139 一部鑑定と筋肉とハーレム禁止令?




 光の日は全員でコルディス湖へ転移して、狩りをした。

 ブランカも随分様になってきて、パーティーでの役割や、自分の立ち位置も理解している。

 クロは複雑な飛び方をマスターして、俊敏に森の中を飛び回っている。魔法を繊細に扱うのは彼が一番上手い。

 フェレスも三頭での連携を考えるようになっており、随分成長したと思う。

 シウも負けないように、ククールスやアントレーネの手ほどきを受けて新たな技を得ようと張り切った。


 ところで狩りの最中、ククールスにそれとなくハンスのことを相談してみたらシウの悩みと勘違いされてしまった。

「なんで僕が子供の出来やすい薬を欲しがるんだよ」

「いや、だってほら。年頃だし」

「相手いないのに~?」

 ロトスが早速からかってくるので、げんこを振るう仕草を見せたらきゃーと走って逃げていった。

 途中、興奮したのか転変してウルペースレクスの姿で走っていく。彼のことはフェレスに任せて、シウはもう一度ククールスに問うた。

「知り合いの人が、子供ができないから悩んでるの。女性四人を相手にして誰一人できないってことは――」

「男の種が悪いんだろ」

「だよねー」

 なのに、何故かこういう時は女性が責められるのだそうだ。ハンスが自分に問題があるかもと言い出したのはものすごく画期的な発言なのである。

「医者は問題ないって言ってるらしいけど、そんなことどうやって分かるんだろうね」

「さてね。あ、鑑定したらどうだ?」

「あ、そっか。待って、でも、僕がフル鑑定できることは知られたくない」

「おっと、そうか。そうだった」

「でも鑑定したら原因は分かるのか。フル鑑定じゃないとダメだろうなあ」

 シウが嫌そうな顔をしたので、ククールスがなんで? という顔をする。

「ものすっごく大量の情報が一度に襲ってくるから頭がパンクしそうになるんだ。実際には処理できているんだけど、気持ちの問題?」

「へえ、鑑定って極めたらそうなるのか」

「簡易鑑定を覚えたから、それだと表面的な、たとえば名前と基本ステータスぐらいしか出てこないんだけどね。フル鑑定だと細胞レベルかってぐらいつらつら出てくるんで、抜粋作業がちょっと面倒くさい」

「へえー。そんなものなのか。簡単にここだけ知りたいってできないのか?」

「だってほら、そこが原因だって分かってるなら良いけど」

「……今回は分かってるよな?」

 そう言って、自分の股間に目をやる。ついでシウの股間あたりにも視線を向けた。

 シウが無言になると、ククールスは焦って手を振った。

「あ、いや、素人考えだよな! 悪い!」

「……ううん。そうだよね。そこから先に調べたっていいんだ。なんで思いつかなかったんだろう」

 いつもフル鑑定の結果を検索したりなどして抜粋していたが、数秒か数分の時間とはいえ、その時間は無駄だった。

 鑑定箇所を最初から絞って視れば、もっと簡単だったのではないだろうか。

 今までなんという無駄な時間を過ごしていたのだろう。

 シウはハッとして、すぐさまククールスの股間をガン見した。

 すると直感的に気付いたのだろう、ククールスが手でバッと股間を覆った。

「やめろ、俺を見るな!」

「ちょっと試すだけだから。痛くないって。大丈夫だから!」

 人体の一部だけを鑑定できるかどうか調べようとしたのだが、後ろからアントレーネに拳骨を食らってしまった。彼女の片方の手には首を掴まれてぶら下げられた様子のロトスがいて、こちらを見てヘラヘラ笑っている。

「きゃんきゃん!」

 やーらしー、とからかってきた。アントレーネは正確な言葉は分からないだろうに何を言ったのか理解したらしく、自分の顔の前にロトスを持ってくるとメッと睨んでいる。

「子供が聞いていい話じゃないよ。あと、まだ幼獣なんだから勝手にふらふらひとりで走り回ってちゃダメだ。言い付けを守れないのなら、ブランカみたいに厳しく躾けるけど、どうかい? ロトス様」

