059 報告色々、秘密の山小屋へGO




 古代遺跡研究科の教室で、皆にビルゴット教授と会ったと話したら、フロランが大笑いした。

「な、ん、で、プリメーラ!」

「おかしいの?」

「たぶん、前の遺跡で何かやらかしたんだね。プリメーラは滅多に入れない場所だから、逃げ込んだというわけだ」

「そうなんだ」

「だって、ビルゴット先生の主な研究はオーガスタ帝国の中期から後期の遺跡だからね」

「その割にはサタフェスのこと詳しかったけどなあ」

「そりゃあ、教授として生徒に教えるのだもの。興味のない時代でも覚えてはいるさ」

「あ、そっか」

「冬の間はそこに籠るつもりかな。お金にならない遺跡だというから、冬が明けたら押し掛けてこられそうだなあ」

「フロランのところに?」

「他にも出資者巡りすると思うよ。ふふふ」

 何が面白いのか、フロランはずっと笑っていた。ビルゴットも、教授なのに生徒へ出資を募ったりしていたというし、不思議な関係の二人だった。



 この週は、薬師ギルドへ行って相談したり、闇ギルドへグララケルタを納品したりと忙しくなく過ごした。

 授業終わりや午後は全てこうした用件に費やされ、金の日にはアロンドラの紹介で、ファビアンと共に職人とも面会した。

 ラディムという名の男性で、複写魔法を使わずに、まずは元の本の固定や保持など劣化を防ぐ処理を施してから複製を手作業で作る職人だ。

 複写魔法よりも味のあるものとして、人気のある人らしかった。

 複写だと【写真】のようなのっぺりしたものになるのだが、彼の作では本物そっくりの質感や味わいある姿になるのだそうだ。

 契約を済ませて原本を預けたが、本好きの人なら嬉しいような恥ずかしい気もする仰々しい態度で、丁寧に受け取ってくれた。



 週末にはコタツが本格的に売れ始めた。職人さんが頑張ってくれたおかげだ。

 実演販売をしながら紹介しているようで、まずまずの出足となっている。まだ大量生産に入れていないので、これぐらいでいいと、ギルドの職員は言っていた。

 もう冬は終わりに近付いているので、カイロの時といい、シウはつくづくタイミングが読めない人間である。


 そんなこんなで週末である。

 シウが自由に動けるのは週末しかないので、シュヴィークザームはやきもきしていたらしく、ほぼ毎日、通信魔法で取り留めのない連絡が来ていた。通信内容が傍受されるとは思っていなかったが、シュヴィークザームも警戒はしているのかはっきりと口にはしないのでシウも合わせていたら、傍で聞いていたカスパルに、

