075 おやすみとガルあにき




 光の日にはイオタ山脈の爺様の家へ行って一日遊んで過ごした。

 ラトリシア国とは違って深い山の中でも春は確実にやって来ており、何か植えてみたいというロトスの一言で畑作業をすることにした。

 勝手に生えてくる野菜も有り難いが、一度魔法を使って大掛かりにやってみてもいいなと思い付いて、更に開墾する。

 考えたらさほど手をかけずに済む上、転移でちょこちょこ戻って来られるのだ。畑をやっても問題はない。

 爺様と暮らしていた頃と比べたら何百倍にも広げた畑には、何を植えるか考えるだけでワクワクした。

 ロトス用の畑は小屋の一番近くにある小さなものだ。

「おれ、せんよう!」

 そう言って、嬉しげに掘り返していた。狐姿に戻って。

 ついでに、遊んでいると勘違いしたらしいブランカも泥まみれになっていた。


 フェレスとも、山の中を縦横無尽に飛び回って訓練がてらの遊びに熱中した。

 一頭で飛ぶ時と、人を乗せて飛ぶ時の違いなどを確認していく。こうしたところは、感覚に優れたフェレスだから言葉ではなくイメージですぐに対応できる。

 おバカなところもあるが、フェレスは飛ぶことや戦闘においては鋭い感性を持っていた。

 ブランカとも並んで飛んでみたが、彼女はまだ飛行魔法が上手くないこともあってか小回りが苦手で、性格的にもフェレスのようなちょこまかとした木々の間を縫うような飛び方は合わないようだ。それでも無理に飛ぼうとするから頭をぶつけたり、尻尾でバランスを取っているのに、その尻尾を挟まれたりと悩ましそうだった。

 クロはもう立派に成獣と呼んで良いほどで、安定して飛べるようになっていた。

 風を読むのも上手く、風属性魔法と併用して効率的な使い方をしているようだ。滑空姿は美しく、気配を消したり、ホバリングも魔法を節約しながら使っているようだった。

 また、最近は声真似もできるようになってきた。

 伝えてね、と言えばきちんと覚えてくれる。本人がまだ納得いってないらしいのでデビューはしていないが、いずれ、伝書鳩ならぬ伝書グラークルスとして働いてもらおう。


 皆が飛ぶ姿を見て、ロトスも俄然やる気になったようだ。

 早く大人になって飛んでみたいと、鼻息荒く宣言していた。


 夜はコルディス湖の山小屋へ移動した。温泉があるので、泊まるのならばこちらの方が良いのだ。

 全員でお風呂に入って疲れるまで遊び、お風呂から上がると一頭ずつブラッシングする。ロトスも一緒に並んで待っているのが可愛かった。

 待ちきれなくて寝てしまったフェレスにも、最後になったが念入りにする。目を開けて、とろんとしたまま、にゃぁと鳴く。

 シウがブラッシングしてくれるのに起きてられないのー、といった感じらしかった。





 火の日になると、シウはあらかじめ連絡を入れていたので、ガルエラドのところへ転移した。

 通信では詳しく話していなかったロトスのことを説明し、良ければ山小屋へ来ないか誘って、アウレアと共に転移で戻る。

 フェレスとクロはアウレアをちゃんと覚えていて、わーと喜んで駆け寄っていたが、ブランカはちょっと記憶が怪しげのようだった。ただ、皆に流されて、わーと近付いて、顔を見ているうちに思い出したらしい。相変わらず、ブランカはちょっぴり残念な子だ。

「フェレス、クロ、ブランカだあ! アウルだよ!」

「にゃ、にゃにゃ」

「きゅぃ」

「ぎゃぅ!」

 各自、身を寄せてすりすりして挨拶している。

 ロトスは人化していたので駆け寄りづらいのか、立ち止まっていた。その顔を見ると、ぽかんとして口を開けている。

「どうしたの?」

(天使や。天使がおる……)

「なんで【関西弁】なの」

(いや、だって。衝撃度すごすぎ。俺、自分の顔を見て以来の、青天の霹靂)

「ふうん」

(俺、この子になら、主になってもらってもいいかな!)

「……一応だけど、アウルは男の子、だよ? 主従関係を結ぶのは女の子が良いんじゃなかったっけ?」

 アウレアの性別は、将来まだどうなるか分からないそうだが、今のところは男で落ち着いているらしい。ガルエラドも医師ではないし、そんなところを毎回見ているわけでもないそうなので、自信はなさそうだが。

 念のため鑑定したら、毎回曖昧な結果が出ているので、アウレアの「母」だった人と同じ感じになるのだろうと思っている。

(えっ、マジっすか)

「両性のまま落ち着くかもしれないし、まだ分からないけどね。これ、内緒だからね? ロトスの場合、主従がどうって言ってるから教えたんだよ」

(だ、だよね、超個人情報だよね! うわあ)

