042 精霊魔法の予測と追術魔法対策の実験




 午後の授業で、シウは隣にヴァルネリを張り付かせたまま、ハイエルフ対策について考えていた。

 この間からあっちへこっちと、思いついたことをそのまま別の魔道具にしたりして脱線しがちだったので、真剣に考えている。

 たまにヴァルネリに返事したり、教壇ではラステアが補講をしているので聞いたり、本気で聖徳太子を名乗っても良いんじゃないかと思う。誰にも分からないジョークなので、誰にも言わないが。

「術式を追うのは、地中の魔素への問いかけ、か」

 でも、「これ」と特定するのは難しい。

 普通に自分がやるとして、どれを特定すれば良いのか。血脈を探すのとはわけが違うと思う。

 いくら膨大な魔力量を誇るハイエルフと言えども、どれだけ無駄魔法なんだと笑いたくなる。

 それとも彼等にだけは使える、裏技、秘策があるのだろうか。

 精霊術? 

 実際に帝国時代、それらしき魔法は存在したとされている。秘匿の技だったらしくて、物語上であったり、禁書レベルの本にチラとしか載っていなかった。しかもあくまでも「それとなく」書いてあったので、勝手にシウがそう解釈しただけのものだ。だからとんでもない勘違いをしている可能性もある。

 けれど、狩人や竜人族たちも言っていたが、精霊魔法はあっただろうと思うのだ。

 その精霊魔法ならば、大精霊を喚ぶことはできただろう。大精霊ならば、あるいは魔力量を気にすることなく、どこかの地に描かれた魔術式を探すことはできたかもしれない。

 やはり、過小評価は禁物だ。

「聞いてるかい、シウ」

「聞いてますよー」

「だからね、魔法陣をあらかじめ書いておくとね、便利は便利なんだよ。詠唱時間を破棄できるから。その代わり、間違いがあったらいけないし、ちょっと掠れてもダメなんだよ。第一、インクも高いしお金がかかるから、みんな魔法陣を書くことには尻込みするんだ。一筆書き、僕も苦手だしね。だけどほら、判子にしちゃうといいかなーって思うわけだよ」

「掠れちゃダメなんですよね?」

「そこはほら、掠れないようなインクをだね、君が開発したりして」

「……濃くしたら、今度は濃淡ができて良くないんじゃなかったでしたっけ。揺らぎがあるとかなんとか。論文で見かけましたよ。そもそも、発動する際にも強固にイメージしておかないとダメだから、そんじょそこらの人に使いこなせないでしょう?」

「だったら、誰でも火を放つことのできる魔法陣の紙は、やっぱりダメかあ」

「そこは火を着けるぐらいにしておきましょうよ。費用対効果に合わないので無理だと思いますが」

「ううん。悩むなあ」

「悩んでください」

 適当にあしらっていたら、右隣に座っていたアロンドラが目を剥いていた。




 翌日、土の日はククールスを誘ってシアーナ街道近くの、よく行く穴場スポットに向かった。

「そりゃまあ、ここだと誰も来ないけどさあ。よくもまあグラキエースギガスを討伐した場所に何度も来るよな」

「ちょうど拓けていて便利なんだもん」

「まあ、浄化されてるけどさ」

 ククールスも、冒険者ギルドに駆り出されてあちこち行かされて、戻ってきたばかりのようだった。一流冒険者に名を連ねているので、冬場のラトリシアにとっては大事な人手なのだ。

「久しぶりの休みにごめんね」

「いいってことよ。ハイエルフ対策の研究だろ? 俺にも関係あるんだろうし、構わねえよ。あ、この間、肉入れてくれてただろ? 美味しかったー。あれ、なんだ? 超ビックリだぜ。頬が落ちるかと思った」