「まるで恋人と話をしているみたいだね」

 などと笑われてしまった。

 確かに、早く会いたいね、だとか、一緒に遊びに行こうね、というのは端から聞けばそうとも取れる。

 シウは笑って、相手は男だからね、と教えた。


 そして。まず、土の日の早朝に王城へ赴いた。

 カレンにも口裏を合わせてもらっているが、この日、シュヴィークザームの部屋は出入り禁止としている。

「引き込もって、一日ここでシウと遊ぶから誰も入らないように!」

 と、ミミズがのたくった字で書かれた上質紙を見て、紙が勿体無いなあと思ったものだ。


 こちら側の《転移礎石》は、シュヴィークザームとどこに設置するか考えた挙句、彼の寝室の宝物入れにしてみた。

 いわゆる、漫画や映画でよく見る形の宝物箱だ。シウならば簡単に入って隠れられる大きさだが、フェレスだと全身を入れるのに無理がある。

 が、そこに立てれば良いので、《転移礎石》を設置した後、フェレスに入ってもらって、その上にシュヴィークザームとシウが乗ることにした。

「で、このさっき登録していた《転移指定石》に軽く魔力を通して起動するんだ。これはシュヴィしか使えないよう《転移指定石》側に使用者権限を付けてるから」

「ふむ。しかし、《転移礎石》はともかく《転移指定石》は数が足りなくなるのではないか?」

「あ、そこは解析できてるから、たくさん作ってみた。後でまとめて《転移指定石》を渡すから、持ってて」

「うむ」

 他に細かい注意点を説明してから、まずは転移を行う。

 当然だが、この部屋には物理的にも入れないようにしてもらっている。シュヴィークザームも結界を張れるので、念の為に張っているのだ。

「じゃあ、《転移指定石》に魔力を少量乗せてみて」

「分かった」

 その瞬間、転移は終わっていた。



 急峻な山並みが広がる景色の中に、ぽつんと浮かぶように建てられた木組みの山小屋は、シュヴィークザームをたいそう喜ばせたらしかった。

 無表情の白い顔がひょいひょいと足取り軽く周辺を散歩しているのは不気味ではあったが、嬉しいのだろうと思うとシウも作って良かった。

 一度、山小屋の中へは入っているのだが、すぐに出てきて周囲をぐるりと観察し、外から小屋を見た後は周辺の探索である。

 やってることが猫や犬そのもので、やっぱり人の姿をしていても獣の本性はあるのだなと思う。

 ひとしきり満足したらしいシュヴィークザームを居間のソファに座らせると、シウは一度戻ってロトスたちを連れてくることにした。

「フェレスはここで待っててね。シュヴィがおかしなことしたら止めてあげて」

「にゃ」

「なんだ、それは」

「聖獣様の騎士役だよ。フェレス、騎士頑張ってね」

「にゃ!」

 ごっこ遊びが好きなので振ってみると喜んで承知してくれた。シュヴィークザームは若干嫌そうな素振りは見せたものの、相変わらず表情に乏しいので知らぬフリをして、シウは外へ行きかけてから、慌てて地下へと向かった。

 気をつけないと普通に転移しそうで怖い。

 チビたちも、転移のことはほとんど理解していないので、どこかで喋っても会話になっていないから済んでいるが、なまじ賢いロトスやシュヴィークザームなどはポロッと零す可能性があるので、怖い。

 別に今さらバレても大丈夫だとは思うのだが――なにしろそれ以上に目立ってしまっている――だが、まだ踏ん切りがつかなかった。彼等に当てにされるのは構わないが、これを知った周囲に利用されるのは困るし、線引が難しい。隠しておけるうちは隠しておこうと、シウ自身も気を引き締めた。


 さて、そうして転移でロトスたちを連れて戻ると、シュヴィークザームは窓の外を眺めて立っていた。

 その後ろにフェレスが前足を揃えて座っている。耳がピンと立っており、騎士ごっこは順調のようだ。

 しかし、シウたちが来たことに気付いて耳がピピピと揺れながら振り返った時には、その騎士ごっこも強制終了したようだったが。

「にゃ!」

「ぎゃぅ!!」

「きゅぃ」

 子供たちも新しい場所に興味津々で、ふんふん匂いを嗅いだり、嘴を当てたりして探検を始めた。

「フェレス、クロとブランカを案内してあげて。危ないところには行っちゃダメだよ」

「にゃ」

 子供たちをフェレスに任せ、シウはおずおずと隠れているロトスを前に出した。

「シュヴィ、この子がそうだよ」

「うむ」

 なんで偉そうなんだと内心で笑いながら、シウはソファへロトスを座らせた。人型なのでされるがままだ。子狐だとぴょんと登ってしまえるのに。

 シュヴィークザームも対面へ、浅めに座ってから前のめりになった。

「なるほど、確かに珍しい交ざりものであるな」

「色が交ざってるのはそんなに珍しいの?」

「あまり聞かぬが、ないこともない。過去にも数頭いたようだ」

 ロトスはこの間、おとなしく両手を膝に乗せておとなしやかにしている。

 直前に、可愛いお子様を演じてやるぜ、と言っていたので成果は発揮されているようだ。

「それにしても、かわゆいことだ」

「そうだね」

「まだ幼獣であろうに、そのようにしっかり座っておるとは偉いものだ。シウが厳しく育てたのだろう? どうだ、我のところへ来るか?」

 ロトスは一瞬ぽかんとしていたものの、急いで首を横に振った。

「……断られてしまったではないか。シウ、脅したのではないか?」

「人を怖がっているって言ったでしょ」

「何、人型がいかぬか。では、ほれ、見せてやろう」

 そう言うと、久しぶりに鳥型へ変化した。

「[どうだ! 我のこの美しい姿は]」

 ロトスが首を傾げて、つんつんとシウの袖を引いた。首を小さく横にふる。

「え、副音声で鳥の、じゃなかった、ポエニクスの鳴き声も聞こえると思うんだけど?」

「……だって、へんなことばがまざるから」

「ああ、古代語ね。古代語は教えてないもんなあ。二重に聞こえたら分かり難いだろうし」

 よしよしと頭を撫でていたら、シウたちの会話を聞いて察したらしく、シュヴィークザームはすぐに人型へ戻っていた。

「うむ、とにかく、先ほどの姿が我の本来のものよ」

「かっこいい、です」

「そうか! ふふふ、そうであろうそうであろう」

 ふと、ロトスを見たら、こいつチョロいと、日本語で口パクだ。やめなさい、と笑って腕をつねるフリをした。

 それが仲良さそうに見えたのか、シュヴィークザームが若干、眉を下げて拗ねかけたので、慌てて話を振る。

「ロトスの本性も見てもらった方が良いよね?」

「うむ。変身はうまくできるのか?」

「さいきんは、いちにちになんどでも、できる」

 チラッとシウを見てから、ロトスはその場で子狐姿に戻った。

「おお! かわゆい! ほれ、見てみろ、シウ。尻尾が九本あるぞ」

 そりゃそうでしょうとも。

 呆れていたら、その後も、小さいだのめんこいだの、どこの好々爺かという口調で一頻り騒いでいた。

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