114 オリヴィアとの再会、シードの人達




 翌朝、オリヴィアが昨夜の疲れも見せずに大広間へ顔を出した。

 彼女と再会の挨拶をした後は、お待ちかねのロトスだ。

「まあまあ。大きくなられましたね」

 身を屈めるほどでもなく、オリヴィアは眩しいものを見るかのように目を細めた。

 ロトスは嬉しいような、恥ずかしそうな顔をしてもじもじと立っている。

「でも、まだまだお可愛らしいこと。おいでなさい。抱っこをしてもよろしいかしら」

「うん!」

 ロトスはパッと顔を上げ、オリヴィアに抱きついた。彼女も嬉しそうだ。実際に抱き上げることはできなかったが、肩を抱き寄せている。

 そんな麗しい再会の様子だったのだが、食堂にはたくさんの人が出入りするわけで。

 当然、彼もやってくるのだ。


 キリクが目敏くオリヴィアとロトスを見付けて、からかってきた。

「おー、小さい男の子を囲い込んで、まずいんじゃないのかー」

「キリク様、そのようなこと――」

 アマリアが注意しても、馬耳東風だ。キリクはニヤニヤと笑って、オリヴィアに言葉をかぶせる。

「可愛いから養子に欲しいんだろうが、そんなことしたらますます婚期が遠のくぞ」

「ほっといてくださいまし」

「まあ、俺みたいに親戚中から跡継ぎを断られるような家じゃないから大丈夫か」

 養子を断られるようなこともないだろうと、半分羨ましげに言う。

 オリヴィアは毒気を抜かれたのか、むくれていた顔をいつもの美しい様子に戻した。

「ルワイエット家は由緒だけは正しいので、断られることはないでしょうね」

「なんだ、その由緒だけは、って」

 キリクは笑って、それからアマリアの背に手を回してオリヴィアに紹介した。

「この間はパーティーの席だったからよそよそしかったが、これがアマリアだ。よろしく頼むな」

「もちろんですわ。よろしくね、アマリア様」

「こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。オリヴィア様とお知り合いになれて、とても嬉しいです」

「そんな畏まらなくても良いんだぞ? オリヴィアとは共に家を継ぐ者同士、腐れ縁なんだ。嫌味を言うが、裏表のない良い奴だ。王宮でも信頼のおける人間だから、アマリアも彼女を頼るといい。頼むな、オリヴィア」

「あなたにそこまで言われますと、何やら裏があるかと疑ってしまいそうですが。でも、頼られましょう。アマリア様、キリク殿に嫌気が差したらおいでなさい。匿ってあげましょう。彼に対等に物が申せるのはわたくしくらいでしょうからね」

「まあ」

 アマリアは驚いてポカンと口を開け、それから慌てて手で口元を隠していた。

 ぽんぽん掛け合う姿に驚いたのだろう。貴族同士の付き合いではあまりない構図だ。

「……嫌気は差さないよな?」

 少し心配そうに問いかけるキリクは、普段の彼とは大違いだ。

 そして、アマリアと言えば。

「キリク様ったら」

 とまあ、頬に手をやって、赤くなった箇所を隠そうとする。

 シウはオリヴィアの腕を引っ張った。

 ロトスもうへえ、という顔を隠さない。

「あっちに行きましょう。このへん、甘い空気がひどくて」

「あら。そうね」

(ああいうのは部屋でやれっつうの。リア充爆発しろ、ってんだ)

 この時ばかりはロトスの念話を叱らなかったシウである。




 この日はカスパルもレースを観戦すると言うので、オリヴィアも誘って一緒の地竜でリファへ向かった。

 キリクたちは遅れてやってくるそうだ。貴族との食事を兼ねた観戦となるため、オスカリウス家で抑えているブースには来ないらしい。

 よって、キリク用の観戦席にカスパルやオリヴィアたちとシウ、隣の部屋にククールスやアントレーネ、騎士たちが入った。広い観戦席だが、さすがに大勢の騎士と貴族の女性を一緒にするわけにはいかない。彼女にも護衛はついているので、今回はそちらが付き添っているし。

