123 飛竜レース決勝戦と閉会式




 飛竜のレースも調教と礼法は終わっており、障害物、速度、混戦の順番で始まった。

 昨年は一日のうちで騎獣と交互に行われていたのだが、スケジュールがタイトだったせいか早め進行にしたようだ。今年は余裕のあるスケジュールになっているらしい。


 ところで飛竜の場合、それぞれの準備が大掛かりだ。障害物も前夜のうちにほぼ出来上がっていたが、先ほどの催し物の最中に急ピッチでコースを作り上げていた。

 こういう時は魔法使いが大活躍している。

 宮廷魔術師も出張っていて、レースの前に手を振って観覧席まで戻っていた。


 今回オスカリウス家は飛竜レース全てにエントリーしていた。

 調教や礼法にも出るとは思わなかったが、新人教育の一貫でと言っていた。優勝は無理だったが上位にはどちらも入っていたようだ。

 肝心の障害物だが、シウも馴染みの人たちが出ており、オスカリウス家借り上げの観覧席全てから大声援である。

「リリアナー!! いけーっ!!」

「やっちまえーっ」

「いてこませー」

 誰かガラの悪い言葉を使っているが、大丈夫だろうか。

 とにかく、飛竜の迫力あるレースに皆がノリノリだった。


 残念ながらリリアナは優勝を逃した。

 勝ったのはシュタイバーン国の竜騎士団ランヴァルド=アルメルだった。シウも会ったことのある竜騎士で、第一隊の人だったはずだ。

 以前、ロワル王都近くで起きたスタンピードの対策時に話をしたことがある。

 他にも上位には竜騎士団やオスカリウス家の者も入っており、シュタイバーン勢がほとんどを占めていた。

 周辺諸国の中で飛竜を扱うのに秀でているのはシュタイバーンとフェデラル国だから、当然の結果といえば当然だった。


 障害物コースについては、シウが騎獣の方に出ていたこともあって目新しさがなかった。騎獣の内容をほぼ大型化しただけのものだったからだ。

 ただし飛竜は飛行するので、湿地コーナーなどはなかったが、低空飛行で急峻な崖にぶつからないよう駆け上っていくのは見事だった。

 ちなみに今大会から、落下防止の処置を施していない組には《落下用安全球材》を貸し出しているようだった。

 借りなかった人の中にはパラシュート型の対策グッズが多く、デルフ国や、シャイターン国などはそちらを使っているようだ。シウは見ていないが、予選で一度使われていたらしい。

 他にも続々と落下防止の魔道具が出てきており、ちょっとワクワクしていたのだがそうそう落ちる人などいないので見ることはなかった。



 速度レースにはアドリアンとハヴェル、そしてラッザロがソールに乗って出走した。今回ルーナは来ていない。卵を温めている最中なのだ。

 本当はキリクも心配だったのだが心を鬼にして置いてきたらしい。

 どちらにしても卵を温めている母飛竜は主そっちのけらしいので、いてもいなくてもどっちでもいいようだ。

 気になるのはソールで、妻と子(卵)を置いてきているのでずーっとそわそわしている。

 それが良かったのか悪かったのか、そわそわしたままレースに参加し、ラッザロの命令はあまり聞かないまま優勝候補であるアドリアンのケラソスを追い抜いて一着ゴールとなった。

