064 境界対策、デルフ国事情、性格判明




 月の後半には余裕もできて、研究していたものを爺様の家に残してきた。

 狩人宛に、である。

 かなり前から、狩人の里を守る魔狂石について気になっていたことから、対策を考えていた。


 魔狂石は魔素を狂わせるが、体内魔素を練るのが上手な人はこれに動じることはない。

 知能があり、かつ獣の本能が残る騎獣なども素通りできるようだ。フェレスは特に気にせず飛行していた。

 シウの場合も、元々魔力量を節約していたために、その流れで体内魔素を感じることができていて、問題なかった。

 となると、同じ体質であったり、魔素を練ることのできる上位者が狩人の里を襲えば、困ったことになる。

 能力の高い狩人たちならば逃げきれるかもしれないが、里の成り立ちから考えると、立ち入らせないことが一番だ。


 狩人たちは、里から西へ遠く離れたミルヒヴァイスの森へ、意味もなく立ち入る者を排除してきた。

 それは、大昔のハイエルフ一族が彼等にしか成し得ない能力を持って対処していたことに、由来する。ハイエルフは種族固有の魔法を使い、恐ろしい地下迷宮を封印して、管理していた。狩人の祖先はその手伝いをしていたのだ。

 廃れてきているハイエルフの一族ではあるが、残った善意の者たちで今も定期的に封印を施しているらしい。

 狩人はそれらを守るために森の一部を監視している。

 その森の続きに、イオタ山脈があり、南部の森ではシウを拾い育ててくれたヴァスタ爺様が管理をしていた。

 もちろん、広大な土地だから抜け道はある。

 その抜けた穴を潜って、シウの両親は山越えをしてきたのだから。

 それでもしないよりは良いと、狩人たちは自主的に、大昔の約定を守って生きているのだった。


 彼等が滅多なことで冒険者などが入らないよう、特に狩人の里は特殊なので目眩ましをしているのだが、それに使っているのが惑い石と魔狂石だった。

 惑い石はその名の通り、人を惑わせる。空間魔法に近い威力を発するらしく、空間認識がおかしくなるのだ。これは一般人ならば迷って抜け出せなくなるが、狩人のようなレベル、つまり上位の冒険者ならば惑わされない。

 なので、狩人たちは魔狂石を人為的に設置していた。

 ただ、これも対策をすれば通り抜けることは可能なので、完全ではない。

 そのため、ちょこっとだけ強化できればと考えたのが、強い磁力を発する魔石を設置することだった。更に、隠れるように魔素遮断魔法を別に付与したものをばらまけば良い。

 魔素遮断魔法は、以前に《鋲打機》型で、鋲針に付与する形の魔道具を作ったので、それを利用してもらう。磁力魔石は目眩ましだ。実際、磁力が強すぎると魔力の多い者ほど魔法を使いづらくなる。騙されてくれるはずだった。

 幸いにして狩人たちは魔力が少ない方だし、結界を張るように外側へ設置する分には人体への影響もないだろう。そもそも磁力そのものは自然界に存在しているし、人体への影響はないと言われているので大丈夫だろうとは思う。


 惑い石と魔狂石、更に磁力魔石と本命の魔素遮断魔法で、通行者は減るだろう。

 狩人の里が嫌う、善意ではない方のハイエルフ一族アポストルス派が来ることは避けられないが、彼等もさすがに何の理由もなく狩人へ敵対することはないはずだ。

 アポストルス派が最も敵とするのは、血族の血を汚すこと。

 それ以外の人間は、たぶんどうでもいい。

 怖いことであるが、あれは相対するまでは放っておく。こちらから藪をつついて蛇を出す必要はない。


 とにかくも対策のための魔道具を爺様の家に置いていたら、それらはいつの間にか消えていた。

 残された手紙には彼等の言葉と符牒で「了解」と「謝意」が示されていた。

 余計なことをしたかもしれないと思っていたので、受け取ってもらえたことは嬉しい事だった。





 そんなこんなで、大きな事件などもなく、相変わらずマイペースに生活していたシウだが、デルフ国などでは内乱が起きているというきな臭い話が聞こえてきた。

 以前、魔獣スタンピードで揉めたというデルフ国の南部の領が戦を始めたそうだ。他の領地にも飛び火して、王家を弑する動きもあったという噂まで出ていた。

 幸いにして、デルフの王族は政治力が高いらしく、強力な貴族連合を作り上げて対処したようだが、シウは顔見知りが王家にいるので少々心配ではあった。

「それ、モノケロースのかわいい子のこと?」

 人型でも少し大きくなったロトスが、小首を傾げる。

「そうだよ。ちっちゃくてね。ロトスぐらいだったかな? まあるい髪型の可愛い子だったね」

(シウ、顔が緩んでる! その顔だから許されるんだぞ? もうちっと成長してブサイクだったら、おまわりさんこっちです! って言われるんだからな!)

 どうやら変態だと言いたいらしい。失敬な。

 シウは笑って、手を振った。

「モノケロースになっている時の方が可愛かったんだよ。こう、ちんまりとした角があってねえ」

(ヤベえ、シウ、そっちの趣味かよ!)