 シウとロトスは特別枠らしくて、傍に侍ることはオリヴィアの侍女や護衛にも許されている。

 あとはまあ、レースを解説する人間が他にいないというのもあった。

「まあ、ではあれが調教ですの?」

 ふざけているようにしか見えない飛竜の「捕らえられた宇宙人」っぽい格好も、一応調教の賜物なのだ。

 他にもコースに熱中するあまり、観戦席までぐわんっと飛び出してきた飛竜の姿には、金切り声を上げて興奮していた。

 カスパルも昨年観戦したはずなのだが、シウの説明に「へえ」とか「ほう」と納得声を出していた。

 ダンはちゃっかり隣へ行って、騎士やククールスたちと一緒になって興奮して叫んでいる。あちらはかなりラフな様子で、楽しそうだ。

 その反対隣は逆に静かで、オスカリウス家の貴族家や親類家が礼儀正しくレースを観戦しているようだった。

 オスカリウス家が押さえている他の観戦席全てがうるさいので、遠慮せざるを得ないのかもしれなかったが。



 午後の後半、シウは観戦席から抜け出して第三次予選レースに出場した。

 ここでかなりの数が絞られることになり、ピリピリしたムードが流れている。

 そして、チラホラと聖獣の姿もあったが、シウたちはやはりトップ通過で終わった。

 予選から参加する聖獣はまだ若い個体も多く、練習量も少ない。なによりもまず、体力がないようだった。

 筋肉も鍛えておらず、レース専門の騎獣の方がよほどしっかりしている。

 聖獣を持つのは王族や高位貴族に多いため、その主が出てきたとしても聖獣に見合った練習がこなせていない。

 また、代理出走の場合だと、今度は心が寄り添わないからだろう、指示してもタイムラグがあって上手くいかないようだった。


 控え室に戻ると、マテオやウリセスたちだけでなく、昨年の入賞者オダリスとスジェンカたちもいた。

「今年は君が出走してるって聞いて、今日は予選を見に来たんだ」

「あたしたちのこと覚えてる?」

「もちろん。リヴェルリとアルギュロスだよね」

「……それうちのウルペースと、スジェンカのフェンリルの名前じゃないか」

「あ、そうだったね」

 つい、騎獣の名前の方を出してしまった。

 みんなはシウのボケに笑っていたが、シウは失敗を反省した。

「えーと、お久しぶりです。オダリスさんとスジェンカさん」

「おう。シウも元気そうじゃないか。あと、予選レース見たが、すごかったな」

「圧巻だったわ」

 二人共、興奮気味にシウの手を取って握手してくる。

 ウリセスは、遅れてやってきた二人に、説明を始めた。

「シードだからって遅れて来たのが他にもいるが、対策を取らないとヤバいぞ。その代わり、強敵が見ていないから穴を突ける」

「強敵って?」

 シウが問うと、彼はにんまり笑った。

「アドリアン王弟殿下だ。遅れてるらしい。明日には到着すると聞いたが、殿下は最有力候補だから明後日参加なんだよ」

「おお」

 マテオが興奮して口を挟んだものの、ウリセスは気にせず続けた。

「ヴァイスヴァッサー辺境伯も遅れてる。明日到着は確実らしいが、レース場へ来られるかどうかは不明だな。それと、ラインマイヤー伯爵、ドロテア女史も明日到着だ」

 最後の二人はフェデラル国の騎獣隊で、ドロテアの方とは顔馴染みなので、シウもよく覚えている。

「明日は本戦だが、シードの低い者ばかりが集められている。昨年上位者は出なくても良いが、俺たちは出る予定だ」

「そうね。良い訓練になるもの」

「負けると恥だけどね」

 それを恐れて、準決勝から参戦する者もいるそうだ。でもウリセスに言わせると、それこそが恥ずべきことらしい。

