109 ルコとの再会、予選レースへの参加




 カナルとは改めて挨拶しあった。

 彼の口から、当時のルコが体を壊していたことや、その後は王都にある屋敷で面倒を見てもらっていたことを教えられた。

「それで、相性の良い相手を探そうってことになって、領地に来たんだ」

「その時カナルさんと?」

「いやまあ、最初は面倒見きれないと思ってたんだけど」

 頭をガリガリ掻いているので、恥ずかしいのかもしれない。すると、カルガリと名乗った騎獣隊の男が口を開いた。

「こいつ、可愛くて可愛くて仕方ないからってんで、おやつを毎日持っていって、そっと置いて帰ってたんですよ。ルコがずーっと気にしているのに、忙しいから面倒見てあげられない、だからおやつ係だけするんだって言い張ってね」

「へえ」

 シウのみならず、話を聞いていたロトスもニヤニヤ笑いだした。

「俺のハリスが、ルコがあんまりにも健気で可哀想だから、カナルをなんとかしろって言うもんで、サラ様にも頼み込んで仕事量を減らしてもらうよう皆で協力したんですよ」

「そうそう。逃げられないように包囲されたのよね」

「う、うう――」

「きゅ?」

 心配そうなルコが瞳を潤ませてカナルを見上げている。

 ロトスなど(た、たまらん……)と身悶えた念話を伝えてくるほどだ。

 確かにルコの愛らしい姿に、これでは落ちるなと思う。

 案の定、カナルも覚悟を決めてルコを引き取り、お互いに話をしっかり伝えあって主従契約を行ったそうだ。

 で、悪ノリしたキリクが、シウを驚かせてやろうぜと言って、バレないようひた隠しにし、ここに来てドッキリをやろうと思ったらしい。

 まあ、嬉しいドッキリなので別に構わないのだが、やることが子供っぽい。

「別にいいんだけどさ。でもそんな盛り上がるほどのこと? いや、ルコに会えたのは嬉しいんだけど」

「ううん、違うのよ、シウ様」

「そうそう」

 カルガリは、呆れたような、それでいて面白そうな顔をして教えてくれた。

「ルコをな、ひとりぼっちで彷徨ってる風に歩かせて、そこに悪徳業者がやってくるっていう寸劇をやる予定だったのさ」

「……へえ」

「で、シウが助けようとする前に、主役が登場。颯爽と駆け付けルコを守るカナル。ルコはこの人が自分の主だと感動して――」

 ロトスは冷たい目になっていたが、ククールスは後ろでヒーヒー笑ってのたうち回っている。

「ひでえ! やべえ! バカばっかりだ!」

 聞こえてる。

 シウは後ろのククールスにも呆れながら、レベッカを見て同時に肩を竦めた。

「ね? こんなの、バレて良かったのよ。カルガリもカナルもいい加減にキリク様に振り回されるの止めた方がいいわ。あと、自分の母親のこと言うのはなんだけど、あの人も面白ければそれでいいってところがあるんだから。嫌なことは嫌だってハッキリ断った方がいいわよ」

「そうは言うけど、うちは上も悪ノリするからなー」

「グラシオ隊長はまだまともじゃないかしら」

「いや、あの人、キリク様には従うからね」

「あー、そうかも」

「そもそも、皆さんキリクのこと好きだよね? 結構、付き合い良いし」

 シウが突っ込みを入れると、みんな苦笑してそうかもねと力なく頷いていた。

 シウとしてはルコが元気で幸せそうなので良かっただけだ。


 ところで、フェレスはルコのことを全く覚えておらず、同時期に幼獣だったくせに全然違うものだなあとある意味感心した。

 ルコはちゃんと覚えていて、話し合いが終わるとフェレスに近付いて挨拶していた。

 フェレスは全く初対面みたいな顔で、まあそれでも彼のことだから気軽な様子で、

「にゃにゃ!」

 ふぇれだよ! と挨拶していたが。

 ルコは精神が大人らしくすぐに空気を読んで初対面風に挨拶しており、偉い。

 その後ブランカやクロとも挨拶し、騎獣の多い場所で暮らす子特有の、如才なさを発揮していた。


 カルガリのブーバルスはルコと仲が良いので付いてきただけで、レースには参加しないらしい。

「ええっ、フェーレースなのに速度レースへ参加するのかい?」

「はい。記念に」

「へええ。記念でも、すごいなあ。うちのは調教レースに出そうか悩んだんだけど、グラシオ隊長に今回は止めとけって言われてね」

「それはまたどうして?」

「……今回ライバルが多くて、恥をかいたらハリスが可哀想だって」

「オスカリウス家の名折れになるって、止められていたな」

「さっきのお返しかよ、カナル」

「やめなさいよ、二人共。シウ様の前よ」

 レベッカに叱られて、カナルとカルガリはしょんぼりしてしまった。シウは鑑定しているから彼等の年齢を知っているのだが、そうでもなくても明らかに年の差があるというのにレベッカは強い。

