095 三つ子の個性と聖獣様のお仕事




 シウたちは風の日の朝に転移でルシエラ王都まで戻った。

 ククールスとはギルドの中で分かれた。ブラード家で部屋を用意しようかとスサたちが言っていたのだが、気軽なのがいいと宿へ戻っていった。彼らしいことだ。

 シウたちは、採取仕事の他に魔獣の引き渡しなどまとめて行い、それらはほぼアントレーネの仕事として処理してもらった。

 シウはもう級数が五級相当でもいいと言われているので、これ以上実績を上げてもしようがないのだ。成人するまではどうにもならない。

 アントレーネは実力はあるので、級数が上がるのは早いだろう。シウと並んでおかないと受けられない仕事もあるということで、彼女もこういうやり方を拒まなかった。


 屋敷へ戻るとすぐさま赤子三人に会いに行く。

「三人とも、良い子にしてた?」

「ええ、とっても。ガリファロちゃんはやんちゃで、昨日からハイハイしてるんですけど、あちこち行くので大変です」

 大変と言いながらもスサの顔は笑顔に塗れている。ニコニコとマルガリタを抱っこしてあやしていた。

「もうハイハイできるようになったんだ。すごいね。あれ、カティフェスは?」

「ロランドさんが休憩だからと連れて行ってしまいました。普段は厳しい顔をしてらっしゃるのに、それはもう……ふふふ……」

 思い出し笑いをして、スサはマルガリタを揺すった。動きに合わせて彼女もキャッキャと声を上げ喜ぶ。

 生まれて二ヶ月にもなると、性格というのも出てきたようだ。マルガリタは女の子らしく柔らかな声でキャッキャとよく笑う。

 ガリファロは、赤ん坊ってこんなに荒ぶるのかと思うほど怪獣みたいな鳴き声と動きをしていた。動けるようになったらあちこち探検しているようだ。

 そしてカティフェスは。

「カティフェスちゃんはあまり表情を変えませんでしょう? だからロランドさんが、こうやって笑うんだよーなんて言って」

 やってみせて、またスサが笑う。

 どうやら百面相をしているようだ。いつもしっかりしているロランドが赤ん坊を相手にやるので、メイドたちは面白がっているらしい。

「それにしても、赤ちゃんたちが三人もいますと、それぞれに個性があって違うものなのですねえ」

「本当に。僕もフェレスで騎獣のことを知ったつもりになってたけど、ブランカを育ててみたらそれは違うんだなって思い知ったし」

「まあ!」

 スサも思うところがあったのか、一瞬声を上げたものの、苦笑気味に笑みを零していた。ブランカのやんちゃっぷりも相当だったので。


 そのブランカを含めた希少獣たちはシウの部屋へ戻ると巣作りをしていた。

 ロトスが許しているので、続き部屋となっているロトスの部屋も巣作りの場所候補だ。みんな思い思いのシーツやクッションを掻き集めて、せっせと居心地良くしている。

 フェレスはお気に入りの玩具を宝物入れという名の魔法袋から取り出して、セットしていた。

「ぎゃぅぎゃぅぎゃぅぎゃぅ」

 ブランカはそれが羨ましいらしい。もっとも魔法袋が欲しいというよりは、素敵なものがたくさん出てくる袋が欲しいような感じだが。

「それはフェレスのだからダメだよ」

「ぎゃぅぅ……」

「もっとお勉強を頑張ったらね。ブランカ専用の魔法袋を作ってあげる。そこに入れておきたい宝物があれば、今のうちから厳選しておかないとね」

「ぎゃぅ? ぎゃぅ!!」

 くれるの? 分かった! と途端に機嫌よくなってバタバタ走り出した。貴族の家の、ご隠居が入るような部屋だから大きいのだけれど、それでも大型騎獣が走り回れるほどではない。クロとフェレスに注意されながら、ブランカはあちこちに散らばった玩具を掻き集めていた。

 隣室ではロトスが皆と競争のつもりだったのか、先んじて作るのだと必死に巣作りをしているようだった。



 この日はアントレーネ共々屋敷でゆっくりと過ごすことにした。

 彼女も、赤ちゃんたちに忘れられないようにと言って、覚束ない手つきで世話をしていた。慣れない様子ながらも、生まれてから二ヶ月、母乳をやったりおしめを替えることはしてきたので、母親の顔になっている。

 リュカが帰ってくると、赤子の世話はもっと楽になり、みんなで協力して育てていくというのは良いことだなあと感慨深く思った。

 もっとも、お世話をかけている側のシウが言うのはおかしいので、お礼は食べ物でと、張り切って晩ご飯やおやつを作ったりして過ごした。





 光の日はシュヴィークザームへ会いに、王城へ出向いた。

 最近お仕事とやらで大変らしいから、一応お伺いを立てて行ってみたのだが、部屋に入るなり会いたかった! と抱きつかれてしまった。

「どうしたの? そんなに忙しかったの?」

「そうなのだ! ヴィンちゃんときたら、我をあちこちに引っ張り出しおって!!」

 部屋の中には王の秘書官が困惑げにこちらを見ていた。最近、睨まれることがなくなったので良いのだが、反対に「どうにかしてくれないかなー」という目で見られるようになった、気がする。

