060 聖獣の王との面会




 落ち着いた後、シュヴィークザームはロトスから話を聞いた。

 獣姿の方がロトスは意思を伝えやすいので、シュヴィークザームに抱っこされて撫でられながらの報告だ。

 尋問ではないと示すためだ、などとシュヴィークザームは言い張っていたが、たぶんナデナデしたかったのだろう。

 こう見えて、子供好きの優しい聖獣なのである。


 ロトスの話には、時折シウも注釈を入れたりして説明を補完した。

 何故、ウルティムス国へ行ったのか、という経緯についてだが、ここは正直に話してみることにした。

「神が、夢枕に現れて?」

「うん。前に話したよね? 神様が夢に出てきたことあるって」

「うむ。そう言えばそうであったな」

 忘れていたらしい。

 が、その話を誰にもしていないのだから結果的に良かった。これからもシュヴィークザームを信じようと、続けて説明する。

「可哀想な聖獣がいるから助けてあげて欲しいって。それで場所の映像も送られてきたから、それを頼りに行ってみたんだ。でも他の人には信じてもらえないだろうから、これはシュヴィだけの内緒の話だよ。嘘じゃないからね」

「嘘でないことぐらい、分かるわ」

「あ、そうか。シュヴィ、聖獣の王様だったね」

「聖獣ならなんとなくでも分かるものだが」

「きゃん?」

 ほんと? とロトスが見上げて聞いている。途端にシュヴィークザームの目が潤んだ。

「かわゆいのう、ほんとだとも。そのうち、おぬしにも嘘が見抜けるようになるだろう」

「きゃん!」

 やった、と嬉しそうだ。

 しかし、いつものロトスと大違いである。狐だけに化けるのが上手い、ということだろうか。

「それにしても、神に愛されておるのはシウだけではなくおぬしもか。だが、そのおかげで助かったのだからな。我も全力でおぬしを守ると誓おう」

「きゃん……」

「よいよい、大丈夫だ。我を誰だと思っておる。聖獣の王ぞ」

「きゃん!」

「うむ。おぬしは立派な成獣になることを考えておればいいのだ。成獣になれば、どうとでもなる」

 頼もしい言葉に、そこはロトスも本気で感動して、感謝の意を表していた。



 見回りの終わった子供たちも戻ってきて、シウは昼ご飯の用意を始めた。

 子ども好きなシュヴィークザームだが、その遊びの相手は面倒らしくて、勝手に遊ばせている。一応見てくれているので安心だが、休日の疲れたお父さん、みたいでおかしかった。

「ほーれ、羽が飛んだぞ、取ってこい」

 ソファへ横になったまま、自分の抜け毛(羽)を風属性魔法を使って飛ばしている。簡単に引っかかるブランカは夢中になって追いかけていた。

 クロには、飛び散っている羽を集めさせたり、ロトスやフェレスにもあれこれと遊び? を指示している。

「そこを潜って、そうだ、左から回ってテーブルの下を行くのよ。そうそう」

「にゃ!」

「きゃん」

 ロトスが逃げまわるのに加勢していたらしく、フェレスは体が途中で挟まって難儀していたようだ。ロトスは逃げ切って、台所にやってきた。

(なあなあ、俺、あざと可愛かっただろ!)

「やっぱり演技してたんだ」

(へっへー。でも、あれだな、あの人、無表情すぎて怖いわ。鳥の方がよっぽど愛嬌ある感じに見えるぜ)

「そうなの? 僕には分からないけど」

(全然違う。こういうの、やっぱり俺が獣だからかな? でも、それが分かったから怖くなくなったんだよな)

「やっぱり最初、緊張してた?」

(したした。てか、王様はもうちっと表情筋付けた方がいいぜ)

 尻尾をふりふりしながら報告して、フェレスが覗きに来たので慌ててまた飛んでいった。追いかけっこの続きをやるらしい。

 本当に獣の本性に慣れてしまったようだ。


 午後は小屋の周りを皆で探索したり、薬草を探すなどして過ごした。結界のため、魔獣は近くにいないが、フェレスは出たり入ったりして狩りをしていた。

 おやつ時間の前に子供たちが疲れて寝てしまったので、シウとシュヴィークザームが急遽お菓子教室のような感じで時間を掛けて作った。

 サクサクふわふわのクッキーは、食べた子供たちより作ったシュヴィークザームが一番喜んでいた。



 夕方、また話をした。

 今後の方針だ。

「万が一があればここで落ち合うのだな?」

「うん。もし僕がいなくても、シュヴィなら飛べるから引きこもることは可能だと思うんだ。ほら、あっちにヴルカーン遺跡があるから、周辺に街もあって食材を仕入れたりは可能だよ」

