044 闇オークションの仕組みと開催
風の日、夕方までは一日中、皆と遊んで過ごした。
昨日は実験ばかりでフェレスの相手もしていなかったし、クロやブランカ、ロトスに至っては置いてけぼりだ。夜も可哀想なことをした。
そのため、のびのび遊べるようにコルディス湖へ転移して、勉強や訓練はせず、遊び倒した。
ロトスも温泉ではしゃぎまくって、屋敷へ転移で戻るときには夢の世界だった。
早めの晩ご飯を食べさせていたので、そのまま寝かせ、まだ起きていたフェレスには言い聞かせて留守番を頼む。
この日はカスパルと闇オークションへ参加することになっていたので、目立たないようフェレスは置いていくことにしていたのだ。子供たちは言わずもがなである。
食事は外で摂ると言われていたので、急いで用意して表玄関に向かった。
そこにお忍びの格好らしきカスパルとダン、そしてルフィノとリコがいた。護衛としては少ないのだが、シウがいるので減らしたようだ。ロランドも行きたそうにしていたが、代わりに家僕のリコにあれこれと注意事項を告げていた。
装飾をギリギリまで削ぎ落としたシンプルな馬車に乗って、貴族街を抜ける。
道中シウはルフィノと、最終の打ち合わせをした。
「ところで、この馬車。お忍び用って言うけど、これ、どう見たって貴族用だと分かるよ?」
「良いんですよ。これは、お忍びだと知らせるためだけで、貴族であることはどうしたって分かるものです。暗黙の了解というものですね」
「ふうん」
「シウ君は夜遊びしないから、こうした街遊びはご存知でないでしょう。今日はいろいろお教えできるかと思うと、楽しみですな」
「よろしくお願いします、先生」
「ははは」
馬車の中は和やかなムードで、ダンも夜遊びができるとばかりにウキウキしているようだった。
闇オークションと一口に言っても、場所も様々、取り扱う商品もそれぞれ違うようだった。
正規の店を通さないだけで、意外に普通の商品も流通しているのだ。しかし、当然ながら信用度合いは違うため、偽物を掴まされることもある。保証もなく、そのへんは自らの目利きだけが頼りだ。
それでも参加する人が絶えないのは、やはり掘り出し物があったり、正規店が出し惜しみして売ってくれない場合、これは人種差別や階級差別の問題もあるようだが、そうした場合には手っ取り早く手に入れられる闇オークションが良いのだそうだ。
これらを仕切るのが闇ギルドで、名前だけ聞くとヤクザ組織なのかなとも思うが、清濁併せ持つ組織のようだった。きちんと税金も納めているそうだが、完全に白かというとそうでもないらしい。その代わり、全体を仕切ってくれるため、国としても問題を丸投げできるという、持ちつ持たれつなところがあるようだ。
ただし、法に触れるようなことをしていたら、捕まる。
なので、そのへんはかなり巧妙に隠しているそうだ。ルフィノも噂としては知っているらしい。
これらとは別の、裏ギルドと呼ばれるものが完全な裏社会の組織が運営するものだ。度々摘発されているのもこちらのギルドらしい。
馬車を降りると、目当ての場所へ歩いて行く。
人も品も集まるため、広い場所が必要ということで庶民街と倉庫街の境目にある広場が会場となっている。
ここは比較的、安全な場所のようだった。他が目当ての客は倉庫街へ馬車を進ませている。倉庫街の一角を借りきって、オークションが行われるらしい。
「大きな篝火だね、シウ。ああ、それに、意外と暖かい?」
「大掛かりな風属性魔法のカーテンを使って、暖気を逃さないように循環させてるみたい。すごい魔法だね」
「へえ」
お上りさん状態で、カスパルとシウがきょろきょろしていたらルフィノが笑った。リコも苦笑で、二人の後についてくれている。ダンは少し先を歩いて目当ての場所を探してくれていた。
「あったあった。カスパル様、このあたり一帯がそうみたいだ」
「ふうん。どれどれ」
オークションの始まりまでに、欲しい商品を確認しておくことができる。物によっては手にとって見ることも可能だが、遺跡発掘品などは古いということもあってほとんどが難しい。
一応、カスパルは手袋を持参で、というかもうすでに身に付けて、万全の体制でいるが。
「このあたりは、状態も良いね」
指差して、ダンとリコに伝えていく。シウは見ないようにしていたものの、チラッと見た瞬間に本全てが記録庫へコピーされてしまい、申し訳ない気持ちで項垂れながらカスパルの後を歩いた。
中には贋作もあったり、価値の無い本もあったが、幸いにしてカスパルの御眼鏡に適うものではなかったようだ。
ひとつ、シウも気になる本があった。
オーガスタ帝国初期のもので、少数民族や他大陸の言語を比較表示で羅列した辞典のようなものと、それら民族を紹介した元冒険者で探検者の男性の書いた本だ。中の文字に見覚えがあり、もしやと思う。
記録庫へコピーはしたが、原本もできれば手に入れたいなと思ったのでマークを付けた。脳内マップに常に表示されるようにもしておく。
カスパルもおおよその当たりをつけたようだ。