 今もチラチラとシウを見てから、シュヴィークザームに視線を向けていた。

「ええと、でも聖獣の、ポエニクスの仕事なんじゃないの? 差し支えなければどういうお仕事をしているのか教えてほしいなー」

 棒読みになったが、シュヴィークザームは不審がることもなく教えてくれた。

「式典に礼装で出るための準備だ」

「式典! すごいね」

「……すごいか?」

 体を離して、シウの言葉を測ろうと目を見てきたから、にっこり笑って返す。

「僕には無理そうだもん。礼装とか格好良いだろうねー」

「そ、そうか?」

「シュヴィは黙ってたら美形みたいだし、礼装してシャキッと立ってたら聖獣の王様そのものだよ」

「……あまり褒められてる気がしないのだが」

「褒めてるよ!」

「そ、そうか」

「なんだかんだで礼儀作法も身についてるみたいだし。僕なんかロワルの魔法学院で勉強したけどさっぱりだよ」

 肩を竦めたら、シュヴィークザームも同じ仕草をした。

「ああしたことは我も疲れるのだがな。人間の決めたことに何故従わねばならんのだと思うが、これも快適な生活のためよ」

 引きこもり生活がよほど快適らしい。

 まあ、なんだかんだ言いつつ王やヴィンセントのことは好きらしいし、最近この聖獣の『ツンデレ』を理解してきたシウなので、今の言葉は流すことにした。

「それはそうとして、式典の準備で忙しかったんだ?」

「こたびの式典では聖獣の下げ渡しもあるのでな。我が訓示を述べてやらねばならん」

「下げ渡し?」

「特に功労のあった者に、譲ることもある。本音を言えば、年老いてろくに働けなくなった聖獣を養ってやることが――」

「聖獣様!」

 悲鳴のような注意する声に阻まれて、シュヴィークザームの言葉は途絶えた。

 見ると、秘書官やそのお付きの人がぶんぶんと顔を横に振っている。どうやら余所者に話していいことではないらしい。

 シウは苦笑しつつ、頷いた。

「つまりあれですよね。年老いた聖獣たちの余生を贅沢に過ごさせてやってくれという、国の計らいであると」

「……まあ、そうとも言う」

「良いじゃないですか。相手は聖獣を与えられたという名誉をもらい、国は予算を抑えられる」

「む。おぬしはこうしたことは嫌なのだと思っていたが」

 それはそうだ。

「本音を言えば、確かに。でも、最後まできちんと面倒を見ると約束してくれるなら、大事にしてもらえるところで最期を迎えるのもアリかなと思う」

 シュヴィークザームが黙り込んだので、シウはほんのり笑って続けた。

「働けないからって理由で居心地悪い思いするなら、大事に大事に面倒を見てくれるところの方が聖獣たちも良いんじゃない?」

「まあ、そうかもしれぬが」

「制度として確立してるんでしょう?」

 これは秘書官への質問だ。彼はソファから立ち上がり、頷いた。

「きちんと、事後の様子も観察することになっております。時折、抜き打ち検査も」

「ほら」

「うむ……」

「本当はパートナーが最期まで面倒を見てあげられたら良いのにね」

「そう、そうなのだ」

「でも彼等も働いているから、老後の面倒を見るのは難しいんだろうね。全然違うところに下げ渡すなんてちょっと可哀想だとは思うけどね」

「そうなのだ。ただ、相性の良くないパートナーもいるのでな。一概に、そのまま下げ渡すわけにもいかぬのよ」

「聖獣や騎獣たちの気持ちはシュヴィが聞いてあげてるんだ」

「我には畏れ多いというので、調教師が代わりにな」

「……幼獣時代を過ごす場所があるんだから、老獣時代の場所があっても良いのにね」

「うん?」

「ほら、この国では卵石から騎獣が孵ればまとめて面倒を見ているそうじゃない。調教師と共に学校みたいな感じで」

「ああ」

 聖獣は卵石の段階から判明していることが多いので、王城の然るべき場所で養育するらしい。

「年老いて働けなくなった希少獣を、そうだなあ養護施設ではないから、養育院かな? そうした場所を作って有志の手でお世話するんだ。国からの補助金と、貴族からの寄付で運営を賄って。街の人にも手伝いを募って。大変だけど、普段見ることのできない聖獣や騎獣に触れ合えるんだから、街の人も親身になってくれそうな気がするけどなあ」

 夢物語かなあと、笑ってシュヴィークザームに話しかけたら、彼よりも秘書官の方が驚いていた。

「そ、それ、良いですね!」

「え?」

「幼獣学校があるんですから、老獣の養育院があっても良いです。いや、聖獣だと下げ渡すことも可能なのですが、それでさえ最近は要らないという貴族がおりまして。一昔前は聖獣様だと喜んでいたくせに、査察が面倒らしくて最近は嫌がられる傾向にあるのです。騎獣はもっと悲惨で、パートナーだった騎士からも要らないと言われてしまったり。いやこれはご家族の同意がないと無理なので、致し方ないところもあるのです。なにしろ食費がかかりますし、寝たきりになれば家僕は最低でも三人は必要となりますからね」

 大型の騎獣となると体も重いので寝返りさせるのも大変だ。元パートナーの騎士たちが引き取りたくても引き取れない事情も、ちゃんとあるのだった。

「……老獣の養育院か」

 何やら思いついたらしい。なんだか良い人のようだ。シュヴィークザームも思うところがあったのか、秘書官の肩を叩いてソファに座らせていた。

 とりあえず、彼等にも休憩を促そう。

 シウはシュヴィークザーム付きメイドのカレンに目配せして、お茶の用意をしてもらった。

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