125 おめかし服とダンスと王子達




 アントレーネは赤ちゃん三人組のおめかし姿を見て、それについても喜んだ。

「かわいい! こんな服見たことないよ」

「ルシエラ王都のお店に頼んで作ってもらってたんだ」

「えっ、まさか仕立てて?」

「そうだよ。ロトスの服を頼んでいるところで、乳幼児のもお願いしたんだ」

 既製服専門店だったのだが、大体の予測をつけて事前に注文していた。

「こ、こんな素敵なレースの赤ちゃんの服を……三人分も……」

 呆然とするので、また金額のことでも気にしているのだろうと思って苦笑した。

「ロトスの洋服を買うついでだし、記念に置いておくもの以外は中古として売っちゃうつもりだから」

「え、残すんですか?」

「ていうか、記念に置いておきたくない?」

 アントレーネと食い違う意見を語り合っていると、浮上したロトスが口を挟んできた。

「シウってさあ、親バカになるね、ぜったい」

「えー」

「俺にもいっぱい服買ってくるんだもん。すぐ大きくなるのに」

「分かってるんだけどねー。エラルドさんが、服を送ってきてくれる気持ちがちょっと分かるようになったよ」

 彼も小さい子に何か着せてやりたいと思うのだろう。年齢はともかく、シウは小さい子に見えるので。

「というわけで、レーネは気にしちゃダメだと思うぞ。シウはこんなんだから」

「う、はい、分かった。分かりました」

「気にしないでね、レーネ」

「はい。その、でも、ありがとうございます」

 彼女はひょこっと頭を下げ、それから耳をピコピコさせていた。


 アントレーネのドレスは、宿に到着したその日から急遽サイズ合わせで地元の針子が呼ばれ、直していたものらしい。

 いつ何時誰が増えるか分からないため、アマンダは各サイズの紳士服やドレスを常にストックしているらしかった。が、戦士職であり、虎系獣人族のアントレーネに合うドレスはなかった。

 大柄すぎて、デザインも大幅に変わってしまうため、あちこちに手を入れて間に合わせたようだ。布を切って縫い合わせた箇所にひらひらのフリルをあしらったり、違う素材の透ける布が背中を覆っているのだが、逆にそれが斬新らしくて何度か声を掛けられていた。

 貴族の女性たちが大柄なアントレーネに近付くことはなかったが、その従者や、レース参加者などは気軽に話しかけており、慣れてきたアントレーネもなんとか話を繋いでいるようだった。

 途中レベッカが来てくれたのでそちらは任せ、シウはロトスを連れてあちこちに行った。

 主に騎獣たちと話をするためだ。

 フェレスと赤子を背負ったブランカもついてくるため、時折笑われたりもした。

 ちびっこが小柄な騎獣を引き連れ、その後ろから赤子を背負った大型騎獣がついてくる図というのは珍妙らしい。

 でも、嫌な感じではないので、シウも笑顔で返していた。


 そのうち、音楽も変わって無礼講状態になってきたので、シウはレベッカを誘ってダンスをした。彼女はその次にロトスの相手もしてくれて、ちびっこたちの救世主となった。

 アントレーネも誘ったのだが、ダンス無理、と断られてしまった。

 ククールスも女性から声を掛けてもらっていたのに、踊れるわけない、と頑なに拒否していた。

 その後、ドロテアとスジェンカに誘われたので踊ったが、ロトスはオリヴィアと何度も踊っていた。背も伸びてきているので、小さめのオリヴィアはそれほど屈まずとも踊れるらしく、二人は楽しそうだった。


 ちなみに空気を読まないキリクとアマリアは、婚約者同士で何度も踊って、他の面々を呆れさせていた。

 シウは空気を読めるので、彼等の傍には一切近付かなかった。

 もちろん、ロトスもである。



 そうして、無礼講の中楽しんでいると、ジークヴァルドがやってきた。

「シウ!」

「お久しぶりです、王子」

「うわー、やめてくれー。ジークでいいって」

「あはは。じゃあ、ジーク様」

「……まあ、そこは仕方ないのか。臣籍に下ったら、呼び捨てにしてくれな。気が変わったらいつからでもいいけど」

 肩を竦めて苦笑すると、彼はまずフェレスに向かった。

「すごいな、お前。あんなに小さかった子が、これほど強くなるなんて思わなかったぞ」

「にゃ。にゃにゃにゃ」

 ちいちゃくないもん、と返しつつ、褒められていることは分かっているから尻尾が振られている。

「どんな訓練したんだって、話題になってるぞ」

「そんな特別なことはしてないけど、山の中を走り回ってるね」

「え、そんなことか?」

「うん」

 へー、と素直に受け止めている。ジークヴァルドはロトスとも名乗りあって、それからシウの肩の上のクロ、そしてブランカを見て笑う。

「噂には聞いていたけど、希少獣三頭持ちか」

「やだなー。噂なんて聞きたくないよ」

「はっはっは! まあ、シウの想像通り、気分悪いのが二割、でも残りは純粋に面白いとかすごいなって意見だぞ」

「そうなんだ」

「運の強い奴っているだろ? あれだろうなって、兄さんたちとも話をしたことがある」

 そう言うと、ブランカの前で膝を落とした。

「お前も格好良いなあ。綺麗にしてもらって、シウに可愛がってもらってるのがよく分かるよ。それにしても、良い面構えだ。赤ん坊背負ってるから、怖い顔が半減してちょうど良い。な、シウ」