 サラの血を引いているからだろうか。

 ちょっとレベッカを怖く感じてしまった。


 話をしていたら、時間になったようだ。

 アントレーネが慌てた様子で声を掛けてきた。

「お話中に悪いんだけど、シウ様、そろそろ……」

「あ、そっか。じゃあ行ってくる。ロトスはレーネかククールスと手を繋いでいること。分かった?」

「はーい」

「つうか、もう観覧席に戻るよ。シウのレースを観ないとな」

 ククールスがロトスの頭を撫でながら言った。ロトスは手を振る。

「フェレスもおうえんしてるからなー!」

「きゅぃ!」

「ぎゃぅぎゃぅ!!」

「にゃ!」

 クロもブランカも応援してるらしい。フェレスは偉そうに、うむ、といった様子で頷いて尻尾をフリフリしていた。




 騎獣のレースは午後の後半から始まるので、急ぎ足で進む。

 シウとフェレスは速度と障害物だから結構タイトだ。

 ただ、同じように複数エントリーしている人も多いので、なるべく時間を離すような配慮はある。

 今回も幾つかの予選が同時進行するので、それぞれの最初と最後になるよう調整してくれた。

 初日にエントリーしていればもっと調整はできたらしいが、時間が重ならないのなら別に構わない。フェレスの体力も相当なものだから続けてでも大丈夫だ。

 係の人にそう言えば、驚かれてしまった。


 さて、そのレースだが、想像以上にあっさりと終わってしまった。

 最初に速度レースへ参加したが、予選だけあって聖獣がいなかったこともあり楽々トップ通過となったのだ。

 フェンリルとドラコエクウスがほとんどで、レオパルドスもいたが、ライバルにもならなかった。

 負けたのが悔しいのか、「騎手が軽いから得だな」などと捨て台詞を吐く人もいた。

 シウもフェレスも気にしていないので無視していたが、別の予選に出ていたマテオやその仲間たちが聞いており、係の人に告げ口していて笑ってしまった。

「大丈夫ですよ。その分、能力の劣る『フェーレース』というハンデがあるわけですし」

 係の人は気を遣ったつもりなのかもしれないが、なかなかひどいことを言う。フェレスが気にしていないのが幸いだった。


 次に障害物へ出たが、こちらも二位を大きく離してトップ通過だ。

 障害物は大型でがっちり体型のドラコエクウスには厳しいので、数が少なかった。シウたちの組にも一切おらず、レオパルドス、ティグリス、フェンリル、ウルペースとなっている。

 このうち、ティグリスはドラコエクウスに次ぐ大型だから、体重もそれなりだ。重量級の騎獣だから反則スレスレに体を寄せてくると大変である。弾き飛ばされてコースアウトするフェンリルもいて、可哀想だった。

 障害物は岩場や木々を見立ててコースが作られているので、上に下に、右へ左と決められたコースを通って周回しタイムを競う。揺れる丸太の上を走り抜けるなど、アスレチックっぽい。ここは「飛行」は禁止だが、魔力で補助をすることは許されている。

 フェレスは慣れているため、ほとんど魔法を使っていなかったが、他の参加騎獣は身体強化など目一杯掛けての参加だ。


 こうした相手ばかりだったが、なにしろフェレスは野生児だ。シウに連れられて奥深い山で遊び倒していたので体力もあるし元気なものだから、人工の障害物コースなど屁でもないようだった。

 強敵のレオパルドスも、うちにはブランカという同系統種の騎獣がいるので動きの予測も付く。おかげで、競った場合はフェイントを掛けて出し抜こうと思っていたが、それさえ必要なかった。

 上位のレースだとフェイントは普通に使われているので真似したかったのだが、不要だったようだ。

 足音を立てないで走り抜ける遊びも山ほどやったので、揺れる丸太の上もスーッと通り抜けての一位だった。


 予選参加者の控室へ一旦戻ると、マテオたちが待っていた。

「第一次予選、通過したな! おめでとう」

「ありがとう。マテオも通過してたね」

「観ててくれたのか? いやあ通過してマジで良かったわ」

「そうだぞ、お前。せめて本戦まで残れよ?」

 口を挟んだのはウリセスだ。去年、祝賀会で顔を合わせたレース専門の騎乗者だ。マテオに会いに来たらしい。

「で、シウだったか? お前は確実に残るみたいだな!」

「そうだといいね」

「はっ。去年あんだけのことを言ったんだ、絶対残ると思ってたが……」

 そこで噤んでから、にやりと笑う。

「言うだけのことはあったな。すげえわ、お前」

 そう言って、シウの背中をバンバン叩く。

「痛い痛い」

「はっはっは! あ、おい、フェーレース、怒るなって」

 シウが叩かれていると思ったのか、本気ではないがフシャーと威嚇して尻尾を膨らませている。シウにはフリだと分かるが、ウリセスはフェーレースに慣れていないのか、あわわと狼狽えていた。

 彼の騎獣フェンリルのスピナキアが間に入って謝りにきた。

「がう、がうがう」

「にゃっ」

「がうぅぅ」

「にゃにゃにゃ」

 どうやら納得し、収拾できたようだ。

「ありがと、スピナキア。フェレスも怒ったフリはもういいよ」

「にゃ!」

 フェレスは脅かせてスッキリしたらしく、尻尾をゆーらゆらと振って礼儀正しく座り直していた。前足を揃えたきちんと座りだ。

「あ? なんだ、あれ、フリだったのか」

「ウリセスさんの力が強いから、痛くて困ったのは本当だよ。フェレスは僕の代わりに怒ったフリしてくれただけで」

「ほー。愛されてんなあ!」

 騎獣を持つ者の、自慢が始まりそうな予感がして笑った。

 こういう時、シウはこう返さねばならないのだ。

「そっちもね」

「お、分かるか! さっきも俺のために代わりに謝ってくれただろ? 可愛いよなあ」

 でれっとした顔で、自慢が始まった。

 こうなると他の人も参戦してくるので、シウも合わせておく。

 あと、シウが彼の騎獣の名前を覚えていたことも嬉しかったようだ。しきりに褒められてしまった。

 おかげで、レース専門の騎手として有名なウリセスに可愛がられているということで、シウがその後嫌味を言われるようなことはなかった。

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