039 聖獣の王様に報告、避難場所選定




 木の日は、王城へ赴いた。

 シュヴィークザームからの手紙は届いていないが、ロトスの人化が無事成功したので伝えておこうと思ったのだ。

 通信魔法を使うのは、たとえ上位版で盗聴防止とはいえ、魔法に関してはロワイエ大陸一と言われるラトリシア国の中枢だから、万が一を考えて回避した。

 門兵には相変わらず誰何されることもなく、順調に聖獣番の近衛騎士がやってきてくれて、連れて行ってくれた。

「要請もなく来られるなんて珍しいですね」

「新しいお菓子ができたのと、面白い話があったので。あと、あんまりほったらかしにしていると、飛んできそうで怖くて」

「ははは。実際に飛んでいったしね!」

 笑い事ではない。

 文化祭の出来事は悪夢だった。目立つし、警護には気を遣うし、王族まで連れ歩いて大変だったのだ。あんまり大変なように思われないので、余計に報われない。

「シュヴィも最近は料理にはまっているようだし、あんなことはもうないと思いたいんだけど」

「そうだねえ。そう言えば、料理を作ったら味見と称して担当番に食べさせてくれるんだよ。なかなか個性的な味も多いのだけれど、聖獣様の手ずからということで、担当番に手を挙げる者が増えたんだ」

 言外に、前は手を挙げる者がいなかったように聞こえるが、そこは追求しなかった。

 ゆったり歩きながら進むうちに、シュヴィークザームの私室へ到着した。

 顔見知りの近衛騎士たちに挨拶してから、中へ入る。

 先触れがあるので当然気付いているシュヴィークザームは、扉の前で待っていてくれた。開けたらすぐ彼の顔があって(というかシウの目の前は胴体なのだが)、いつものことながら笑える。

