再会の季節と飛竜大会

097 のびのび育て、介護の道具




 風薫る月となり、また学校が始まった。

 月が変わっただけなのに、暑さがじんわりしてくる。

 猫型騎獣といってもフェレスは風属性魔法が使えるため、耐えられないというほどではないようだが、それでも猫の開きという姿は見られた。

 ブランカはまだまだ不器用で、本気で暑がっている。クロが一生懸命に風を起こしてやっていたが、ブランカは舌をだらんと出して寝そべっていることが増えた。

 ユキヒョウ型騎獣なので、多少の暑さは感じるのだろう。

 希少獣なので、元の獣と全く同じというわけではないが、やはり性質は似るらしい。

 そしてロトスもまた、狐の開きになっていた。聖獣姿だと毛があって暑いだろうに。

「人化すればいいのに」

(だって楽だもん)

 たぶん、人化だとしゃっきりしていないといけないから、それが嫌なのだと思う。

 獣姿ならだらけていても怒られないという、下心があるようだ。

 最近は勉強もやる気が出ないようで、人目がないと聖獣姿でのんびり過ごしている。



 そんな希少獣たちを屋敷へ置いて、シウはひとりで学校へ通っている。

 金の日だけはフェレスとクロ、ブランカを連れて行くこともあるが、戦術戦士科の授業に参加させるためであり、午後は学校の騎獣用獣舎へ預けたりした。

 ブランカによその騎獣と触れ合う経験も良いかなと思ったからである。しかし三回目の時、かなり遠回しにだが厩務員から預けるのを拒否されてしまった。

 どうやら野生児二頭の遊ぼう攻撃に他の騎獣たちが参ってしまったようだ。

 しかも、彼等が遊んでくれないとなると二頭がくんずほぐれつとやるもので――本獣たちは争っているわけではないのだがそう見えるらしい――基本的におとなしく躾けられる騎獣たちにとって目の毒らしい。

 ようは、ハラハラしたり不安になったり、動揺が激しいというわけだ。

 それを聞かされた時のシウは、どういう顔をしていいのか悩んだものだった。

 とりあえず、厩務員たちには頭を下げて謝った。獣舎の中の騎獣たちにも謝ったが、よそよそしい雰囲気で終始した。


 デルフ国でもそうだったが、ラトリシア国も騎獣に対する躾が厳しい方だ。

 シウはブランカの調教をスラヴェナという教授に頼んだが、彼女はラトリシア貴族で元宮廷魔術師でもあったが、シウの意向を汲んで緩めの内容にしてくれた。それが許されたのも彼女が元は貴族出身者でなかったことや、すでに伸び伸びと育てられていたブランカのことを慮ってのことだ。いきなりラトリシア風に躾けられていたらストレスで鬱になっていたかもしれない。

 本獣にすれば、手を緩められたあれでさえ、厳しかったらしいが。

 ともかく、つくづくラトリシアに生まれなくて良かったね、ということだ。

「でも、もうちょっと空気を読んで上手くやろうね?」

「にゃ」

「ぎゃぅ」

 二頭も一応反省はしているようだった。ロワル王都の馴染みの騎獣屋では何度も鉄拳制裁を受けていたので、それほど暴れてはいないようだったのが何よりである。

 後日、厩舎にはお詫びがてらおやつでも差し入れようと思う。

 ビーフジャーキーではないが、魔獣の内臓や頭などと共にちょこっと竜の余った部位や、栄養価の高い木の実をミキサーにして乾燥させたおやつを開発したのだ。これがまた食いつきの良いおやつなのだ。きっと喜ばれるだろう。


 ちなみにこの日、話を聞いたロトスがケラケラ笑って二頭を叩いていた。

(楽しく遊んでたら仲間に入れてって来ると思ったのか? なんだその子供発想! ヤバい!)

 大人は遊ばないんだよ、と説教なのか教訓か、とにかく聖獣として二頭を教育してくれる。

(いいか、そういう時はだなあ、相手の興味を引いてから――)

