127 余計なお世話と朝練




 アドリアンにそれとなく話そうか迷ったが、よく考えたら濁してもすぐバレる嘘なので、正直に話す。

 もちろん、余計なところは隠しておく。

「その、アレクサンドラ様とお話する機会がありまして、子供相手だからと気さくになさっておいでで」

「ふむ。あの王女様が気さくにねえ」

 どうやら彼女を知っているようだ。王族同士、会う機会も多いのだろう。シウよりよほど付き合いがあるはずだ。

「ご結婚相手を自由に選べないようですから、つい、子供の無邪気さでひどいことを聞いてしまったんです」

「ああ、なるほど。でも気にしなくていいよ。普通の人には理解できないことも多いだろうからね」

(輝く笑顔だぜ。なんだコイツ、マジ、イケメンだな)

(ロトスー)

(いいから。シウ、説明説明。ていうか回りくどいってば!)

(もう!)

「それで、どのような方が好みですかって質問をしまして」

「へぇ。それはまた――」

「で、勇敢な方、とお答えされてですね」

「ふうん」

「オスカリウス辺境伯みたいな? って聞いたら、ちょっと違うらしくて」

「ちょっと?」

「いえ、大いに違うみたいでした」

「ふむ」

「こう、ハッキリ申し上げますと、粗野なので苦手だと。どうやら、きちんとされた上での勇敢さがあればということで、しかもお仕事をされる方が良いとも仰っていてですね」

「そうなの!」

 あざとい顔と口調でロトスが同意し、にこにことアドリアンを見上げる。

 彼は決して鈍感な男ではない。

 むしろ、飛竜のレースに出ているから、駆け引きも得意だろう。

「この子は真っ先に、アドリアン様のところへ走っていきました」

「なるほど」

「ですが、こういうことは、失礼に当たるのではないかと捕まえに来たのです」

「ふむ」

 シウがそうっとアドリアンの顔を見上げると、彼は満更でもなさそうな、いや確かに嬉しそうな素振りで満面に笑みを浮かべている。

「僕はこういうことは全くの門外漢で分からないのですが、たとえば、国を超えた王族同士の結婚なんていうのは――」

「もちろん」

 彼は溜めを作って、にっこり微笑んで続けた。

「あるよ。政略結婚の最たるものだね」

「そ、そうですか」

「ふふふ。そこまで気にしなくても良いよ。実は、大昔に、彼女とそういった話が持ち上がっていたこともあるんだ」

「えっ、そうなんですか?」

「ただ、彼女の兄上にお子が生まれていれば、ね」

「あーそうかー」

「彼女も、わたしのような優男に興味はなさそうだったからね」

「え、そうですか?」

「フラフラしていてはいけませんよ、と注意されたことがある」

「あー」

 有りうる。彼女ならなんだか言いそうだ。

「冗談めかしていたが、あれは本気だったな。確かにわたしはフラフラしているように見えるし、実際あの頃はフラフラしていたからね」

 あ、そうなんだ。

「でも今は仕事をした上で、レースに出ているよ」

 パチッとウインクして、それからシウとロトスの頭を両手でそれぞれ撫でると、よしっと掛け声を口にした。

「では、玉砕覚悟でダンスでも申し込んでこようかな」

「えっ」

「なに、男というのはね。険しい山を見れば登りたくなるものだ。冒険の果てに、見付けるのは家庭という名の理想郷さ」

(なんだコイツ、ヤバいんじゃないの)

(黙ってロトス)

「牢獄のようだと言う者もいるが、わたしもそろそろ牢獄に入っても良い頃合いだ」

 最後まで爽やかに笑って、彼は去っていった。

(あっちもこっちも! 爆ぜろ!)