 振り返って満面の笑みで言うのだが、彼が勘違いをしているようなので、一応告げてみた。

「その子、雌だからね?」

「え?」

「ブランカって名前で、女の子」

「ええー」

 当の本獣は全く気にしていないのが、ホッとするところだ。


 シウはジークヴァルドに呼ばれて、彼の兄たちが固まっている場所まで移動した。

 ククールスとアントレーネには、本会場から出ても良いし好きにしてと告げてから、向かう。

 ブランカは念のため、アントレーネたちに任せた。赤子もいるので心配だからだ。

 高位貴族が集まる上座を通り抜け、女性などが座れるようになったソファが並ぶ一角にやってきた。

「やあ、シウ。元気そうで何よりだ」

「レオンハルト王子もご健勝のご様子で――」

「あ、いい、いい。僕等は友達だろう?」

 以前よりもずっとくだけた様子で語りかけてきて、レオンハルトはソファに座るよう示した。

 ジークヴァルドや他の面々もどうぞと勧めるので、素直に従う。ロトスは横にちょこんと座って、フェレス同様お澄まし顔だ。

「この子は?」

「僕が面倒を見ている子で、ロトスと申します。今、エルフの青年や獣人族の女性、獣人族のハーフの子供などと一緒に暮らしてまして」

「……よ、よく分からないけど、そうなのか」

 不思議そうな顔で、納得しようと頑張っているレオンハルトに、シウは続けた。

「ブラード家にお世話になっているので、面倒を見てくれているのは本当はブラード家なんですが」

「ああ、あそこね。当主は堅実な方だよね。だからオスカリウス家の仲人に選ばれたのかな。君の関係者ってこともあるだろうけど」

 レオンハルトはウインクしてきて、中央でまだアツアツっぷりを披露しているキリクとアマリアを遠目に見ている。

「カスパル、あ、カスパル=ブラード様のことですが、彼がとても大らかでして。僕がおかしなことをやっても、いつも気にせず対処してくれるんです」

「へえ。彼が。噂じゃあ、研究マニアだそうだけど、しっかりしているのだね」

 ハンス王子もこちらを気にしてチラチラ視線を向けていたが、レオンハルトの言葉にピクリとしていた。そしてとうとう口を挟んだ。

「キリク殿の婚約話も、彼が上手に話していたよ。そういう性質の人には見えなかったので、驚いていたんだ」

「と、申しますと?」

 聞いてほしそうだったのでシウが質問すると、ハンスは意気揚々と語り始めた。

「以前、興味本位で彼にどのようなことを研究しているのか質問したのだがね。彼、延々と古代帝国時代の、あー、ゴホン(つまりご不浄所についてだね)、語り始めてしまったんだ。あれには驚いたよ」

 途中、小声になっていたが、それは近くに女性がいたからだ。遠慮して喋るところがさすがである。

 そして、カスパルは安定のカスパルだ。

「てっきりこう、宮廷魔術師のような感じかと思っていたよ」

 褒め言葉じゃないらしい。どういう意味だろうと思ったら、ロトスが念話で教えてくれた。

(カスパル様ってオタクっぽいもんなー)

(あ、そういう意味か)

(シウもオタクなのに、そうは見えないところが得してるけど)

(そうなの?)

(うん。ていうか、念話してていいの?)

「あ、ダメだね」

「うん? 何が、ダメなんだい?」

「あ、いえ。えーと、カスパルの、そういうところが、ですかね?」

 カスパルのせいにしてしまった。心の中で彼に謝ったシウである。


 一通り話が終わると、控え目に佇んでいたカルロッテに視線を向けた。

 ただ、未婚の女性であり、シウももうすぐ成人間近だから、気を遣ってハンスとレオンハルトにお伺いを立てる。

「カルロッテ様とお話をしてもよろしいでしょうか?」

「カルロッテ? 君たち、仲が良かったのかい? うん、特に問題はないよ。おっと――」

 話している最中に、呼ばれたようだ。ハンスは楽しんでねと声を掛けるとサッと離れていった。

「ありがとう、シウ」

「え?」

「突然話しかけると、彼女の立場もあるからね」

 と、レオンハルトが言う。

「あ、そうなんですね」

「あと、姉上に気をつけて。悪気はないんだけど、カルロッテに厳しいところがあるから」

「あ、はい」

 レオンハルトが小声で注意してきたので、シウは気を引き締めた。

 とりあえず、

(ということだから、ロトス、僕が失言しそうになったら止めてね)

 人頼みだ。

(えっ、こういう時だけ念話オッケー? ひどくね? いや、助けるけどさ)

 ロトスは寛容なので、気軽な様子で請け負ってくれた。


 ただまあ、念話を使わないようにしていたのは、ロトスにできるだけロワイエ語をスムーズに覚えてほしかったからなので、緊急時には使っていいことになっている。

 これも緊急時だとシウは思うのだが、確かに都合良く切り替えているあたり、自分はひどい。

 さっきのカスパルのことといい、しばし反省の必要があるかもしれなかった。

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