大人になるということ

190 文化祭準備と養育院の仮認可




 学校が始まると、文化祭の準備も慌ただしく始まった。

 今年は委員に入っていないシウだが、去年のことを知っている生徒に何度か相談された。

 生徒会長のグルニカルからは何度も委員へ入るよう要請を受けたが、お手伝いだけで断っている。

 二年度生としてクラスの文化祭準備にも本格的に参加しなければならないので、申し訳ないが正式な参加は無理だと伝えた。


 プルウィアは張り切っていたが、彼女もクラスの準備があるので忙しそうだった。

 その為、魔獣魔物生態研究科の方は、彼女やルイスたちの分も含めてシウが頑張ることにした。


 この文化祭は、来年は行わないことになっている。

 来年は、数年に一度ある、魔法競技大会がラトリシア国主催で行われる。あちこちで予選大会もあるが、基本的にはシーカーの一番大きな闘技場を使うため、生徒会が主軸となって働くことになるのだ。

 もちろん、生徒たちも総動員される。

 競技にも全員が参加を余儀なくされるし、更には大会運営にも関わるとあって、とてもではないが同時期に文化祭などやってられないのだ。

 しかし、ある意味、文化祭は良い催し物でもあった。

 毎回、魔法競技大会では何かしらの問題が起こり、対応に苦慮していたそうだ。

 数年に一度ということで、生徒が入れ替わっていることもあり、後輩に引き継げなかったのだろう。

 今の文化祭は二回目だが、ある意味で良い予行演習にもなっていた。

 グルニカルも、マニュアル作るんだーと言って、死んだ目で語っていた。

 マニュアル化を勧めたのはシウなので、もちろん、そこはお手伝いをする予定だ。




 山粧うの月は、文化祭の準備でほとんどが過ぎていった。 

 他に、サタフェス時代の宝飾品を国営美術館に寄付するという案も進んだ。

 パーセヴァルクと闇ギルドの職員が協力して、寄付者不明のまま国に掛け合ってくれたのだ。

 あまりに妙な代物は提出していないが、それ以外は全て放出した。

 美術館館長からは、しつこく寄付者について問い合わせがあったようだが、あんまり探ると引き上げるぞと脅したら即引いたそうだ。

 あと、ビルゴット教授が美術館の名誉研究員に収まっていて、笑ってしまった。

 どんな手を使ったのか、やることが早い。



 養育院についてはぽつぽつと話が舞い込んでいた。

 まだ正式な許可は降りていないのだが、王の秘書官ガヴィーノが話を広めてくれている。おかげで貴族家からの問い合わせもあった。

 週末にはなんと、ヴィンセントが第一秘書官を連れて視察にも来た。

「計画書を見た時にも思ったが、想像以上に広いな」

 シウも立ち会っているが、案内役の神官ネイサンは緊張を隠して施設の説明をしていた。

 元冒険者たちは平伏したまま動かないので、ヴィンセントがものすごく冷たい視線を向けていた。

 そう言えば彼はこういうところがあったよなあと初めて会った時のことを思い出す。

 すると、ヴィンセントがシウを見て冷ややかに笑った。

「ろくなことを考えていないな?」

「いえ」

「ふん。お前は顔に出やすいから、気をつけるのだな」

「はい」

「ところで、シュヴィは今どこにいる?」

「さっき、あのあたりを飛んでいましたね」

 と、斜め上を指差した。そこは高い天井のガラス窓が見える場所だ。

 もちろん、シュヴィークザームが室内を飛んでいるわけではない。彼は屋敷を外から見ると言って、驚く職員らの前で転変し、ふらふらと飛び回っているのだ。

 ポエニクスを見たことのない人ばかりなので、皆、動転してしまって暫く使い物にならなかった。

 慌ててネイサンがヴィンセントたちを屋内へ案内したのだ。

 シュヴィークザームは今も屋根の上あたりを飛んでいる。

 一応、フェレスとブランカが護衛がてら一緒にいるが、本当の護衛はクロである。更に高度上空から警戒しつつ見回っていた。


 ヴィンセントは介護ベッドを見て、本当に使用に耐えうるのか聞いてきたりと案外まともな視察を続けていた。最後に職員へ声を掛けることも忘れない。

