086 パーティーで討伐




 受付でアントレーネの冒険者登録を行う。

 シウの時と違って見習いから始めないでいいから羨ましい。

 読み書きが得意でないアントレーネに教えながら、書き進めているとロトスが覗き込んできた。

(本物の冒険者登録カードだー)

「ロトス、ちゃんとロワイエ語で喋ろうね」

「はーい」

 ロトスはもう八歳ぐらいの姿をしている。しかもシウの時のような八歳程度ではなく、この世界の平均的な大きさだ。

 つまり、意外と大きい。

 もしかしなくても、夏の終わりには背が追い抜かれるかもしれないなと思うほどだ。

 リュカもちょっとびっくりしていた。

 彼も随分と伸びたが、大きくなるとは聞いていても実際にロトスの成長ぶりを目の当たりにすると驚くだろう。

 シウだって驚きである。

「おれも、登録したいなー」

「無理だってば」

「シウみたいに、いんぺーできないもんなあ。魔法の練習、もうちょっと真面目にやらないとダメかあ」

「最近サボってるもんね」

「この間、スサにも字が汚いって言われたー」

「あはは」

「笑い事じゃないよ。サビーネさんが、俺とレーネにとっくんだーって」

 話していると、アントレーネが机の上に突っ伏した。

「どうしたの、レーネ」

「シウ様。あたし、サビーネさんに『子供たちにバカにされたくないでしょう?』って言われてさ」

 声が鬱々としている。

「どうしよう。母ちゃんがバカだって分かったら、泣くかな?」

 ガバッと起き上がってシウに聞いてくる。その顔が必死だ。

 見ていると、登録用の紙に、引きつった文字が踊っていた。

「……大丈夫だと思うよ? 僕の知っている人よりずっとマシな字を書いてるし、どんどん覚えてるもの。第一、母親をバカにするなんてお尻ペンペンだよ」

「ぶはっ」

 吹き出したのはロトスで、アントレーネは半泣きでシウに抱きついていた。

 何やらメイド長の厳しいシゴキに、思うところがあったようだ。可哀想に。

 でも、それも全て彼女のためだ。

 ついでにロトスも。

「ロトス、笑ってるけど、君だって勉強しないとダメなんだからね」

「はあい」

「シュヴィよりはマシだけど、でもまだまだひどい字なんだから」

(うわ、藪蛇!)

 また念話を使ったのでシウが睨んだら、ロトスはきゃーと笑いながら走っていった。


 登録は無事に終わった。

 最後まで全部アントレーネが自身で書いたが、受付のユリアナは、

「あら、まだ綺麗な方ですよ。もっとひどい字を平気で書く冒険者は多いですからね」

 とアントレーネを慰めていた。

 アントレーネはユリアナをいっぺんで好きになったようだった。



 掲示板に張り出される依頼書を皆で見ていると、冒険者の男たちに混じってククールスがやってきた。

「今日はパーティー編成か。お、ちびっこもいるのか」

(イケメンエルフきたーーー!!)

 ロトスの念話が乱れ飛んだが、それを無視して答えた。

「うん。でもこの子はただの付き添い」

「おー、いいぜ。ちびっこの護衛なんて多いしな」

 よろしくな、とククールスはロトスに挨拶する。良く言えば気さくな感じの挨拶に、ロトスも気楽に返事をしていた。

「俺、ロトス。よろしくね!」

「俺はククールスだ」

 それから、アントレーネに向き合う。

「あたしはアントレーネ、シウ様の奴隷だ」

「おおう。そうかよ。まあ、なんでもいいよ。同じパーティーってことでな」

「ブランカも本格的に参加させるけど、いい?」

「構わないぜ。俺は飛行板に乗ろうか?」

「ううん。練習になるからブランカに乗って。ふたり乗り練習のつもりで」

「よし。じゃあ、シアーナ街道か、草原あたりの依頼から探すかな」

「うん」

 ということで、全員で依頼を探す。

 ロトスやアントレーネにも頼んだのは、文字を読む能力を上げるためだ。

 依頼書は受付職員が書いているので読みやすくて綺麗なのだ。勉強するにはもってこいである。

 ちなみに、文字の読み書きができない冒険者でも、自分の仕事の種となる依頼書の文字ぐらいは記憶している。

 最初から分かるわけではないが、耳にしたり教えてもらいながら、覚えていくのだ。

 だから、見よう見まねで冒険者に必要な文字だけは書けたりする。



 結局、あまり旨味はないが早々に片付けた方がいい依頼があって、それを受けることにした。塩漬け案件になる前で良かったと、担当のルランドに言われた。

 王都門の外から騎獣に乗ると、一気にシアーナ街道方面へ向かう。途中東へそれて、ミセリコルディアの森の手前にある草原へ降り立つ。

 訓練としてブランカにはアントレーネとククールスが乗っていたのだが、降り立った時に少しだけ足がガクッと来ていた。すぐにシャキンと立ち直ったので、シウは笑いを噛み殺した。

