140 休日の過ごし方と聖獣達との再会
炎踊る月の最終週、火の日もコルディス湖で過ごした。
ただし、狩りや訓練ではなく完全な遊びだ。
昨日のうちに採取はしていたし、ロワル王都のギルドで受けていた採取依頼の仕事も達成している。だから、今日はのんびりしようとなったのだ。
と言っても、フェレスたちにはあまり変わりない。
彼等は狩りも訓練も遊びのひとつになっている。
ククールスは怠け者なので、休養日だーと朝から酒を飲む段取りだ。
シウはスタン爺さんとアシュリーを連れて来て、湖畔でのんびりすることにした。
アシュリーを含めた赤子四人組はサークル内にて遊ばせ、アントレーネが見ているというので任せてから湖へ船を出した。
手作りの小さな船は徐々に居心地良くなっており、スタン爺さんも酔うことなく楽しそうに釣りをしている。
シウとロトスはカヌー型の船に乗って、泳ぐフェレスやブランカと競争した。
クロは希少獣とはいえいくらなんでも鳥型なので泳がせるわけにも行かず、やりたいという本獣の意見は却下して船縁へ立たせ、見張り番だ。クロの場合、水に入ると溺れ死んでいるのではないかという状態になって怖いのだ。一応、潜水もできることは分かっているが。
そんなこんなで泳いだり、潜水して湖底の石を拾ってきたり、釣果を競ったりと楽しく過ごした。
ククールスも時々参加しては、ケラケラ笑いながら釣りをして、ブランカに引っ張られて湖に落ちるなどしていた。
赤子のところではアントレーネが、放り投げるように子供たちを高い高いしていた。
「ちょ、レーネ、それはいくらなんでも」
「あ、いや、シウ様。アシュリーにはやってないよ? 人族の子は壊れそうに繊細だからしないけど、でもほら、この子たちは頑丈だし」
忙しい仕事人間の父親が休日に子供を豪快に扱うような姿に見えて、シウとロトスは顔を見合わせて笑った。
アントレーネの子供たちもきゃっきゃと笑っている。
放り投げられても、あばあばと楽しそうなのだ。
アシュリーもそれが見えるのか、手と足をバタバタ振ってきゃあきゃあと笑っていた。
お昼は湖畔でバーベキューをして、午後も近辺を散策したりする程度でゆったりと過ごした。
夕方には早めに転移で戻り、みんなでヴルスト食堂へと食べに行った。
遊び疲れた赤子四人はぐっすり寝ており、今日はどんな遊びをしたのとエミナが不思議がっていた。
そろそろラトリシアへ戻る算段を付けなくてはと思っていたら、ジークヴァルドから連絡が来て、水の日は王城へ行くことになった。
ロトスは連れていけないが、フェレスとクロとブランカはお供をする。
「ロトスは今日は家にいる?」
「ククールスたちとギルド行ってくるー」
「あ、採取したやつ出さないとダメだもんね」
「うん。その後、ブラブラしようって言ってたから付いていく」
「大丈夫かなあ。ククールス、ふらふらしてるし」
「レーネに付いてきてもらおうかな?」
「うん。そうして。子供たちは僕が連れていくよ」
先日も研究員や調教師の人たちは赤子二人を甲斐甲斐しく面倒見てくれたし、嫌な顔をする人はいなかった。
今回はブランカもいるので三人まとめて連れていけるだろう。
ブランカにお願いすると、いいよとしゃがんでくれた。赤子用の騎乗帯を付けさせてくれるようだ。
飛竜大会の時のように、体の左右にスポッと入れておける抱っこ帯と、上に一人乗せられるようにしたものを付けた。
アシュリーが離れるのを寂しそうにしていたが、彼女は連れ出せないので置いていく。
スタン爺さんが微笑ましそうに赤子を乗せたブランカを見る中、シウたちは出かけた。
差し回してくれた馬車の御者は、やっぱり目を丸くしてシウとその後ろの面々を見ていたが、黙って受け入れてくれた。
王城の門でも案の定、兵士たちが何度も確認してきて驚いている。
「……面白いことをするんですね」
思わずといった様子で口を開いた兵士は、上司に睨まれて慌てて頭を下げていた。
「今日は面倒を見てくれる人がいなくて。この子の訓練にもいいので乗せてるんです」
「そうなんですか。いや、立派な騎獣なのに怖がらないので、つい」
「いえいえ。でもそうですよね。普通は怖いのかな。あ、ちゃんと調教も済ませてますし、この子たちも生まれた時から一緒なので。大丈夫ですよ」
シウが説明すると、彼やその上司たちもなるほどと納得して頷いていた。
今回は直接、騎獣管理塔へと馬車は向かった。
ジークヴァルドは予定が入っており、シウだけの訪問だ。午後にはまた会えるらしい。
塔で降ろされたシウを待っていたのは大勢の研究者や調教師たちだった。
彼等に歓迎されて、塔の内部を抜けた先の、聖獣の楽園へと足を運ぶ。
門を開けた兵たちは、皆が面白おかしい顔をしていた。というのも、聖獣や騎獣たちが待ち構えていたからだ。
「こんなに大勢が門の前で待っていることなんてないんだよ」
兵の一人が教えてくれた。
彼等と共にいた調教師の男性もだ。
「今朝、シウが来るよって教えたらそわそわしてね。さあ、みんな、そこを退かないと中に入れないよ」
「がうがうっ」
「くぃーっ」
「ぐあっぐあー」
以前見た顔の他にも増えており、噂を聞いて師団にある騎獣隊獣舎から駆けつけたようだ。
「もしかしてブラッシング待ち? でも一度に全員は無理だよ?」
「がぅぅぅ……」
分かっているそうだ。なので前回してもらったものは我慢すると決めたらしい。すごく残念がっていたが。
