048 女奴隷<グララケルタ




 特別オークションはちょうど終わったところで、競売人やシウの相手をしてくれていた職員がにこやかに出迎えてくれた。引き渡しも終わったのか、持ち運び型の金庫が置いており、剥き出しの金貨も見えた。

「いやあ、良い仕事をさせてもらいました! 素晴らしい!!」

「はあ」

「今後も継続的に卸してくれるとか? ぜひぜひ、よろしくお願い致します」

 競売人は機嫌よく挨拶すると、他にも出品者や、大物落札者などに挨拶があるというのでテントを出て行った。

 残っているのは会計関係の職員や、担当の職員などである。

 他のオークション会場からも、終了したところから続々と職員ならびにお金が集まってきているようだ。目玉商品を取り扱うだけあって、ここが司令塔のようになっているのだろう。

 邪魔にならないように、シウたちは端による。

「えー、それでは、これが落札金額の一覧ですね」

 会計担当の職員が書き付けたものを渡してくれた。問題がないことを証明するかのように、他二名のサインが入っている。誓言魔法を用いた証明書まで揃っていた。

 闇ギルドは職員にもそうとうこだわって採用しているようだ。

「一匹およそロカ金貨六十枚、それが三十匹。合計では一八五五枚となります。そこから、手数料として九十二枚。端数は今回は結構です。今後のお付き合いもございますのでね!」

「あ、そうですか」

「最終的に、お支払いする金額はロカ金貨一七六三枚分。白金貨、大金貨、金貨とございますが、どうされますか?」

「問題がなければ全て金貨でお願いします。使い勝手が良いので」

「結構でございますよ。ではすぐにご用意いたします」

 その間に契約完了の書類が用意され、誓言魔法持ちの職員立会いの下、サインを終えた。するとすぐに、金貨が運ばれて、受領書が出される。

 ザッと確認してからサインしたら、職員に驚かれた。

「数えないのですか?」

「確認しましたよ?」

 そのまま魔法袋に放り込んだら、偽物ということもなく、本物の金貨が新たに追加されていた。わかりやすく、newと付いている。ロトスとスマホの話をして以来、どんどん便利になっていく脳内画面だ。

「割符は見ていましたが、これほどのお得意様とは……」

 奴隷オークションで担当してくれていた職員が、シウの横で苦笑している。

「白金貨十枚をぽんと出すわけですね」

「おや、そちらはやはり奴隷だったのですね。ほほう、獣人族の、女戦士ですかな。奴隷市の目玉商品を落札していかれるとは、なかなかですなあ」

「悪い顔になってますよ」

 シウが突っ込みを入れると、特別オークション担当の職員がはははと笑って頭を掻いた。それから、自己紹介をする。

「わたくし、闇ギルドのオークション担当長コラディーノ=ガバネッリでございます。今後、若様の担当をさせていただきますので、どうぞよろしくお願いたします」

「あ、はい。えーと、名乗った方が良いんですよねえ?」

「問題があるのでしたら、とりあえずは偽名でも結構ですよ」

「うーん、じゃあ、サブローで」

 タローとジローの偽名を使っているので次はサブローだろうと、単純すぎるかもしれないがそう名乗ってみた。

「では、サブロー様、今後共わたくしどもと末永くお付き合いくだされば幸いでございます」

 慇懃に頭を下げられ、他職員たちの見送りを受けて、シウたちはようやくその場を後にした。



 真夜中を超えており、シウがいつも起きる時間まで後数時間というところだったので、アントレーネを連れて庶民街にある冒険者御用達の居酒屋へ向かった。

 何度か来たことがあり、店主はもちろん、客の大半である冒険者たちがシウを見て驚いていた。

「おいおい、どうしたんだこんな時間に」

「女連れか? 女だー! 俺には女なんて女なんて……うううっ……」

「何か事件なにょか。だーいじょうぶきゃ?」

 みんな親切である。でもほとんど酔っぱらいなので、ぐだぐだではあった。シウは適当にお礼を言ったり、なんでもないと説明したりして個室を借りることにした。

「ごめんね、ちょっと休ませてほしいんだけど。この時間だと宿も空いてなくて」

「おう。構わねえぞ。なんだったら、上の倉庫で良けりゃあ開けてやるが」

「ううん。夜が明けたら下宿先に戻るから。今だけでいいんだ」

「だったらいいが。訳ありなんだろ? 遠慮すんなよ」

「うん。ありがと。あ、アントレーネ、お腹空いてない?」

「……いや、それほどは」

「じゃあ、飲み物だけ、お酒以外でお願いね」

「よっしゃ。あ、寝るなら毛布を持ってきてやる。待ってろ」

「はーい」

 店主が個室から出て行くと、アントレーネはホッとしたようだった。状況があれこれ変わって肩に力が入っていたのだろう。

「ごめんね、ちょっとここで休んでもらえる? 僕、今、下宿先にいるんだ。こんな時間に出入りしたら家主に悪いからさ。数時間したら、アントレーネの体調にもよるけど、移動するつもりだからね」

