104 冒険者崩れと巻き込まれた人達




 ククールスとアントレーネに見張りを頼むと、シウはフェレスと共に落下した飛竜たちのところへ向かった。操者も乗せている。

 彼等も早起きしたので先に出発の準備だ。

 飛竜の様子を確認して、問題がないことが分かったので後は任せて、戻る。


 その頃にはイサベルたちも起きた様子だったので、朝の用意をしてあげて、ご飯の準備だ。

 チャーター便組の四人ものっそり起き出してくると、昨夜の椅子に座って朝ご飯を待つらしい。

「遠慮のない奴らだぜ。あっちには請求しても払わんだろうなあ」

 ククールスがぼやいている。

 人助けなのでお礼を要求するわけではないが、こうも申し訳無さを見せない相手だと、腹立たしいようだ。

 相手が冒険者ギルドに所属しているなら請求もできるのにと零している。

 ただ、お礼なら飛竜便の商会から支払われるだろうことは聞いていたので、ククールスに教えた。

「いや、まあ、別にお金に困ってるわけじゃねえからいいんだけどさ」

 とはいえ、普通は気持ちとして幾らかお礼をするのが「常識」だ。

 その人の払える最大級のお礼でいいのに、それを惜しむ姿が嫌なのだとか。

 ククールスの言うことも確かなので、シウは覚えておくことにした。



 イサベルたちは最後にもう一度丁寧にお礼を言って、落ち着いてから連絡をすると告げると飛竜に乗ってハッセ領へと出発した。

 しかし、もう一頭の方は出立しない。

 なんと、乗客がこちらの飛竜便へ乗り換えたいと交渉してきたのだ。

「少人数だから余裕があるでしょう? 怖い思いをしたので、もうあの飛竜には乗りたくないんですよ。分かるでしょう」

「お願いしますよ。二人ずつ分かれて乗っても十分だ。ね?」

「こっちは荷を失って大変なんだよ。持てる者が弱者を助けるのは、当然のことでしょ?」

 こちらの操者は困るダメだと断っているのに、人数に余裕があるのだからいいじゃないかとゴリ押しだ。

 しかも、彼等の荷物の一部が失われていることから、言外に旅の間いろいろと助けて欲しいようなことを含ませてきた。

 宿泊あるいは野営の準備も然り。

 食事についてもだろう。

「厚かましい奴等だな!」

 ククールスが怒ると、冒険者崩れという男がヘラヘラと笑って肩を竦める。

「いいじゃねえか。助けたのはあんたらだ。最後まで責任を持つのが筋ってもんじゃないのかい?」

「ああ? なんだと、もう一回言ってみろ」

 揉め始めたので、シウが間に入った。アントレーネも眉を顰めているが、彼女には任せられない。彼女に問題があるわけではない。男たちの視線が嫌だったのだ。

 アントレーネは美しく女性らしい体つきをしており、そのせいでだろうが男たちは遠慮会釈なく上から下へとじっとり見ているのだ。

 ロトスも、あいつらキモい! と隠れている。ちなみに彼は、

(俺、超可愛いからショタがいたら狙われる!)

 と、おかしな顔をして慄いている。そんなロトスは無視して、男に向き合う。

「責任を持つのが筋だって言うのなら、もう一度落としてあげましょうか?」

「ああん!?」

 凄まれても怖くない。シウは笑顔で続けた。

「助け甲斐のない人だから、もう一度放り投げてやろうかと思って」

「……なんだと、おいっ!」

「お礼のひとつも言えない、傲慢なあなた方に施してあげるような義理はないです。それと、さっき飛竜便の人に『そっちはキャンセルだ』って言ってましたよね? 契約終了ということで彼はこのまま戻るでしょう。そしたら、あなたたちはここで立ち往生ですね! 良い大人のあなた方を助ける義理はないので、頑張ってください」