「水晶竜のモモ肉だよ。どの肉もそうだけど、モモ肉ってぷりぷりしてて美味しいよね」

「……は?」

「今度はステーキじゃなくて、カツにしようか? バラ肉は炭火焼きかな」

 話しながら、地面に魔法陣を描いていると、ククールスに体を揺さぶられて失敗した。

「あ、もう。ずれちゃったじゃないか。なんだよ、ククールス」

「お前はアホか、バカか!」

「え」

「びっくりするもん、食わせるな!」

「あ、そっか。そうだったね。ごめんごめん。あっちと間違えてた」

「どっちだよ。ったく。……てか、他のやつにも食わせたのか?」

「うん。ほら、前に話したことあるでしょ。竜人族の友達。ガルっていうの。肉好きだからね。彼、竜の大繁殖期の調整を行っているから、その関係で融通しあってるんだ」

「……もしかして、他にも竜の肉、持ってんの?」

「この間、貰ったね。海竜一頭分ぐらい」

「マジかよ。やべえ」

「こっちも一頭譲ろうとしたのに、水晶鱗だけでいいとか、謙虚なんだよね」

「割にあわないからだろ! 海竜もすげえけど、水晶竜なんて伝説扱いだぞ。謙虚とかじゃなくて、当然の取り引きじゃねーか」

「そう言われても、相場なんて分からないし」

「まあ、なあ。相場なあ。……売ってないもんな」

「うん」

 その後、暫く無言になって、シウは黙々と魔法陣を描き続けた。


 所在無げに立っているククールスに気付いたのは十五分後だ。

「あ、ごめん。ちょっと上空から見てくれる?」

「はあ。分かった。もう俺は気にしないぞ。気にしない。よし!」

 自分の頬を両手でばちんと叩くと、ククールスは飛行板に乗って飛んだ。

 上空から、地面を見下ろしつつ上手にホバリングしている。

 フェレスは岩石で作られた砦跡に寄ってもらっていた。ここには子供たちは連れて来ていない。危険があるかもしれないので置いてきたのだ。

「じゃあ、やってみるね」

「ああ」

 魔法陣をまず発動させる。これ自体はただの雷撃魔法だ。バチバチッと強力な雷槌が少し離れた場所へ落ちる。同時に、この術式を検索して追えるかもしれない魔法を組み立てて、発動させた。

 ひとつは鑑定魔法と遠見魔法などの高レベル複合技だ。固有魔法を使うので難しい。

 もう一つは探索魔法と展開魔法。これも同じく、だ。

 最後に影身魔法と隠密魔法に土属性魔法をミックスしてみた。

 各自、追跡は成功したようだったが、時間差はある。場所が近いので、本当に小さな誤差にしか思えないが、遠い場所なら、目に見えて違いがあるだろう。

「最初のは、遠見魔法が関係しているんだろうが、気配が伝わるぞ」

「やっぱりー」

 ククールスほどの実力者だと、魔法を使われると離れていても気付くのだ。気配察知が異様に高性能なので、バレてしまう。

「次のは最後に気付いた」

「展開魔法かな」

「だと思う」

「最後のは分かり難かった。たぶん、離れていたら気付かないレベル」

「あ、そうなんだ」

「組み合わせ変えて、またやるんだろ?」

「うん」

「そういや、魔力量の計算はどうだったんだ?」

「どれもべらぼうに高い。自力でやると一発で死んじゃうぐらい」

「マジかよ」

 高魔力を貯めておける高濃度水晶を(水晶竜の糞からできている例のやつを)持っている、という体にしているので、死にはしないが計測してみたら恐ろしい数値になっていた。

「節約してても、一回で百から三百は行くね」

「こんだけの距離でか」

 実験の為に、大掛かりな結界を張って、魔法の残滓さえ残らないよう強固に固定していたのだが、それですらこの魔力量だ。

 ハイエルフは本当にバカじゃないだろうか。

 ククールスと散々愚痴をこぼし合って、その後何度も実験を繰り返した。


 昨日の夜、シウはロトスに相談してみた。

 彼なら、また別の視点から思いつけるかもと、半ば期待せずに。

 すると。

(勝手に追いかけるような、自動検出の術式を組んでるんじゃないの? ほら、データベース化してさ。あらかじめ登録していたら、探すの楽じゃん。その、魔力量? はかかっちゃうだろうけど、人間はつきっきりにならなくて済むし)

 目から鱗で、感動して抱きついた。子狐姿だったのでふわふわしていて、その身がまだ細いことを知ったりもしたが、本人は照れてわーわー騒いでいた。

「それって、地面から魔素を集めて動かすこともできそうだよね」

(おー、そういや、そんなこと言ってたっけ。俺、そういう難しいの分かんないけど)

「でもデータベースって。僕も前世でチラッと知ってたぐらいだよ。あれだよね、重複しないから、検索する時間が早まるってやつ」

(そうそう。って、俺はゲームやってたからなー。シウのはそれ、専門用語解説的な?)

「あ、かも。淡々と説明してくれるテレビ番組でね、ぼーっとしながら見てたんだ」

(やべえ。年寄りってテレビぼーっと見るのかよ)

 といったようなやり取りがあり、幾つか閃いたことがあったのだ。

 すぐにククールスへ連絡を取って、ちょうど空いているというので誘って山中に来たのだった。


 最終的に、追術自体はさほど難しくないことが分かった。膨大な魔力量を必要とするが、それらは便利アイテムに任せるなりすれば良い。

 データベース化も、術式をどんどん登録していけば良いだけで、これを探してねと選択して放っておけば良いだけだ。

 いや、ハイエルフ自体の追術魔法がこれで合っているかどうかは知らないが。


 問題はこの追術魔法から逃れる方法だ。ここまで来るのに一日かかってしまった。

 おやつの後、ククールスと休憩がてら飛行板で飛び回りながら話をしてみた。

「地面の中をさあ、魔素を頼りに追跡するわけだよなあ。気の長いことだぜ。さすが長命ハイエルフ」

「だよねー」

「こうやって地面に乗ってなければ探せないよなあ」

「うん。地面に接していても、遮断する術式を書いたものの上なら、見付からないし」

 これは実験の結果からも明らかだった。おかげでアウレアに渡した靴も問題ないと、ここでもお墨付きが出た。

「だったら、地面の中に直接、遮断できるようなもの、打ち込んだりしたらー?」

 どうなるんだっけー、と語尾を伸ばして飛んでいったククールスを見送り、シウは飛行板から降りた。

「あ、そっか」

 なんで、こんなに悩んでいたのだろうと思うぐらい、馬鹿らしい答えに辿り着いたのだった。

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