「きゃん……」

 尻尾が丸まってしまった。

 シウが笑っていると、アントレーネはシウにも視線を向けてお怒りモードだ。

「シウ様。子供たちもいるんだから、言葉は選んでほしい。子作りの話なんて、本当はシウ様にだってまだ早いんだ。でも研究や勉強のことだろうと思うから、あたしも強くは言わない。けど、ロトス様や、まだまだ精神的に幼いブランカの前では話さないように」

「はい」

「ククールス、あんたもだよ。大体あんたがロトス様に余計な話をするから、まだ小さいのに女好きなんだ」

 彼女はククールスも説教して、ようやく気が済んだようだった。


 よくよく聞けば、ギルドで仕事を受ける際にモテモテなので、ロトスが「兄貴」と呼んで慕っているらしい。二人して、誰が好みか品定めしていたらしく、アントレーネは恥ずかしかったそうだ。

 彼女はサバサバした女性で、大人としての付き合いも心得ているようなのだが、こと子供がそうしたことに興味をもつのは反対らしい。

 また、品定めなども気に入らないのだそうだ。

 気に入ったら即誘って、相手もOKなら寝る。そういうシンプルさが好みらしい。

 これはこれで面白い。

 とにかく、シウとククールスも素直に謝った。


 それにしてもロトスが幼獣とはいえ、かなり大きくなってきているのに、片手で持ち上げるとはすごいものだ。

 アントレーネは虎系の獣人族なので、人族よりもずっと体格が良い。戦士として一線で働いていたこともあるから他の獣人族よりもやはり力はあるようだが、感心してしまう。

 ククールスも、彼女の力強さには敵わないと笑っていた。

 二の腕を出して、筋肉の違いも見せてくる。

「ほらほら、俺こんなだぜ」

「でも筋肉はあるよね。僕はまだぼよんって感じ」

 鍛えているので筋肉はあるのだが、子供が持つ柔らかい脂肪が周りを囲んでいるようだ。適度さがいいので、シウもこれはこれで納得している。将来的にはククールスのような細身の筋肉質になれたらいいなと思っているが。

(細マッチョだな!)

「そうそう。あ、ロトス、人型でね」

(はーい)

