているそうだ。

 説明すると、ロトスはうんうん頷いていた。

「分かる。そういうの、あったあった。そんで、オークションとかで高い値段が付いちゃうんだよな。で、転売が出てきて――」

「ロトス、ロトス、落ち着いて」

「おっと。心の声がダダ漏れだったぜ。ていうか、面白いなあ」

「買おうか?」

「あ、いいや。面白いけど、人形で遊ぶ時期はもう過ぎた」

「さっき遊んでたくせに」

「……俺ももう良い大人なんだ」

「でも、大人の男性も買うみたいだよ?」

「それは大きなお友達だろ? 【オタク】と一緒にするでない」

 何やら、ロトスにはロトスの言い分があるようだ。

 遠慮しているならと思ったが、そういうのでもなさそうだから、まあいいかと話を終わらせた。


 シウのブースには、車椅子を置いている。

 アントレーネの赤子たちのために作った歩行器が、あっという間に用済みとなったため、何かに再利用できないか考えて辿り着いた。

 歩球板に近く、スピードを出さない代わりに動力源となる魔核や魔石があれば浮かせることが可能だ。

 よって、移動がとても安定している。

 ロトスには「人をダメにする道具その二」と言われてしまった。

 ちなみに、その一はコタツのことだ。


 こうした移動のための補助道具は結構あちこちで出回っているため――特に王城などでは高位の人の移動に使われるから――目新しさはない。

 今回はシウのブースは静かなものだった。

 一部、商家の人が褒めそやしてくれたが、あれはリップサービスも入っている。

 確かに滑らかに進めるというのは自信作だが、画期的なわけではない。

 ロトスは試作機で遊んでいたこともあり、シウのブースは素通りしていた。



 次に、早めの昼ご飯をと魔獣魔物生態研究科へ赴いた。

 今年も魔獣を狩ってきて、料理を披露している。隣室では解体教室もあって、意外と人が集まっていた。

 何故か、解体のスピードを競うコーナーまでできている。

 用意された火鶏が山のように並んでいた。

「ああいうの、市場で見かけるやつみたい」

「だよね」

「もう俺も慣れたけど、参加する人の気が知れないなー」

 チラッと覗いて、ロトスはすぐさま廊下に戻ってきていた。

 さて、昼ご飯だ。

「俺、火鶏のカツカレー! 大盛りで!」

「ここの大盛り多いけど、大丈夫?」

「えっ、いつもの俺の量を超える?」

「……超えるかも。冒険者の人が来るようになって、急遽、量の設定を変えたからね」

「あ、そういうのやっぱあるんだ。冒険者は大食い設定みたいな。へー」

 ロトスはまだ冒険者たちとの本格的な飲み会には行ったことがないので、彼等のことは少ししか分かっていない。チラッと会話した程度だ。

「今度、冒険者たちとの飲み会に行く? レーネも誘ってさ」

「行く行く! やった!」

 やはり年頃の青年らしく、行ってみたかったのか。ウキウキとした様子で頷いていた。


 カツカレーを食べ終わると、部屋の隅にある希少獣待機コーナーへ行ってみた。

 認識阻害を強固なものに変えているため、誰もロトスの本性に気付いていないようだ。この人なんだかすごく好き、という感覚らしい。

 ロトスは希少獣たちのアイドルのようになっていた。

 様子を見に来たアロンソがしきりに不思議がっていた。



 午後はリュカたちを表門まで迎えに行くところから始まった。

 リュカは同じ薬師門下のお友達と一緒に、停留所近くの隅で待っていた。

「ごめん、待たせちゃったね」

「ううん。さっき来たところなんだよ!」

 リュカは遠慮するので信じてはいけない。周りのお友達に視線を向けると、彼等もシウの言いたいことが分かったらしくて阿吽の呼吸で答えてくれた。

「ちょっとだけ早く着いたけど」

「大丈夫だったよ」

「僕等、ちゃんとリュカを守ってたよ」

「あたしも守ってたわ!」

 七歳から十歳ぐらいまでの子供たちは、リュカがハーフであることから嫌な視線をもらわないようにと頑張ってくれたようだ。

「そうなんだ。みんなありがとうね」

「ううん!」

 リュカは恥ずかしそうにてれてれしながら、尻尾をゆらゆらさせていた。

「じゃあ、一緒に学校を見て回ろうか」

「はーい」

「あ、シウお兄ちゃん、今日はよろしくお願いします!」

「「「よろしくお願いします!」」」

 礼儀正しく挨拶をする。彼等の師匠はこうしたところも、仕込んでいるようだ。


 何度か顔を合わせているしリュカからも話には聞いていたが、彼等もまたシウのことはよく知っているらしい。

 リュカから自慢のように聞かされているのだと、笑顔でバラしてくれた。

 リュカが「恥ずかしいからやめてよー」とふざけるように体をぶつけているので、同年代との仲の良い関係にホッとする。

 女の子は一人しかいない。薬師を目指す女の子は少ないそうだ。

 薬草を扱いたいのならば、大抵は魔女に師事するのが普通らしい。そして親は魔女に預けるのをとても嫌がる。婚期を逃すかららしい。

 どうしても「魔女」という言葉に人々は引いてしまうそうだ。変な話だが、ハーフに対する差別意識も似たようなものだから、地域性の問題かもしれない。

「だから、あたしは将来は薬師の人と結婚して夫婦でお店をやるの」

「偉いねえ」

 シウはニコニコ笑って頷いたのだが、ロトスは違う方に考えが及んだらしい。

「ていうか、そんな小さいうちから将来のこと考えてるの?」

 びっくり顔で思わず口を挟んだらしいが、女の子は冷めた顔で答えていた。

「ほらあ。男の人はのんびりなんだもん。しっかりしないといけなくなるの。分かる?」

 まだ九歳とは思えない発言に、シウもロトスもたじたじだった。

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