 二位はアドリアンで、少し開いてハヴェルが入賞していた。



 混戦レースは迫力があるので、飛竜大会でも最高の見せ場のひとつだ。

 各チームが陣地を守りつつ、玉を取り合って競う。

 オスカリウス家からは二チームも入っており、シュタイバーン国からは竜騎士団は第一隊隊長が率いるチームと第三隊が率いるチーム。

 フェデラル国はアドリアンとハヴェル、それから飛竜隊の第二隊が入っている。

 他にデルフ国とシャイターン国が一チームずつ、個人参加のチームが三つだ。

 ラトリシア国からは個人での参加はあるが国としては飛竜も騎獣も参加していない。ラトリシアは魔法国家として名高いので、あまり騎乗生物に重きを置いていないのだ。

 数年に一度、魔法競技大会が行われるので、そちらの方が有名だった。

 小国群からも個々の参加が主で、飛竜のような贅沢な乗り物をレースに使うというのはロマンがあるというよりは無駄といった考え方が主流のようだった。

 とはいえ、普段目にしない飛竜同士のぶつかり合い、頭脳戦のようなチーム対抗戦は見ていて楽しいものだ。

 司令塔を作ってそこから命じる者もいれば、飛竜の頭部に立ったまま飛び回る剛の者もいる。

 決勝戦ならではの豪快なシーンに、観覧席の客たちはドッと沸いていた。


 ロトスとアントレーネも大興奮である。

 あまりにキャッキャと騒ぐので、同じく興奮していたククールスが冷静になるほどだ。

「お前らそんだけ叫んでよく声が嗄れないな……」

 呆れているが、彼の声も既に嗄れてきている。

 周りではフェレスにブランカもにゃーにゃーぎゃぅぎゃぅと騒がしいし、赤子も意味もなくきゃっきゃと叫んでいる。泣いてはいないようだが、こんな騒がしい中でよく楽しそうにしていられるなと結構びっくりだ。

「とりあえず、ジュース飲んで。ロトス、ほら」

「うん」

「レーネも」

「うん」

 ふたりとも、目がレースに向いていて全く聞いていない。シウは笑いながら、ちゃんと手に持たせてあげた。それでも機械的に飲んでいるので、頭には入っているようだ。

 ククールスもシウから受け取ってオレンジジュースをごくごく飲み干していた。


 試合は佳境に入り、玉の奪い返し、騙し討ち、陣地への奇襲などが行われている。

 どこかと手を組んでも良いし、組むと見せかけて裏をかいても良い。

 とにかく、玉を取ったチームが勝ちだ。

 ただし、スマートなやり方が好まれる。

 やはり、卑怯な振る舞いはレースの上では嫌われるので、騙し討ちといっても非道なことはしない。

 相手の飛竜を殺すような行為もご法度だ。

 ただ興奮するからか、あるいは戦闘的な気持ちになるせいか、羽目をはずすこともある。そういう意味ではデルフ国のチームは毎年、レッドカードをもらう常連のようだ。

 飛竜大会でレッドカードなんてものは存在しないので、普通に「注意」されるだけだが、度重なるとレースから降ろされるのでほどほどが肝要だ。


 最終的に、戦える状態で残ったのはやはりオスカリウス家のチームと、アドリアン、そしてハヴェルのチームだった。食いついているのはシュタイバーン国の竜騎士団だが、一歩遅れている。

 取った玉の数も拮抗していたが、時間ギリギリでスヴァルフ率いる本隊が優勝した。

 次にハヴェルのチーム、そしてサナエルの率いる第二チームと続いた。

 アドリアンと竜騎士団はギリギリ入賞した。


 勝った時の観客席の騒ぎはすごいもので、紙吹雪やテープが山のように踊りまくっている。

 そんな中、別に聞くつもりはないのだが何故か近くで観戦していたキリクとアマリアが甘い空気を醸し出していて、段々といたたまれなくなってきた。

「今回はお前のために飛ぶことができなくて残念だ」

「まあ……キリク様……」

「もしもう一度と望むなら、慣れないソールに乗ってでもやってみせるが?」

「そんな。それでキリク様がお怪我でもされたら!」

「俺がそんなヘマをすると思うのか?」

(おい、止めろ、誰かアレ止めろよ)