 ロトスをやさぐれさせて。


 結果は知らない。

 そんなものはすぐにどうこうなるわけでもないし、聞くのも怖い。

 シウは素知らぬ顔でそそくさと控え室に戻った。


 しかし、ロトスは楽しんでいた割には最後、やさぐれていた。

 どうやら上手くいくかもしれないとは思っていても、その結果カップルが誕生するということに思い至らなかったらしい。

 そして、現状自分が「リア充」ではないという事実に気付いたようだ。

 彼の中で、荒れ狂う時間が過ぎたのだろうということだけは分かった。

 とりあえず慰めた。


 そんなこんなで疲れ切って、夜も遅い時間に宿へと戻ったのだった。





 翌朝、シウはキリクに呼ばれ、デルフ国へ行くかどうかを聞かれた。

「今年は闘技大会があるんだ?」

「ああ、一応、俺も行く。いいのがいたら引っ張ってくるつもりだ。ただ、アマリアたちは置いていくから、お前どうするかと思ってな」

「うーん、僕は止めとく」

 ロトスは興味がありそうだったのだが、デルフ国が政情不安なことも教えているため、悩んだ末に取りやめたのだ。他にやりたいことも多く、今回は諦めてもらった。

「そうか。じゃあ、飛竜の編成は変えずに済むか」

「アマリアさんと暫しの別れだね」

「なんだ、からかうのか?」

 コイツめ、と頭をぐりぐりされてしまった。からかってないのに。


 キリクたちは明日には出発するので、今日は一日宿で仕事をするそうだ。

 エラルドやハヴェルなどが来訪予定らしく、忙しいと愚痴を零していた。

 シウもちょこっと顔を出せと言われたので、了解した。


 ところでルコのことはもう知っていると知った時のキリクの顔は見ものだった。

 数日前の夜に遊戯室で普通に話をしていたので、それを見て衝撃を受けたらしい。あまりにおかしかったので皆がからかったものだから、拗ねてしまった。

 さっきのは、もしかしたらその仕返しかもしれない。

 大人げないのだ、彼は。



 この日はずっと宿にいることが決定したため、赤子は可愛がりたい人たちが交代で面倒を見てくれることになった。

 よって、ストレスが溜まっているであろうブランカの運動をさせることにした。

 レベッカとデジレには裏庭にいるからと言い置いて、ブランカを連れて出るとククールスとアントレーネもやってきた。

 体が鈍ったとかで、一緒に体を動かすらしい。

 彼等は最近レース観戦ばかりで運動らしいことは何もやっていなかった。

 シウは早寝をするようになったものの、早起きは今まで通りだったのでちゃんと続けている。やはり毎日行うことが大事だ。

「じゃあ、障害物でもやる?」

 宿の人には元に戻すことを約束しているので、その場で土属性魔法を使って起伏の激しい地面を作り上げた。

「おい、止めてくれ。そこまで本格的にやらなくてもいいって」

「あたしはやるよ。自分自身が障害物レースをやるなんて、面白いじゃないか」

「レーネは得意だろうけどさ。俺、後方支援担当。ついでにエルフだぜ」

「そんなこと言ってないで走るんだよ。あんた、素地はいいのにちゃらんぽらんだね」

「うへえ」

 アントレーネに引っ張られて、ククールスは走り始めた。

 ブランカはもう目が輝いて、レースだレースだと大騒ぎして走り回っていた。進行方向など全く気にせずに。


 わいわいやっていると、客人が来たと連絡があったのでシウだけ戻る。

 残りの面々には訓練頑張ってと手を振って分かれた。

 客間へ到着するとエリク=リップスとランヴァルド=アルメルなどがいて、相手が拳を当てに来るので合わせるように突き合わせた。その後、ハイタッチだ。

 ただ、シウはこういうノリに普段慣れていないため、見ていたキリクは鼻で笑っていた。どうやら全くできていなかったようだ。


 彼等は国の竜騎士団第一隊で、第三隊の騎士も数人付いてきているようだった。

「いやー、俺たちがシウと顔見知りだって言ったら、付いて来たがってさ」

「おい! いや、わたしたちは隻眼の英雄殿にも是非お会いしたくて、だな」

「分かってるって。辺境伯、こちらアンブロシュ=ボレリウスです。第三隊の隊長で」

 時間がないことを知っているのか、双方簡単に挨拶しあって、ソファに座った。

「あ、そういやカラカリを覚えているか、シウ」

「えーと、団長の従卒兵だった?」

「そうそう。今も団長の秘書的存在。頑張ってるよ。今回は観戦できずに居残り班なんだ」

 他にも竜騎士団の話をしてくれたり、フェデラル国の飛竜の乗り方についてキリクと相談しあったりしてから帰っていった。

 キリクも同じ飛竜乗りと飛竜の話ができて気分転換になったのか、楽しそうだった。


 そして、エリク隊長は帰る間際に、シウがディジオ=エリクソンから謂れなき暴言を吐かれたことを知っており、根回しをしておくと請け負ってくれた。

 キリクもかなりご立腹で、昨夜のうちに国王の耳にも入れたようだった。

「うちの団長、お前が気に入ってるからな。コルヴィッツ師団とはやりあう仲だし、楽しんでやっつけてくれるはずだよ」

 ランヴァルドが楽しげに言い残していった。


 でもたぶん、その前に決着が付くはずだ。

 だってキリクもそうだが、シリルがカンカンに怒っている。彼ならネチネチとやってくれるに違いない。

 ということで、ありがとうとだけ言って見送った。

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