なので、調教師の申し入れにより、ブラッシング方法やマッサージに使う道具などを教えてほしいと頼まれた。
今回のやり方を見て学ぶそうだ。
王城に勤める人たちだから、偉そうな人もいるのかなと思ったが、穿ち過ぎだったらしい。皆、希少獣が好きでたまらないのだろう。
シウは、喜んで教えてあげることにした。
その間、フェレスは研究員たちにもみくちゃにされかけて、そして逃げていた。
「ああっ、そんなあっ」
「あはは。フェレスは好きだと思ってくれる人には懐きますけど、ベタベタ触ると嫌がりますから。でも他の希少獣たちもそんなものですよね?」
「そうだね。ったく、オラフはすぐ触りたがるんだから。相手は知能のある獣だと言っているだろう?」
調教師の偉い人に怒られて、若い研究員はしょぼんとしていた。
フェレスはその後、たくさんの聖獣や騎獣を前に興奮して突進していた。
物怖じしないのが彼の良いところだ。
あそぼーと駆け寄って、フェレスがシウの騎獣だと知ると、皆が興味を持って接してくれているようだ。
ブランカも行きたがっていたので騎乗帯を外してやる。ただし。
「くれぐれも皆さんに迷惑かけないように。フェレスの言うことをちゃんと、じゃなかった、クロの言うことを聞くように」
遊びに夢中のフェレスでは心配なので、クロに一任することにした。
クロは任せてと胸を張って、というか膨らませているので撫でてあげて二頭を送り出したのだった。
赤子は大型サークルを作ってそこに寝かせておく。最近よく動き回るので、スタン爺さんの居間程度の大きさに広げた。
研究員には従者もいて、中に女性も多くいたので彼女たちが面倒を見ましょうと名乗り出てくれたから任せる。
良い休憩になるからと、快い申し出だった。
シウの前に並ぶ聖獣や騎獣を次々とマッサージ&ブラッシングしながら、調教師たちにどうやればいいのか説明した。
「いつも彼等の言う通りにやっていたのだが、なるほど、こちらから敢えてポイントを外すのも大事なのか」
「だって、本獣にも気付かない部分ってあるでしょう?」
「そうだなあ。顔をそうやってもみほぐすというのはなかったし、首も急所になるからか誰も揉んでほしいとは言ったことがないよ」
他に関節あたりをぐるぐる回してあげるのも良い。柔らかくする意味合いもあるし、意外と気持ち良いのだ。人間でも体を丁寧に動かしてあげると気持ちが楽になる。あれと同じだ。普段使っていないような箇所を柔軟体操させてあげると、良い。
「ブラッシングも、強めにやっても良いみたい。肌を刺激するから分泌物が出て毛もつやつやしてくるし」
「なるほどなあ」
「このブラシもまだあるので、置いておきましょうか。マッサージ用の革もありますし。こちらで加工するなら素材ごと渡してもいいですよ」
「いいのかい!」
「ああ、だったらすぐ会計係を。君、すぐ塔の担当官を連れてきてくれ」
部下らしき男性に頼んで走らせていた。
そうか、お金をもらわないといけないんだった。シウは思い出して、苦笑した。
でも相場が分からないので、後ほど調べてもらってギルドの口座に振り込んでもらおう。
それにしても鬼竜馬と黒鬼馬の尻尾ブラシは大人気だ。皮も使えるし、肉は大変美味しかった。まだ在庫はあるものの、これから積極的に探して狩ってみよう。ブラシも革も消耗品なので、いつかなくなってしまう。
次の目標にもなったなと、シウは心のメモに書き記した。
そうした触れ合いは午前中いっぱい続き、お昼は塔でご馳走になった。
午後は、フェレスのことを知りたい研究者たちのために彼を貸し出して、ブランカに興味を持った調教師たちは彼女を囲んでお話し合いだ。
ただ、ブランカは成獣になったとはいえ「ブーたんはー、あのねー」といった喋り方しかできないので、意思の疎通がかなり大変そうだった。
その間、シウは赤子とクロとで遊んでいたが、先日出会ったアスプロアークイラがとことこ近付いてきたので一緒に遊ぶことにした。
アスプロアークイラはまだ幼獣なのに、言葉もしっかりしてきているようだった。
クロとのお話も普通にしているので、会話だけなら大人同士のものだ。
ただ、まだ上手く飛べないし、全体的にまるまるっとしているので幼獣だというのが分かる。
「鳥型は大人になるのが早いって言うが、会話を聞いていたら本当だと思うな」
「あ、はい。そうですね」
調教師の中でも上長という役どころの人が来て、サークル内を見下ろしてくる。
「この子はまた特に謙虚でなあ。わきまえているというか、控え目なんだ」
「あ、クロもです。でもだからかな。クロに仲良くしようって来たのは」
「ははは。そうかもな。似た者同士かあ。他のは、元気いっぱいだからな」
そう言うと振り返って草原を見る。皆、思い思いに走り回って、取っ組み合いになり、無邪気なものだ。
「……この子もなあ。ジークヴァルド殿下が好きなんだけど、思い切って飛び込むこともできないし、遠慮してんだよな」
「ジークも彼女のことが好きなんですよね?」
「ああ、気に入ってるな。……ていうか、アスプロアークイラが雌だって気付いていたのか? 鳥型は分かり難いのに」
鑑定しました、とは言えずに、シウは苦笑いで誤魔化したのだった。
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