 今回ばかりはロトスの言い分に旗を上げたい気分だ。

 オリヴィアも自身の観覧席からこちらへ来ていたのだが、目を見開いて化物でも見たかのような顔をした後、そっと離れていった。

 徐々に人が引いていく。

「僕等もあっち、行こうか」

「うん」

「あ、あたしも行きます」

「俺も。おい、フェレス。行くぞ」

「にゃ。にゃにゃにゃ」

「ぎゃぅぎゃぅ!」

「きゅぃ」

 フェレスがブランカたちにも行こうと声を掛け、結局シウたちに貸し出されていたはずのブースからはほとんどの人が出ていった。


 隣のブースに戻っていたオリヴィアは急遽増えた人数に驚いていたが、途中で納得していた。

「わたくし、彼にはああいうことは起こり得ないと思ってましたわ。所詮、人間など誰も同じということですわね……」

 なんだか深いことを言っているようだが、ようするに呆れたのだろう。

 シウは笑って頷いた。



 試合の後にまたパレードのような音楽隊やら、騎獣を使ったアクロバットな見世物で休憩時間を作り、その間に閉会式の準備が行われる。

 今年は模範演技もないので、ゆったりとした進行具合だ。

 閉会式では開催国のトップかそれに準ずる者が挨拶をする決まりなので、会場観覧席の真ん前、ど真ん中に設置された壇上にはグスタフ=ヒルシュベルガ=シュタイバーン国王が立っている。もちろん、周辺には護衛のための宮廷魔術師などが控えているのだが、姿は見えない。

 グスタフの隣にはイングリッド王妃、それから第一子のハンス王子という風に順番に並んでいる。子供だけ並ばせて、その配偶者などは王室専用の観覧席に残したままのようだ。

 懐かしい顔ぶれを見て、シウは目を合わせて会釈した。第三子のレオンハルト王子や、第四子のジークヴァルドだ。ただ、カルロッテの姿はなかった。妾腹なので表舞台には出せないのかもしれない。


 昨年フェデラルで開催された時は、優勝者に賞金の他に望みを叶えるという付属もあったのだが、今回もあるようだ。

 事前に打ち合わせでもするのかと思っていたらいきなり本番で、びっくりした。

 とはいえ、昨年も同じだったなと思い出す。一応、拡声魔法を調整していたし、直接優勝者の言葉を流したりはしていなかったからなんとかなるのだろう。


 シウは特に欲しいものもなかったのだが周りの空気を読んで、お願い事をすることにした。

 国王はシウのことを覚えていたらしく、なんとも表現し難い視線で無理やり微笑んで耳を傾けている。他の方々はそわそわしているので、シウがまた変なことを言い出すのではと不安なのだろう。

 シウもあれから大人になったのだ。要らない! と跳ね除けたりはしない。

「ではあの、聖獣と遊ばせてもらえますか?」

「……うん?」

 あれ?

「あのー、やっぱり無理ですよね。すみません」

「いや、違うが。聖獣が欲しいというわけではないのか? うん? 聞き間違いだったかな、妃や、どうだったか」

「恐れながら陛下。この者は確かに、遊びたいと申しました」

「……うむ。そうか。ふむ」

 え、なに、その間は。

 困惑げに国王を見上げ、それからイングリッド王妃に視線を向けるとニコリと微笑まれてしまった。

「よろしいではありませんか。聞けば、ドルフガレン家に下賜しましたスレイプニルとも遊ばれたようですわ。きっと、希少獣が好きなのでしょう」

 ねえ、と声を掛けられたので、隣のハンス王子の様子を覗いながら、頷いた。ハンス王子が先ほどから視線であれこれ教えてくれるので大変助かる。もちろん、ジークヴァルドたちも目配せしつつ笑っていたが。

「はい。あちこちで出会います希少獣たちと、仲良くさせてもらってます」

「そうか。では、我が国の聖獣たちと会えるよう手配しておこう。しかしまあ、そんなものが褒美であるのか。ふうむ」

 よく分からんという顔だが、騎獣レースに出走した冒険者が聖獣を見たいと思うのは割と普通のような気がする。

 王女のダンスの相手とか、そっちの方がよっぽど苦行である。

 絶対に口が裂けても言いはしないが。

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