「本戦を勝ち残らなくて、何が準決勝だ。それに、シウみたいな超有力新人と手合わせしなくて、どうするよ」

 本戦でも上位者が準決勝に進めるので、二位通過でも構わない。そこで訓練がてら本番の空気を味わい、準決勝、そして決勝で力の限りを出し尽くすというわけだ。

「他にもシュタイバーンから結構な数が参加してるからな」

「オスカリウス家だよ。あそこの騎獣隊が遊びで出てきてるからなあ」

 誰かが零しているが、遊びではないのだとシウは言いたかった。彼等はボーナス目当てに、張り切って出ているのだ。

 広告塔という理由はもう忘れているに違いない。

「障害物と混戦は軒並み、上位に入っているぞ。さすがオスカリウス家だぜ」

 シウはまだ彼等とかち合っていないが、それぞれ上位で通過しているらしい。

 ウリセスは渋い顔で話を続けていた。


 遅くなったので地竜乗り場で待ち合わせると、オリヴィアが目をキラキラさせてシウを抱き締めてきた。

「すごいわ。シウ、あなた本当に素敵だったわ!」

「うん、本当に凄かったよ。フェレス、君は綺麗なだけじゃなくて強くて早いんだね」

 カスパルに褒められてフェレスは尻尾をぶんぶん振り回して嬉しそうだ。オリヴィアも慌ててフェレスを褒めた。

「もちろん、フェレスちゃんも素敵だったわよ。とっても早かったし、格好良かったわ」

「にゃ!」

 さっきまで、同じコースばかり走らされるのでつまんないとぼやいていたくせに、途端に機嫌が良くなってしまった。

「明日も頑張ってね」

「にゃ!」

 もちろん、と賢いお返事だ。現金なものである。


 地竜車の中でも、みんなにちやほやされて、フェレスの鼻はツンツンと上昇してしまった。ブランカがちょっぴり、羨ましげなのが、面白い。

「ブランカは子守を頑張ってるんだから、偉いんだよ?」

「ぎゃぅ?」

「ちゃんと赤ちゃんたちを守ってるでしょ。よく頑張って、すごいよ」

「ぎゃぅ!」

 これで機嫌が良くなるのだから、楽なものだ。

 クロもせっせと、えらいえらいと褒めていた。本当に空気の読める賢い子だ。

「クロもありがとうね」

「きゅぃ」

 彼は謙虚に、可愛く照れていた。


 宿に戻ってから、シウは気になることがあったのでロトスを呼んで小声で話をした。

「ウルペースが参加してるんだけど、彼等、上位入賞すると思うんだ」

「うん。うん?」

「上位入賞者は祝賀会に出るからね。僕等もキリクのお供で祝賀会に出られると思うんだけど、そこで対面することになるんだよね」

「あ、そうか」

 ロトスは聖獣で、ウルペースレクスという種族だ。狐型の聖獣になるのだが、騎獣であるウルペースの上位種でもあった。

「認識阻害を掛けているけど、分かる子には分かるからね」

 特に同系統種なら、匂いなどでバレる可能性もある。匂いも誤魔化しているつもりだが、こればっかりは自信がない。

「バレたら口止めするけど、ロトスも十分気をつけて」

「分かった。えと、でも、おれだけさんかしなくても、いいよ?」

「……その時は僕も行かないから」

「シウ」

 今のところ脅威となる者はいないし大丈夫だと思うが、念のためだ。

 うるうるした瞳で見上げてくるので、シウはロトスの頭を優しく撫でた。

「できるだけ、我慢しないで済むように、心がけたいんだ」

「……あの、ありがと」

「どういたしまして」

「へへへ」

 照れ臭いのか、手をバタバタさせて、それからわーっと走っていってしまった。

 一応、オリヴィアのところだったので、彼もちゃんと学習はしているようだった。

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