「あ、ああ、分かった。いや、分かり、ました」

「普通に喋ってくれていいよ。とりあえず細かいことは、明日、今日だっけ? になって落ち着いてからだね。その前に横になって休んで。飲み物も来るよ。下宿先に行ったら、またゆっくり寝られるようにするから」

「いや、しかし、主の前で」

「ほら、さっさと横になって」

 話しているうちに店主がミカンジュースと毛布を持ってきてくれた。彼女にさあ飲めとっとと飲めと急かして飲ませると、喉が渇いていたのかごくごく飲み干して、それから弛緩して横になった。

 そうとう気疲れしていたようだ。毛布を掛けると、数秒でスコンと眠りに落ちていた。

 可哀想に、ここへ来るまでに色々大変なことばかりだったのだろう。

 頭を撫でていると、きゅうっと赤子のように体を丸めて寝ていた。





 朝、ロランドが起きてくる頃合いを見計らって、先に通信魔法で連絡を入れた。

 さすがに奴隷を買ってしまったと報告したら絶句していた。それでも、女奴隷で事情があるのだと軽く説明しただけで、すぐさま納得してくれてシウの部屋の近くを開けておくと言ってくれた。

 子供たちのことも心配なので、起きだしてくる前に帰ろうと、寝入っているアントレーネを申し訳なく思いながら起こした。

 寝起きは子供のようなあどけなさでぼんやりしていた彼女も、数分で我に返って飛び上がっていた。

「これから、下宿先に向かうから、その後ゆっくりしてもいいから我慢してね」

「あ、ああ」

「お腹空いてるかもしれないけど、そこでご飯も用意されているから」

「え」

「家令のロランドさんに頼んだから、ご飯の用意もしてくれてると思うよ。さ、詳しいことは後でね。ゆっくり立ち上がって、ほら、慌てて動かない」

「わ、分かった、あの」

 何か言いたそうにしているので、シウは笑顔で首を横に振った。

「詳しくは後で。早く帰ろう。疲れちゃっただろ? 僕もほとんど寝てないからさすがに眠いんだー」

 とは言ったが、眠くはない。この一眠りしたら何もかも綺麗にリセットされるのは、神様からのプレゼントでありシウの特権なのだろうが、なんとも味気ない。実際に役立っているので文句は言わないけれど、前世ではよく寝ていたので不思議なものだ。

 シウはアントレーネから毛布を受け取ると片付けて、寝起きの水を一杯飲ませてから居酒屋を出た。


 光の日ということで特に人の数も少なく、朝早い時間だったのでほぼ誰ともすれ違わずに街をゆったりと歩いて進んだ。

 どこかの家僕が、主に用事を言いつかっているのだろう、毛布のような分厚いコートを頭から被って足早に行き交っているぐらいだ。

 道路は水に濡れてブーツを汚すし、融けきれていない雪や氷が隅に溜まっている。

「寒いだろうけど、もうちょっとの我慢だからね」

「……いや、このローブはとても暖かい。移動で運ばれている最中など、死ぬかと思ったほど寒かった」

「飛竜だったの?」

「飛竜にも乗ったが、主に地竜だった。リーノケロースが騒ぐので、飛竜に乗り換えたのだ。ただ、流れの飛竜乗りだったようで風操作が上手くなく、上空は凍えるようだった」

「体、大丈夫だった?」

 心配そうな顔が伝わって、アントレーネは初めて、ほんの少しだが笑顔になった。

「おかしな主だ。……そうだな。同じ奴隷の者たちと体を温めあって、なんとかここまで辿り着いた。一人抜け二人抜けして、ここへは四人だけになってしまったが」

 体温の高い子供を中心に、外側に男性が回って抱き合って来たらしい。

「……あの子は、良い主に巡り会えただろうか。あたしらは、誰に落札されるのか、契約時にしか分からないから」

「どんな子?」

「犬族の子だ。十二歳で、親の借金で売られたようだ。男の子だから、娼館行きは免れたと言っていたが」

 シウは記憶を頼りに、アントレーネに教えてあげた。

「その子なら、たぶん、大丈夫だよ。リアム=フロッカリという建設業関係の商人が買い取っていたから」

 地獄耳ならぬ、感覚転移で落札希望者の話し合いを盗み聞きしていたので間違いない。

「建設業か……」

「あ、成人までは料理番や、寮で他の人の身の回りを見る家僕仕事をさせるんだって。そこはきちんとしてるところだから、将来自分を買い戻すこともできると思うよ?」

「そう、なのか? 奴隷なのに」

「他はどうか知らないけど、一応奴隷でも最低限の人間として生活するための保証はされているよ。法律で決まってるし。それにリアムのところはまともだし」

「……知っている奴なのか?」

「うん。うちにもリアムのところにいた元奴隷の青年がいるよ。騙されて買わされたのに、引き渡してくれたしね。あれ、たぶん、損してたんじゃないのかなあ」

 リアムだとて奴隷売買で騙された側だったのに、ソロルを買い取ったブラード家には随分と融通してくれたようだ。

 もちろん、その分、名を上げたので、十分な宣伝にはなった。ブラード家も、何かあればフロッカリ家に話を通すようにしている。

 シウの話を聞いて、アントレーネは、そうなのかと納得して頷いていた。

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