「お菓子持ってきたよー」

「そうか! ささ、入るが良い」

 シュヴィークザーム付きのメイド、カレンがすぐにお茶を淹れてくれたが、シウの顔付きとシュヴィークザームを見て、サッと席を外してくれた。さすが王城のメイドだ。

「お菓子の前に話であるか」

「ごめんね?」

「構わぬ。隣の、私室へ行くぞ。この応接間には勝手にヴィンちゃんが入ってくるのだ」

 そう言って、隣室の本当の私室へと向かう。


 巣状態になっているシュヴィークザームの私室で、彼も結界を張ってくれたが、シウ自身も張ってみた。

「聖獣の子になんぞあったのか?」

「人化ができたんだ」

「おお、そうか! それはめでたい」

「そうなの? おめでたいことなんだ」

「かわゆいので、捕まる心配もなかろう? 聖獣は人化すると人語も話せるし、安全なのだ」

 かわゆい、のかあ。

 シュヴィークザームの物言いに笑いを堪えながら、シウは話を続けた。

「安定はしてるみたいだし、今のところ変化も自在にできるみたい。もう少し落ち着いたら、会ってくれる?」

「もとより。なんぞ、理由をつけて外で会いたいのだが」

「そうなんだよねえ。いくらなんでも、ここに連れてくるのは問題があるだろうし」

「うむ。我でも理解できぬ術式を仕掛けている場所もある。何より、宮廷魔術師と偶然行きあって万が一にも見付かっては面倒だ」

「だよねー」

 心底思うが、シュヴィークザームが聖獣の味方で良かった。

 不幸な目に遭う聖獣が減るだろうからだ。

「……ひとつ、手がないこともないんだけど」

「うむ?」

「ただなあ、シュヴィ、黙ってられないだろうからなー」

「む。人を子供のように言うでない」

「だって、嘘はつけないんだよね?」

 何度目かの掛け合いに、シュヴィークザームは苦笑いだ。が、今度は答えを用意していたらしく、ふんぞり返って教えてくれた。

「嘘は極力つかんが、つこうと思えばつけるのだ。それよりも、だ。我は、無視するということを覚えた」

「ほほー」

「何を聞かれても答えないのだ。カレンも言っておったが、我は人間からすれば表情というのがないようだ。となれば、顔を読む、とやらもできぬであろう?」

「なるほどー」

「む。信じておらぬな?」

「いえいえ。じゃあ、ちょっと内緒の魔道具を渡しちゃおうかな」

 もったいぶって言うと、シュヴィークザームは前のめりになってワクワクしだした。顔には出ないが、気持ちは十分伝わってくるので絶対に秘密事はバレそうだ。

「あのねえ、良いもの拾って使ってるんだけど、本当の本当に内緒だからね?」

「うむ!」

「簡易の転移ができる古代魔道具なんだ」

「……は?」

「どこか、シュヴィしか入れない場所に設置して、また別のどこか安全な場所にも設置しておく。で、この《転移指定石》を使って飛ぶ、というわけ」

 さすがにブラード家の屋敷内や、爺様の家、コルディス湖の小屋へは招待できない。彼が信用ならないのではない。彼の後ろにあるものが怖いのだ。

 そのため、別の場所に小屋なりを設置して、そこへ転移するというわけだ。

「おぬし、バカであろう?」

「え、なんで」

「……そのような超貴重な魔道具を、個人でこっそり使っておるのか。しかも我にまで教えるとは」

「シュヴィだから教えたのに」

「う、うむ、そうなの、か」

 それは、そうなのか、ともごもご言いながら目元を赤らめた。嬉しかったようだ。

「どうする? あんまり数がないから、要らないなら設置しないけど」

「む。いや、それは」

「転移先をまだ決めてないから、今後吟味するけど。どうせなら、シュヴィが避難できるような場所にしておこうかと思ってるんだ。希望があるならなるべく叶えるけど」

「……そうか、おぬしの家は下宿先だと言っておったから、迷惑がかかるのか」

 そこまで思い至ってくれて、助かった。

 なんだかんだとマイペースな聖獣だが、賢い人(聖獣)でもあるのだ。

「そうだのう。ある意味、プリメーラが安全と言えば安全であろうが、設置に行くシウが大変か。王領を通らねば、遠回りとなってしまうしな」

「それ以前に、そこ、『サタフェスの悲劇』って言われる元王都だよね? 今も封印している場所なんでしょ?」

「実際には、それほど危険でもない。上級冒険者が常に迷宮内を巡回していると聞くし、軍も持ち回りで常駐しておる」

「へえ、そうなんだ」

「逆に安全なのだが……あとは、その南のオプスクーリタースシルワならば、人っ子ひとりおらぬであろうが」

「惑わしの森レベルで、険しい山脈だよねー?」

 イオタ山脈とどっこいレベルか、踏破はできないと言われていることを鑑みれば更に上かもしれない。なにしろ、オプスクーリタースシルワとは闇の森というような意味がある。一番高い山には虚無という意味のヴァニタスという名が付けられているほどだ。どれだけ怖いんだ、と地図を見て思ったことがある。

「あそこならエルフもおらぬから、安全だと思ったのだが」

「エルフは敵対してないよね?」

「ラトリシアのエルフの背後にはハイエルフの者どもがおるからの。聖獣である我等のことすら、下に見ておる。どうかすると、利用しようとも考えているのではないかな」

「そうなんだ。そっか、じゃあ、ミセリコルディアだと無理があるのか」

 シアーナ街道が縦断しているので意外と良いと思ったのだが、却下である。

 しかし、他にあるかというと、随分離れてしまうことになる。

 いっそイオタ山脈へ、とも思うが狩人のことがあるのでこれも却下。

「うーん、どこが良いかなあ」

「我の万が一の避難先でもあるのよな?」

「うん。どうせなら。そうあちこちに設置できないし」

「ふうむ。ではやはりプリメーラに近い場所が良いのではないだろうか。何かあっても逃げ込めるしな」

「まあ、結界張っていれば魔獣は怖くないだろうけど。でもそこまで一度行く必要あるんだけど、勝手に行っても良いの?」

「王領への通行手形と、地下迷宮への通行許可証を出させるか」

「……何の名目でさ」

「そこはそれ、我の頼みでプリメーラの様子を知りたいとかなんとか」

 絶対に信じてもらえない方にロカ金貨一枚、と思ったが黙っておく。

「シウが小手調べに入ってみたいと我に頼んできたのだ、と言っておくか?」

「やめて。それ、ヴィンセント殿下は信じないだろうけど、他の貴族は絶対に疑うから」

 利権に煩い彼等のことだ、絶対に裏があると目を付けられるに違いない。

「……そうだ。おぬし、確か遺跡研究がどうたらというのを学んでおったな?」

「古代遺跡研究科ね。うん、って、まさか」

「そうそう。我の我が儘を聞いてくれるお礼に、プリメーラへ入る許可を与えたいと言ってみるのはどうか。冒険者でも入れるのだ、おぬしなら構うまい。他の生徒へは危険があって無理だろうが、グラキエースギガスの討伐隊におって、全体を指揮した者ならば、とな」

「指揮したのは別の人だよ。僕は全体を見ていて逐一伝えただけ」

「ふん。分かる者には分かるのだ。ヴィンちゃんも理解しておる。おぬしの冒険者レベルが高いことも重々承知だ」

「え、じゃあやっぱり色々調べられてるんだ。やだなあ」

「言っておくが、我の友達になる前からのことだから、決して我のせいではないぞ?」

「はいはい」

 結局、シュヴィークザームの独断専行という格好にする。シウにお礼をしたい、ついてはプリメーラへ入る許可を、更についでに王領へ入る許可も――ということで決まった。

 プリメーラへは常に飛竜による移動があるので、その便にシウも乗せられるだろうとのことだった。とはいえ、王領を通ることに違いはなく、通行手形は必要なのだそうだ。

 王領と言っても特に何もなく、許可を受けた冒険者は割と普通に討伐へ入っているそうだ。むしろ王領へわざわざ入って魔獣を掃除してくれて有り難う、ぐらいのものらしい。

 シウなら、背後もしっかりしているのでそうした意味では許可は降りやすいとのことだ。貴族が気にするのは、シウが王族にとって特別な存在、ようは授爵などという利権の絡むことへの危機感なのだろう。

 面倒くさいが、後はシュヴィークザームのお手並み拝見である。

 とりあえず、絶対に裏は明かすなと言い含めて、この話を終わりとした。

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