「希少獣は、国のために尽くしてくれたものばかりだ。誠心誠意、仕えてほしい」

「「「はっはいぃぃ!!!」」」

 平伏したまま答えた彼等に、ヴィンセントは目を細めて軽く頷いた。

 傍らでジュストがネイサンに書類を見せながら伝える。

「仮の運営許可書です。正式に認められましたので草枯れの月より活動を始めて結構です。月終わりに、王城へ上がるように。国王陛下より正式書類を賜ります」

 伺候の案内状と、お墨付きの仮許可書がネイサンに渡された。

 これで、国や貴族家から、扱いかねている老獣を引き受けることが可能となった。

 試行錯誤はあるだろうが、徐々に慣れていき、いずれは安らぎの場所にしたい。

 ネイサンは緊張しながらもしっかりと、受け取っていた。


 ヴィンセントとは施設の話や介護についてを歩きながら話していたが、途中お茶の時間を設けた時に、ふと思い出したように彼が語り始めた。

「子供らと菓子を作ったぞ」

「あ、そうなんですか。シーラ様やカナン様は喜んでいらしたでしょう」

「ああ。あれほど喜ぶとはな」

 と言っても、庶民の子のように手を叩いてはしゃぐ、などではないだろう。

 王族の子なので、控え目に喜んだのではないかと想像して、微笑む。

「あれらが作ったものを褒めてやると、シーラなどは泣いていたな」

 日頃、彼がどれだけ娘を可愛がっていないのかが窺える話だ。

「カナン様は?」

「あれも珍しく、抱きついてきた。最初は両手をこちらへ向けるので意味が分からずにいたが――」

「あ、抱っこですか。って、抱っこしたことないんですか!?」

 びっくりして思わず声を上げてしまった。

 そして、シウの驚きように、ヴィンセントも父親としてのまずさに気付いたのか、少し視線を逸らした。彼らしくもなく珍しい。

「……とにかく、抱き上げると、甲高く叫ぶので困ったものだが」

「それは喜んだということではないでしょうか。幼児というのは、きゃっきゃと騒ぎますから」

「む」

「僕のところにも、赤子が三人いますけど、そりゃあもう毎日きゃっきゃと騒いでいますよ」

「……赤子がいるのか? 三人?」

 不審そうに聞くので、引き取った獣人族の奴隷が産んだものだと説明した。本当は奴隷と言わずにいたかったのだが、後で知られて変に勘ぐられても困るので正直に話したのだ。

「奴隷の産んだ赤子を、三人、とな」

 傍で話を聞いていたジュストが唖然とした顔でシウを見ている。

 シウはにっこり笑って頷いた。

「ものすごく可愛いです。もう、走り回ってますよ。今日も背負ってこようとしたんですが、さすがに殿下に失礼だろうと止められてしまいました」

 ロランドに。

 カスパルは笑っていたけれど。


 その後、赤子たちがどれほど可愛いか力説していたら、ヴィンセントは毒気を抜かれたかのように、溜息を吐いていた。

 最後に、

「では今度は、高い高いをしてやろう。それでいいのだな?」

 と、何故か張り合われてしまった。シウが、小さくてもそれぐらいはやれるのだと自慢(?)したからかもしれない。


 養育院では、食事は騎獣専門の料理店ガウディウムから仕入れることになっている。

 しかし、老獣それぞれの様子も違うため、個々に合わせた食事が必要だろうと厨房も設けられていた。

 ヴィンセントの話題も厨房を見てからのことだった。



 養育院のことは徐々に噂が広がっており、見学に来る人も増えていた。

 近所の主婦も気になるらしく、ヴィンセントが来てからは特に怪しくないと判断して、施設内へ入ってくるようになった。

 実際、ポエニクスがうろちょろ飛び回っていたのを見た人も多く、胡散臭さは消えたようだ。聖獣様がいるということで安心して見学していったらしい。

 ご近所とは仲良くやってほしいので、元冒険者の厳つい男たちも下手な笑顔を作って頑張ったとかなんとか。ネイサンが笑って教えてくれた。

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