「我は責任重大であるな」

「そうだよ。僕がいないと、他に買い物できる子いないんだからね」

 ロトスは見付かってはいけないし、フェレスたちは人化などできない。そもそも、騎獣だけでウロウロしていたら、たとえ契約の証である首輪を付けていても連れ去られてしまう。

「買い物の仕方、分かる?」

「……分かる、と思う」

「今度、ロトスにも教えるから、一緒に勉強しようか」

「うむ」

 他にも、便利だと思える魔道具を揃えて小屋には置いているので、使い方を説明した。

 ウルティムス国にバレても、即何かがあるわけではないが、念には念を入れて、だ。シュヴィークザームはそのあたり、とても慎重に考えてくれるので有り難い。

 時々、シウは自分が大袈裟すぎるかも、と思う時がある。特に前世のことを思い出すと、価値観がずれてしまっていて、どちらが正しいか分からなくなるのだ。

 けれど、大袈裟でも、安全や安心は用意しておきたい。

 戦争なんてしたくないし、傷つく人を見るのも嫌だ。

 だから、なるべく平和に、平穏に生きるための安全対策を怠りたくない。

 できればウルティムス国の王に知られないまま、ロトスが楽しい異世界生活を歩めるようにしたかった。

 その為の対策なのだから、大袈裟でも考えつく限りやっておこうと思う。



 晩ご飯を早めに済ませ、帰る用意を始めた。

 ところがシュヴィークザームが駄々をこねて困った。

「ここで泊まっても良いのではないだろうか」

「あのねえ」

「獣姿で並んで寝ていると、見惚れるぞ?」

 なんだそれは。

「……もしかして、勧誘?」

「うむ」

 シウは半眼になってシュヴィークザームを見た。彼はそっと目を逸らした。

「おうちゃま、だめだよ、かえらなきゃ」

 ロトスが人型になり、うるうるした瞳でシュヴィークザームを見上げて言った。

「まってるひと、いるよ?」

「……うむ。それは、確かに、そうだ」

「ぼくたちも、しんぱいするといけないから、かえるね!」

「……分かった。そうだな。カレンが心配しておるかもしれん」

 すごい。

 正直、ロトスの演技には笑っていたが、ここまで来ると素晴らしいものがある。

 しかし、聖獣は嘘を見抜けるんじゃなかったのだろうか。

 どう見ても、ロトスのは演技だけれど。

 まるっきりの嘘でもないからかもしれないが、ともかくもロトスのおかげでシュヴィークザームは前言を撤回してくれた。



 先に子供たちを屋敷へ送ったが、その時にロトスが子供らしからぬ顔付きでにやりと笑い、

「どうよ、おれ」

 と、自慢顔である。

 助かったのは確かなので正直にお礼を口にした。

「ありがと。でも、おうちゃま、は【あざと可愛い】すぎないかなあ?」

(あ、そう? やっぱりやりすぎ? へっへー、でもまあ、いいじゃん。それより、シウ、すぐに俺の言葉覚えちゃうなあ! ヤバイ、爺ちゃん萌えだぜ)

「また、訳の分からないこと言って。とりあえず、戻って、それからシュヴィを城に連れてくよ。屋敷へ戻るの遅くなるかもしれないけど」

「わかったー。だいじょぶ。しずかにしてる」

 そこは精神が元大人のため、シュヴィークザームよりずっとまともな返事だ。

 とはいえ、今の彼は幼獣である。シウだって子供の体に精神が引っ張られて歳相応なのだから、彼とて同じだ。

「……あんまり、頑張って背伸びしなくてもいいからね? 子供は子供らしく、だよ」

 柔らかい髪の毛を撫でたら、ロトスは照れ臭そうに笑った。

 スタン爺さんがシウにくれた言葉と同じことを口にし、ロトスの顔を見て、シウはあの時こんな顔をしていたのだと客観的に見ることになった。

 それは気恥ずかしい、なんとも言えないものであった。



 山小屋から王城へと転移し、部屋の様子はシュヴィークザームが確認した。

「《転移指定石》も安くはないから、無駄遣いしちゃダメだよ?」

「分かっておる。行く前に通信で連絡も入れよう」

「あんまり頻繁だと疑われるからね?」

「うむ」

 本当に分かってるのかなーと、若干心配しつつ、シウはフェレスを連れて部屋を出た。

 廊下には心配そうな顔をしたメイドのカレンや近衛騎士たちが立っていて、あれこれ質問された。

「あ、大丈夫です。巣篭もりが好きらしいので、秘密基地の作り方とか教えてました。男の子なら大抵やりますよね?」

 そう言うと、近衛騎士たちはみんな苦笑いだ。身分の高い彼等でも幼い頃に作った経験があるのだろう。もっともシュヴィークザームは良い大人である。その彼が秘密基地を作った、というあたりに、苦笑いの原因はあるようだった。

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