 なにやら企みめいたことも話していたが、楽しそうなので任せることにした。

 大きく逸脱してマナー違反をしたら叱るが、厩務員もそこまでのことではないと言っていたので。

 シウはロトスに、ほどほどにねと声を掛けて部屋を出た。

 希少獣たちが複数いると、互いに遊んでくれるので目を離せるのが良いところかもしれない。

 その間に、シウは赤子三人のお世話だ。できる時にできることをする。

 ロトスには暫く希少獣たちの保父さん役をお願いした。




 この月は、夏休み前ということもあって生徒たちは浮足立っていた。

 授業も詰め込むところもあれば、夏休み前で生徒数が減ることから大量の課題だけというところもあり、昼休みに顔を合わせる生徒たちからはそれぞれの大変さを耳にした。

 シウは相変わらずマイペースにのんびりやっていたが、生産科では騎獣の介護に使う道具類を開発したりして、またレグロや同級生に変人扱いされていた。

「ねえ、騎獣の寝たきり防止装置を作ったって聞いたのだけど」

 さっきまで戦略指揮科の課題の多さを愚痴っていたプルウィアが、クレールからシウへ視線を変えて突然話しかけてきた。

「あ、うん。作ってる」

「相変わらず発想が面白いね」

 エドガールも話に交ざってきた。

「そうかな? でも、これまで頑張ってきた騎獣たちに、最期まで楽に過ごしてほしいからね」

「いいね、そういうの」

 微笑むエドガールの言葉に頷いて、ディーノが口を挟んだ。

「でもあんなに大型の獣をどうやってこう、寝返りさせるんだ?」

「幾つか方法はあるんだけど、あらかじめベッドをそうした作りにしておく方法と」

 手で示しながら、電動ベッドのような動きを見せてみる。

「組み立て式になるけど、四隅に支柱を立てて平たい紐状の布を通して動かす方法だね。滑車を使うと大人ひとりでも動かせる」

 組み立て式なのは、どこに寝ていても動かせる方法が欲しかったからだ。この器具を使って台車に載せるところまでがセットである。

「あと、魔道具になっちゃうけど、結界と風属性魔法を組み込んだ、クッション式の移動方法もあるよ」

 これも台車に載せるまでを想定して、長く浮かすわけではない。このあたりは飛行板の術式を少し拝借した。

 台車も作った。この上でも寝返りを打てるように、底板が動く仕組みだ。テコの原理を使うので人力である。少し動かせれば良いだけなので、大仰でもない。

 これは老獣のみならず、出先で怪我を負ったなどの理由から載せて運べるように、小回りの利く足回りが頑丈な形にしてみた。もちろん組み立てが可能となっている。

 軍に所属する騎獣は、怪我をしても優先順位が人間より下なので後回しとなってしまう。どうかすると魔力切れやポーション切れなどで、結果的に置いていかざるを得なくなるのだ。つまり、死ぬ可能性が高い。そんなのは可哀想だし、連れ帰りたいと思う騎士だっているだろう。この台車は国に売り込むつもりなので、それに合わせて試行錯誤を繰り返していた。

「他にもまだまだ作りたいんだよね。今、介護ブームが来てるんだー」

「また変な言葉を。でもまあ、シウが目をキラキラさせて何か作っているのって、見ていて楽しそうだから好きだけどね」

「ありがと」

「どういたしまして」

 プルウィアとの掛け合いを見て、何人かが小声で「好きなのか」とか「いいなあ」と話していた。ぽうっとした顔をしているので、いまだにプルウィアへの憧れがあるようだ。

 彼等も話をしたら良いのに、どうにも恥ずかしいらしい。青春だなあと、シウは微笑ましく青年たちを眺めたのだった。



 介護用の道具類の耐用実験などに付き合ってくれるのはもちろん、フェレスとブランカだ。クロは小型希少獣だから人の手で十分に面倒を見てあげられる。

「そうそう、死んだフリしててね」

「死んだフリじっけんかー」

「ロトスは茶々入れないの」

「はーい」

 ブラード家の庭でわいわいやっていると、手の空いたメイドやアントレーネと子供たちがやってきた。

「面白いことをやっているね。それは人間の手で運ぶのかい?」

「それなんだよねえ。魔道具にすると運べるんだけど、人力だとブランカまでだろうなあ運べるの」

 車輪が付いていることもあって、意外とブランカでも運べる。しかし、雄の聖獣サイズとなると厳しい。それに。

「山道がなあ」

「なんでもかんでも、全部上手く行くようには作れないさ」

「欲張りすぎかあ」

「シウ様は、ひとつでたくさんのことができるものを作るのが好きだね」

「まあね」

(シウ、前世は関西人だった?)

 ロトスの茶々に、こつんと頭を撫でるように叩いて相手をし、シウはアントレーネと話を続けた。

「魔道具バージョンも作るかなあ。飛竜が入ってこられないような山の中で、騎獣サイズの荷物を運ぶのにも役立つような」

「ああ、そういうのはいいね。あたしの故郷も山岳地帯だったから、荷運びは頭の痛い問題だったよ」

 だから魔法袋を持つ商人が値を上げるのだと、愚痴めいたことまで零す。

「魔法袋はねえ、そのうちきっと出回るよ」

 闇ギルドへのグララケルタの納品は続いているし、落札価格も安定してきた。

 在庫が減っていく感覚は嬉しいが、なんとなくもうちょっと狩ってこようかなという気分にさせる。どうも貯めてしまう悪い癖がついているようだ。

「そうなのかい?」

「うん、たぶん。ラトリシアでもシュタイバーンでも結構出回ってきてるし」

 アントレーネにはシウが空間魔法の持ち主であることは話してあるし、魔法袋も自作だということは知っている。ロワルで自作の魔法袋を売っているなどという細かいことまでは話していないが、なんとなく理解したような顔をして頷いていた。

「でも、だからって魔法袋はほいほい買えるほどのものじゃないしね」

「そうだよねえ。荷運びが楽にできたらいいんだけど」

 段々話が騎獣介護から荷運びに移ってしまったが、気分転換にもちょうど良かった。

 皆でワイワイと話をして、頭がスッキリした。


 その後、山道でも使えるように、魔道具式の台車は歩球板の技術を再利用して作ってみた。あのホイールを大型にして三輪タイプの台車に取り付けたのだ。クッション性もあるし、三点だと安定していながらも、小回りが効く。

 また台車自体を細身にした。騎獣はどのみち太っていないし、縦長にすれば山の中でも移動は可能となるだろう。自分たちが歩いてきた道なら尚更通って戻れる。もっとも、騎獣は飛ぶので、「歩いてきた」のは歩兵になるのだが、連れて戻るのはその兵士になるだろうから構うまい。

 とにかく、試行錯誤の末に、安上がりな歩球板の術式再利用で楽に出来上がった。

 ついでに山岳用の荷運びにもこの技術を利用する。

 前世での知識が役に立った。階段でも引きずって登れるカートを思い出したのだ。老人御用達のカートタイプで、重い荷を載せるため魔道具扱いになるから高くなるが、魔法袋ほど手が届かないということはない。ちょっと頑張れば買える程度、というところまでなんとか術式を落とすことに成功した。

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