 事故を起こすような飛竜にはもう乗れないと言って、勝手にキャンセルしていた彼等に呆れていたシウは、せいぜい悪く見えるようにせせら笑ってみた。

 ロトスは(全然こわくない)とわざわざ念話で伝えてきたが、いいのだ。

 怒ってるんだぞ、ということが伝われば。


 男たちは少し怯んで、それからククールス、そして護衛のルフィノの警戒する様子にゴリ押しは無理だと悟ったらしい。

 諦めて、肩を竦める。

「ちっ、お堅い未通娘おぼこかよ」

 冒険者崩れの男は、せせら笑うというのはこうやるのだという見本のように笑い、へっと鼻息荒く捨て台詞だ。

 レースに参加予定の男二人は、しようがねえなあと言っているが、目はあちこちを彷徨っている。それは大型テントであったり、シウの背負う魔法袋、またフェレスたちへだ。

 残りの一人は、単純に本気であの飛竜へ乗るのが怖いだけのようだった。

 また落ちたらどうしようと、戻るべきか悩んでいる。

 が、ここで彼を引き受けたら残りの三人も付いてくるだろうから、心を鬼にした。


 キャンセルを言い渡されていた操者はこれ幸いと荷物を置き、飛び立つ準備をしていたが、慌てて止められてかなり残念がっていた。

 彼にとっても不幸なことだろうが仕方ない。

 同情はするが、こちらが責任を持つ謂れもないのでサラッと挨拶するだけに留めた。

 もちろん彼は助けてもらったことには感謝して、後ほどお礼のための連絡を入れると言ってくれていた。まともな人なのだ。

 なのでこっそりと、彼にだけポーションをあげた。せめて疲れだけはとってほしい。その気持で、だ。




 この日はこうしたドタバタがあったので出発が遅れてしまった。

 助けたことを後悔はしていないが、面倒事に巻き込まれたという気分は否めない。カスパルがイライラしていないのが救いだ。

 彼はいつものようにのんびりと気楽にしていて、遅れたら遅れたでいいんじゃないの、といった返事だった。

 続けて野営となったのに、それさえも気にしていないようだった。

 飛竜の上でそのことを聞いてみると、

「宿よりもテントの方が極上だと思うよ。今日は入れなかったけど、一昨日はお風呂にも入ったしね」

 そうなのだ。お風呂用テントも実はあるのだ。昨夜は知らぬ人が多かったので配慮したため使っていないが、初日はお風呂にも入った。

「外での食事も美味しいし、危険はないし。むしろ大自然の中で過ごすというのはなかなかない機会だよ。森のなかで読む本もまた格別だったしね」

「……カスパルがそれでいいなら、いいんだけどね」

 相変わらず、本が主役のカスパルなのだった。


 飛竜の上では、ククールスとアントレーネにしっかり休んでもらった。警戒はシウの、自動の《全方位探索》で十分だ。一応、フェレスとブランカそしてクロに交代での見張り番を言いつけた。本獣たちは張り切って仕事をこなしてくれたようだ。


 が、面倒なことは続くもので、後方から尾行して付いてくる者がいた。

 例の四人が乗った飛竜だ。

 シュタイバーンへ向かうのだから同じルートを選んだ、そう言われたらそうなのかもしれないが、数あるルートの中で全く同じというのはそうない。

 操者だけならちゃっかりしているのかなと思わないでもないが、明らかに指示されて尾行しているようだ。

 操者も疲れが溜まると誰かの後を追う方が楽だと聞いたので、彼もつい、話に乗ったのだろう。




 その日は国境越えを済ませ、クリスタ領に入ったところで野営となった。

 普段飛竜便が使う宿街までは少し離れており、夜間の移動も危険だということで仕方なくの野営だ。

 で、案の定、尾行してきた飛竜便も近くへ降り立った。

 そして性懲りもなしに乗っていた男たちが近付いてくる。

「すまんが、助けちゃくれんかねえ。野営の準備が整わなくて困ってんだよ」

 ニヤニヤと笑いながら、冒険者崩れの男が話しかけるが、シウたちは相手にしなかった。

 必要な荷がないのなら引き返すべきだったし、途中どこかの街へ寄って手に入れることもできたわけだ。

 彼等に施す必要はどこにもなかったので、無視した。

 しばらくは、なんやかやと言っていたが、やがて離れていった。

 感覚転移で見ていると、他の男たちがぼやきながら冒険者崩れの男に文句を言っている。どうやら勝手な尾行は彼の指示だったらしい。

 半ば脅しでもしたのか、操者の男はもう文句を言う気力もない様子だ。

 あれではまた事故でも起きかねない。

「ったく」

「シウ、助けるのか?」

「ううん。こっちが大事。これ以上、安眠妨害もされたくないし」

「まあ、俺たちは見張り番も仕事のうちだからあんま関係ないけどよ」

「あたしらは昼間、飛竜の上で寝させてもらってるしね」

 アントレーネも、シウのやりたいようにやっていいと口を挟んできた。

 それでもだ。

「落下から助けた、それで終わりだと思うよ。その後の行動は彼等の責任だもの。ほっとくよ」

「そうか。ならまあ、結界もあることだし、気にせずやろうぜ」

「うん」

 そういうことで、存分にやりたいようにやらせてもらった。


 カスパルにお風呂の用意ができたので入るよう促したら、中を見て目を輝かせていた。

「泡が出ているね。これはもしかして?」

 彼の読んでいた古代本の中に炭酸風呂の記述があって、つい先日偶然その話で盛り上がっていたので用意してみたのだ。

「炭酸水を沸かしているんだけど、お肌にも良いから浸かってみて」

 ロトスの飲料用などで空間庫に大量のストックがある炭酸水は、時々温めてお風呂に使っている。

 普通の人は気持ち悪がるかもしれないがカスパルは先進的だし、事例として知っているのでやはり気に入ってくれたようだ。

 シウの前でポンポン服を脱ぐと、早速入っていた。ダンが付いてきて、その服を片付けながら「おー、面白いな」と笑っている。

「ダンも一緒に入ったら?」

「一応お世話係という建前があるんだけどなー」

「広いんだし、入ればいいのに」

 カスパルもどうぞどうぞと手招くので、ダンも興味津々で入っていた。

「温泉の次は炭酸風呂か。野営とは思えないほど恵まれてるなあ」

 はあ~っと気持ちよさげに息を吐いて、ダンは湯に浸かる。

「おっ、泡がいっぱいくっつくぞ。カスパル、面白いな」

「本当にねえ。これが炭酸風呂かあ」

 洗い場に不足がないか確認した後、シウは二人にあんまり長湯しないようにと注意してから出ていった。


 外ではロランドが椅子に座って赤子の様子を眺めていた。

「カスパルたち、ちょっと長いかもしれません」

「はしゃぎ声がここまで聞こえておりましたからね」

 若様たちの様子に苦笑いだ。

「二人が出て来る頃に食事ですから。それまで子供たちをお願いします」

「ええ、ええ、もちろんですとも」

 ロランドは目を細めてサークル内の赤子三人を眺めて請け負ってくれた。

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