 フェレスはもっと飛ばしたかったろうに、珍しく焦れもせずに飛んでいた。本当に賢くなったなと思う。

「お疲れ様。さあ、じゃあ索敵を始めようか。フェレスは北を。ブランカは南ね」

「にゃ」

「ぎゃぅ!」

 張り切って飛んでいった。もうすでにククールスは見付けているし、アントレーネも索敵を開始していた。

 クロは高度上空から見張りを頼んでいる。

 すぐにクロから連絡が入った。念話を飛ばしてきて、イメージを伝えてくる。

「(分かった。そのままブランカのフォローに回って)」

 きゅぃ、と返事をして、クロはブランカのところまでスピードを上げて飛んでいった。

 フェレスを呼び戻し、ロトスを背に乗せて飛んでもらう。

 シウたちは飛行板で移動だ。

 アントレーネもすでに乗りこなしており、この練習にも今回の依頼はちょうど良かった。

「シウ様、あたしの索敵だとカニスアウレスは十四匹なんだけど、ブランカ一頭で大丈夫だろうか」

「成獣なりたてとはいえニクスレオパルドスだから大丈夫だよ」

「そうか」

「それはともかくさー、俺の探知だと十五匹だぜ」

「えっ、そうなのかい?」

「なあ、シウ」

「僕のだと、十三匹と二体」

 笑って振り返ると、ふたりもその意味に気付いて笑った。苦笑したのはアントレーネだ。

「なるほど。ブランカは強く、あんたは見た目と違って一流の冒険者ってことか」

「これでも三級なんだぜ?」

 褒めてもいいよと、ふふんと笑うククールスに、アントレーネは真顔で頷いていた。


 ブランカのところへ到着した頃には、十二匹と三体になっていた。

 カニスアウレスは草原でよく見かけるジャッカルみたいな魔獣だ。

 普段森に住んでいるが、群れになると草原へ出てくる。そこで人を見付けては襲うので、急ぎの討伐対象案件となる。

 が、素材に旨味がないため、敬遠されがちだ。

 しかも、大抵群れになっているからこそ討伐依頼となるのだが、初心者向けほど弱い魔獣でもない。

 中堅からすれば、討伐依頼料しか入らないのでやりたがらないのだった。

 このまま塩漬けになるのなら「冒険者仕様の飛行板」を貸し出す条件付きとするところらしかった。

 逆に言えば、冒険者仕様の飛行板に乗りたい者は多いので、シウたちが機会を奪うことになった形だ。


 到着すると、アントレーネがすぐさま飛行板を下りて流れるように背負い込むと、同じく背に佩いていた大剣を抜いて走り込んだ。

「うわお、すごいな」

 一匹二匹と続けざまに切り倒していく。その素早さと、確実さにククールスはひゅうっと口笛を吹いた。

 フェレスに乗って見ていたロトスも、きゃっきゃと喜んでいる。

「すごいすごい!」

 シウとククールスは手を出す気はなく、一頭と一人の戦いを見ていた。危なくなれば手を貸すつもりだったが、ヒヤリとするようなことは一切なかった。

 ブランカの倒し方は雑なところも多いが、なにしろ力が有り余っている。

 大柄な巨体、またニクスレオパルドスとしての潜在能力が高くて、敵にもならないのだ。カニスアウレスやルプスが相手なら、十分勝てる。

 ただし、昔のフェレスのように素材をダメにする倒し方だから指導は必要だ。

 フェレスの教育もあって随分スマートに戦ってはいたが、ちょっと気が急いたのか荒かった。

 反対に、アントレーネの戦い方は圧倒的だった。

 無駄な動きを見せず、首を落とすか、あるいは魔核を狙う。一貫して、気を抜かず冷静に対処していた。

 たとえ格下の相手でも、そうした態度で攻められるのはすごいことだと思う。

「あれじゃあ、肩慣らしにもなってないんじゃないか?」

「だね。レーネにはもうちょっと強い魔獣でも良かったみたい」

「ブランカはちょうど良かったろ」

「うん。徐々にね。でもやっぱり小さい頃から魔獣を見ているせいか、必要以上に怖がらなかったのはいいね」

 むしろ、俺は倒すぜ、という闘志溢れる態度で苦笑する。

「今日から解禁って言ってあったのか? 躊躇いなくやったよな。にしても、あれで雌なのかあ」

 ククールスもちょっと笑ってる。ブランカは傍目からみたら雄みたいな勢いで闘志を漲らせているのだ。

「種族の違いかなあ。ブランカ、雌なのにちょっと男前すぎるよね。おーい、ブランカ、もう終わったから落ち着いてー」

「ぎゃぅ!」

 テンション高く返事をすると、口元を真っ赤にして走ってきた。相変わらず、直前で急ブレーキをかけて止まる仕様だ。それから、褒めて褒めてと嬉しそうに甘えてくるので、先に口周りの血が気になって浄化を掛けてから、思う存分褒めてあげた。

 もちろん、見張りをしていたクロも呼んで、褒める。

「ふたりとも、すごく頑張ったね。よしよし」

「ぎゃぅぎゃぅっ!!」

「きゅぃ」

 可愛い甘え声に、何故かフェレスが後方から「にゃう!」と偉そうに返事をしていた。

 ロトスがその上できゃっきゃと笑っている。

 フェレスの「よくやった!」という言葉がお気に召したらしかった。

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