「さて。では、オークション開始まで時間もあることだ。軽く食事をしておこうかな」
みんなはどう? とカスパルが見回すと、ダンを筆頭に全員が素早く頷いた。
庶民街側では倉庫街で働く人向けの食事処も多く並んでおり、オークションが開催される日は夜も遅くまで開けている。
他に、広場から倉庫街へ向かって屋台も出ていた。
こんな冬の寒空、しかも夜に屋台なんてと思うが、ちゃんと布で囲んでいる。何重にもしているが寒いことは寒いようで、お酒で体を温めている人も多かった。
シウたちは落ち着いて食べようと、庶民街側のレストランに入った。
かなり混んでいたものの、なんとか席を確保した。
こういうところで食べるのも乙なものだ。
「なかなか美味しいじゃないか」
「そうですね、カスパル様」
「ちょっと味が濃いかな。シウ、君は苦手だろう?」
「夜だし、寒いからじゃないかな。これはこれでアリだと思うよ。お酒に合わせてるんだろうね」
「言うなよ、シウ。酒が飲みたくなるじゃないか。ねえ、ルフィノさん」
「仕事中ですからな。ダン殿も、今日はいけませんよ」
「分かってますって」
そうは言っても夜の食事に酒なしというのは有り得ないらしく、度数の低いビールを頼んでいる。シウとカスパル以外は水代わりに飲んでいるのだ。
ビールは地産地消で新鮮なはずなのだが、あまり美味しくはない。気の抜けた炭酸にビールの味がするという程度で、いまいちなのだ。これを水代わりに飲めることがすごいと、シウなどは思っている。
カスパルも酒に思い入れはないので、そこまでして美味しくないものを飲みたくないと、こちらは一貫していた。
店の中にいても、外が騒がしくなっていくのが分かる。
「かなり集まってきているようだな」
「ええ。ほとんど、奥の倉庫街へ向かっていますが」
ルフィノとリコが半分警戒して外を見ている。窓ガラス越しに様子を確認しながら、広場の人数も確認していた。
「申し込みはしているので席は用意されておりますが、混んできますしそろそろ出ましょうか」
「そうだね。押し合いへし合いと言うのは困るからね」
そう言って立ち上がり店を出たのだが、同じような上流階級のグループもいたらしく、じゃあ自分たちもとシウたちを追いかける格好で店を後にしていた。
ルフィノは警戒していたけれど、彼等に悪意がないことは分かっていたのでシウは全く気にしていない。リコも家僕としてあちこちの屋敷へ使いに出されているので、彼等には馴染みがあるのか特に気にならなかったようだ。
こうしてみると、警護担当の護衛が一人というのは可哀想なことだった。
一応、防御結界のピンチも渡しているのだが、そういう問題ではないのだろう。
せめてもと、シウが最後尾を歩くことにした。
広場の中央には仮設テントが張っており、そこにオークション会場がある。
遺跡発掘品が目当ての客だけあって、好事家らしき男性たちが集まっていた。上流階級の人間が多い。
「あれ? フロランと、アルベリク先生?」
「シウ、君も来たのかい?」
考えれば彼等がここにいたとしておかしなことはなかった。なんといっても古代遺跡研究科の生徒と先生なのだから。
しかも、二人共、マニアである。
「こういうところに君でも来るんだねえ」
「いえ、お供で」
と、早々に席に座ってワクワク顔をしているカスパルを示した。
「ああ、下宿先の」
「カスパル=ブラード君だね」
「ご挨拶させてもらった方がいいかしらね?」
フロランがおっとりと聞いてくるので、カスパルをチラッと見てから首を横に振った。
「今、神経が全部、オークションへ向かってるので。もし挨拶するなら、終わってからの方が。別に挨拶なくてもカスパルはそのへん全く気にしないから、大丈夫だと思う」
「そうなの。じゃあお言葉に甘えて」
「じゃ、僕も止めておこう」
アルベリクまでそんなことを言っている。この二人、教師と生徒で来たのだろうかと目線で問うてみたら、同時に首を振っていた。
「毎回ここでかち合うんだけど、別に来てるんだよ。癒着じゃないよ」
「誰もそこは疑ってません、先生。というか、一緒に来るぐらい癒着も何も」
「いやだって、ほら、成績表に手心を加えているとか思われたら困るなーって」
「……今更それぐらいのことで先生の評価が変わるとは」
「君、それ、本当にひどいからね?」
「あはは! シウも、遺跡科に馴染んできたよねえ。そうそう、先生、気にするならそんなところじゃないんですよ」
「フロランには言われたくないんだけど」
話しているうちに、オークションが始まる時間となったので、慌てて全員が席についた。シウは付き添いなのでカスパルの席の後方に立っている。彼の横にはダンとリコが挟む格好で座り、後ろにシウとルフィノだ。
他の面々もそれぞれ後方に護衛を配置していた。
面白いなあと観察していたら、ようやくオークションの開始だ。鐘が鳴らされ、闇ギルドの担当者がテントの中にある壇上へと立った。
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