 あくまでも変態にしたいようだ。シウは威力を弱めて、ロトスの額にデコピンをした。

「いたっ、シウが、いじめるー!」

「はいはい。とにかく、ラトリシアの南に位置するデルフ国が揉めてるからね、今年の闘技大会ももしかしたら開催されないかもしれないよ」

「えー」

 この話をしたくて、デルフの情勢を調べてロトスに話していたのだ。かなり話が飛んでしまったが、シウはいつも思い付いたままに行動したりするので、これは悪い癖の一つだ。

 最近はロトスが突っ込んでくるので、シウも自分の悪癖やら、反省すべき点をよく見付ける。

 有り難いが、無性に恥ずかしくなることがあって、穴があれば潜りたい気分だ。

 前世では人生を全うして、それなりに経験を積んできたと自負していたし、今生でも爺様やらたくさんの人に師事し、かつ大量の本を読んできた。

 しかしそれらは頭でっかちで、思い上がりでもあった。

 性格やら性質というのは、そう変わるわけがなかったのだ。

 ここにきてシウは自分が、そうとう頑固であることや、変わった感性の持ち主だということも認識し始めていた。

 孤独ではなくなったものの、どこか、歪な部分もある。

 今後はこれらを、なだらかにしていけたらな、と思っていた。


 そもそも、ロトスと闘技大会の話を始めたのは、休みの予定を立てるためだった。

 雪解けの月も終わりに近付き、芽生えの月になれば二週間の休みがやってくる。

 この休みを使ってロワルへ行くつもりなのだが、じゃあ他の休みは何をする、という話になったのだ。

 一昨年は闘技大会、昨年は飛竜の大会に連れて行ってもらったと教えたら、ロトスは目に見えて喜んだ。

(ファンタジー! 闘技大会! 俺、絶対行きたい!! お願い、シウ、連れてって!!)

 見えない尻尾を高速で振られて、シウは事情を説明したのだった。

「飛竜大会なら、行けるよ。それより、旅行の用意はできてる?」

 彼専用の魔法袋は、今は兎の形のリュックになっている。子供が大人のような革鞄を持っていたら目立つしおかしいと、本人が小さいうちはこれにしてくれと絵を描いて持ってきたのだ。

 そのせいで、カスパルやダンにまた、生温かい視線を向けられ、笑われてしまった。

 フェレスの猫の鞄も、ロトスの兎の鞄も、決してシウの趣味ではないと言いたいのだが、あまり否定したりすると彼等が悲しむので、生温い視線を甘んじて受け入れることにした。が、やはり、少々気恥ずかしいのであった。

「旅行鞄にもちゃんと入れておかないとダメだよ。その兎の魔法袋はあくまでも、ただのリュックなんだからね?」

「うん。こっちは、シウがくれたのしか入ってない。でもさー、りょこうかばん、ちっちゃいんだもん」

「ロトスが持てる大きさにしたからね。小さい子が持っていたら可愛いよね」

 ニコニコ笑うと、ロトスは呆れたような顔をして肩を竦めた。

「おやばか。あ、じじばか、かな。シウ、そういうところにばっかり、じょーねつかけてるよね」

 そう言ってチラッとフェレスたちを見た。

 首輪が新調されていて、スカーフも各自気に入ったものを並べ――ブランカだけはぐちゃぐちゃにしていたが――選んでいる。

「あのレースのまえかけ、おれ、わらっちゃった!」

「ああ、あれ。うん、夜なべして作ったんだけどね。すごく時間かかったよ……」

 途中、魔法を使おうか何度も悩んだレースのスカーフだ。

 その代わり、フェレスはとても喜んでくれた。

「シウってさー、こどもできたら、ぜったいあまあまになるよ。きをつけないとね!」

「うん、その自覚ある。……フェレスたちが希少獣で良かったよ。ずっと一緒だから責任持てるけど、人間だと問題あるもんね」

(自覚あるのかよ! ていうか、今からしっかりしておかないと、レーネの子供たちが生まれたら、シウが親代わりなんだからさ。甘いだけじゃ、ダメなんだぜ?)

「はーい」

 その返事に、ロトスが目を細めて、腰へくの字に手を置いてシウを見上げてきた。

(本当に分かってるのかなあ。レーネがちょっと心配してたぞ。シウが甘やかし過ぎるって。俺も、まあ、いっぱいしてもらってるから、俺が言うとアレだけどさ)

「そうかなあ。でも一応、レーネの奴隷解放はしないつもりだし、甘やかしてはないよね?」

 アントレーネを高額で買っている以上、本人も言っていたが、それなりの働きをしていないと奴隷解放はされない。というよりも、通常はしてはいけない。お金持ちが気まぐれにやっていいことではないからだ。ただし、騙されて奴隷になった者などは、期間にもよるが考慮される。他にも抜け道はあるそうだが、無理して選ばないようにと釘を差されていた。

 第一に、アントレーネは同僚に裏切られはしたが、戦争捕虜として奴隷落ちになっているので、この場合は合法だ。国が買い取れば奴隷ではなくなるが、それ以前に捕虜交換で名を呼んでもらえなかったことから、その線はなくなった。

「レーネも、シウのことすきだし、いいんじゃないの? だから、そーゆーいみじゃなくて、ね!」

「分かった分かった。甘やかさない! 生まれてくる子たちにも、気をつけるよ。でないと【三文安】になっちゃうもんね!」

 そう言ったら、ロトスに、なんだその日本語と言われて説明するはめになった。

 その後、暫くロトスの中で、三文安いがブームになっていた。要らぬことを言ったシウが悪い。また、反省、である。

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