 返事をして人型に転変する。自力での装備変更も最近は全く問題なく、シウが付与した魔法はもう使っていない。

 彼は人型になるや、二の腕を出して見せた。

「どうだ、俺のは。って、ぽよぽよしてるなあ。獣姿の時はもっと肉肉しいのに」

「なんだそれ、肉肉しいってのは。ロトスは面白いこと言うなあ」

 ククールスが笑ってロトスの頭を撫でた。

「そう? ところでさ、俺は聖獣なんだから、将来はもっとゴツゴツするかな?」

「どうだろ。僕が出会った聖獣の人型はほっそりしているのが多かったかな。シュヴィも細いし」

「あの人、細いっていうか、ひょろってしてるじゃん。【もやしっ子】みたいでやだなあ」

「じゃあ、人型の時にも鍛えないとね」

「うへえ。獣姿でも狩りの勉強して、人型でも鍛えて――」

「あと魔法の勉強もしないとね。せっかく覚えが良いんだから、今度から複合技とかも積極的に覚えていこうよ」

「うげ」

 ゲーム世代でイメージ力はシウよりずっと上のロトスは、魔法を覚えるのも早かったのだが、飽きるのも早かった。最近は狩りや遊びに夢中だ。

「じゃあ、狩りに魔法攻撃も取り入れようか。レーネ、お前も補助してやれよ」

「分かった。あたしは戦いのときには身体強化ぐらいしか使わないからね、兵士時代の補佐役を思い出してやってみるよ」

 大人二人がロトスのためにやる気になったので、彼も「はーい」と返事をしていた。



 午後も狩り&訓練を続け、シウだけ少し抜け出して爺様の家の見回りを済ませた。

 その後、またコルディス湖に戻って夕飯作りだ。

 夕方になるとお腹を空かせた皆が戻ってきて、食べ始める。

「やっぱりクロが一番魔法の扱いは上手いな。切り替えがすごいわ。自然降下していたのに、スッと曲がって木の後ろに隠れたり」

 ククールスにも体内魔素の循環などを覚えてもらったので、その流れから他者の魔素の循環にも気がつくようになった。

 シウほどではないけれど、じっくり見ていたら魔法の扱いが上手かどうかぐらいは分かるようになっている。

「最小限の魔力でやってるよな? やっぱりシウが教えたのか?」

「うん。できるだけ無駄を省いて使うと、いざって時に魔力が保つからね」

「俺も体内の魔力を感じるようになってから、結構無駄遣いは控えたぜ」

「あたしはまだまだだね。身体強化の使い方も下手だよ」

「獣人族は魔力はあまり使わない方だし、操作も苦手らしいからな。直情的なとこあるし。ぼちぼちやればいいんじゃないか」

 ククールスが慰めると、アントレーネもすぐには無理だと思うのか肩を竦めて頷いていた。

「じゃあ、俺もぼちぼちやるー」

「いや、お前は覚えろよ」

「えっ、ククールスひどい。ひいきだ」

「ていうか、ロトスは聖獣だろうが。あと立場的にヤバいんだからそこは必死になって覚えろよ」

「……えーん、シウ、ククールスがいじめるー」

「そういう小芝居はいいから。な!」

 仲良くなった二人の会話を、アントレーネは呆れたような顔で見ていた。

 そしてシウを見て、彼等を指差しながら報告してくる。

「シウ様、この二人こんなことばっかりギルドでやっていたから、妙に女受けしてね。小さい子と仲良くやってるもんだから、軽い男でも本当は良い奴、って思うらしいのさ。ロトス様はロトス様で、お姉ちゃん綺麗! と言って抱きついたりしてるし」

「あはは」

「笑い事じゃないよ。こんな小さいうちからナンパ男になってしまうなんて。男は成人して狩りができるようにならないと、女を侍らせちゃいけないんだ」

「あ、そうなんだ」

「そうさ。あと、同時に複数と付き合うのは獣人族でも褒められたもんじゃない」

 アントレーネのセリフに、ククールスとロトスが身を乗り出してきた。もう食べ終わっているので、行儀が悪いとは言えないが、食器の上なので微妙だ。

「せめて食器を寄せて。ほら」

「はーい」

「つーかさ、お前らって割と誰とでも付き合うってイメージあったんだけど」

「気が合えばね。でも、ちゃんと口説くし同時に複数と、ってのはないよ。そこはマナーってもんだろ?」

「へえええ」

「え、俺、ハーレムやろうと思ってたのに」

「ハーレムってのはなんだい?」

 アントレーネはまだ知らないようだ。シウはチラッとロトスを見てから、自分は説明しないぞと視線を反らした。ロトスは自分の失言が招いたので、上目遣いにへらりと笑いながらアントレーネに話し始める。

「えっと、男ひとりに、複数の女の子が付き合うというか――」

(そんで男をとりあったりしちゃったり、えへ)

 何故最後を念話で伝えてきたのか不明だが、シウは視線を反らしたまま、食器を片付け始めた。

「ロトス様、やっぱり教育が悪かったんだね。それじゃあダメだ。いいかい、そういうことをしていいのは王だけさ。あんたは聖獣だけど、それはいけない。女の子に嫌われちまうよ。ちゃんと誠実に口説かないとダメだ。複数と付き合いたいなら、誠実に、順番にやりな。いいね?」

 それでいいのかしら。アントレーネの価値観にはあまりついていけそうにないが、彼女が彼女なりにロトスを心配しているのは明らかだったので口は挟まなかった。

 ロトスもよく分からない顔をしながらも、はいと神妙な顔で頷いていた。

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