 その場に蹲ってしまった。いろいろ、考えることが多そうだ。

 シウはロトスをそのままにして、ガルエラドに謝った。

「ごめん、バラしちゃって。でも、この子がちょっと突っ走りそうだったから」

「いや。主従と聞こえたから、大体は分かった。どうやら、この聖獣の子はお調子者のようだ」

 ガルエラドの声を聞いて、ロトスが立ち上がり振り返った。

「おっきー」

「竜人族だからね。彼がガルエラドだよ。この子は、本名はあるけど、呼び名はアウル」

 アウレアは名を呼ばれてとことこ近付いてきて、同じぐらいの大きさの少年に向かってにこっと笑いかけた。

「アウルだよ。こんにちは」

「う、こ、こんにちは。おれ、ロトス。よろしく、ね?」

「よろしくねー。シウ。アウル、フェレスたちとあそんでいい?」

「うん、遊んでおいで。フェレス、気を付けてね」

「にゃ」

 はーいと、いつもの返事で皆連れ立ってコルディス湖へと飛んで行った。

 残ったのは三人だ。

 シウは、ガルエラドに飲み物を出してあげながら、ロトスについてや、ハイエルフ対策の魔法などについて詳細を説明した。


 一通り話し終わると、ガルエラドはロトスを見て、そっと頭に手を置いた。

「よく一人で頑張ったな」

「あ、うん、えっと」

「お前は立派な男だ。偉いと思う」

(なんだこの、マジ格好良い男は。竜人族かっけー! 角触りたい! 尻尾触りたい!)

「ロトス、それ笑えない」

 尻尾、ではなく竜尾、だ。そして、これを触ることの意味を説明したのに、それを分かっていて念話で伝えてくるのだ。

「はーい。あ、ごめんね? ええと、いっぱいいやなことあったけど、シウが助けてくれたから、もういいんだー」

「そうか」

「ガルあにきも、たいへんだね!」

「あ、あにき?」

 たじたじのガルエラドに、ロトスはぐいぐい攻め込む。

「だって、おとこまえだもん。そういうつよい男は、あにきだよ。かっこいい、あにき! おれ、あにきってよぶね!」

「いや、それは」

「ガルあにき! おれも、おとなになったら、アウルをたすけるの、てつだうね!」

「あ、ああ、そうか」

 ガルエラドをやり込めるとは、さすがロトスは大物だ。

 感心していたら、ガルエラドから助けてのサイン(たぶん)が届いて、シウは笑った。

「ロトス、冗談はさておき」

「じょうだんじゃないもんね!」

「はいはい。とにかく、ロトスも情報を知ったから、誰にも話さないように気を付けてね」

「わかった! まかせて!」

「じゃ、もう遊んできていいよ。一緒に遊びたいんでしょ?」

「ほんと!? んじゃ、行ってくるー!!」

 これは本当の声だ。ウキウキして山小屋を出て行ってしまった。

 その後姿を見て、ガルエラドはちょっとホッとしたようだった。



 残された大人組――シウは大人のつもりだが――で、先ほどとは違って細かい打ち合わせのような情報交換をした。

 たとえば、ガルエラドが今いるシャイターンの地方都市のことや、シウが先日狩ってきた水晶竜のことなどについてだ。勝手にガルエラドの魔法袋へ素材は入れていたし、逆のパターンもあったが、互いに詳細な説明はしていなかった。

 他に、デルフ国の情報、ウルティムス国のことなどを話して聞かせる。

「それから《転移指定石》を多めに渡しておくから、いざというとき使って」

「しかし、ここへ来るのは良くないと思うが」

 万が一相手の追跡があった場合、せっかくの山小屋がどうなるのかと不安に思うらしい。

「だったら、この間作ったばかりの隠れ家に設定しておこうか?」

「こんな場所を別に作ったのか」

 呆れたような視線にも見えたが、反面どこか面白そうな色合いもあって、彼も男の持つ「少年心」が擽られたのかもしれない。

 シウは、オプスクーリタースシルワに聖獣ポエニクス用の山小屋を作った経緯と、その際にヴァニタス近くの崖の横穴を利用して自分専用の隠れ家を作ったことを話した。

「相変わらず、やりたい放題だな」

「転移ができるからね」

「だが、そこなら、我とアウルが転移しても、問題はなかろう。この施設は、潰すには惜しい」

 居心地良く改良し続けている小屋の中や、窓から見えるコルディス湖の景色を見て、しみじみと語る。

 ガルエラドと二度目に邂逅した時に出会ったコルディス湖は、どうやら彼のお眼鏡に適ったようだ。

「あそこは、一時滞在用って感じだからね。これから過ごしやすくするつもりだったけど、確かに景色的には失っても惜しくない感じのところだ。ここは思い入れもあるし、ガルの言う通り、転移先の登録はあっちにしておくよ」

 使用者権限も付けて、常に身に付けておくよう飾り紐で包んで落ちないようにもする。


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