024 喩え話と三頭身




 お腹も膨れて、シュヴィークザームはソファの上でだらしなく横になって寝ていたが、シウの話は覚えていた。

「それで、我に頼みたいこととは何なのだ」

 苦しゅうない言ってみよ、といった様子でシュヴィークザームは偉そうに言う。本人に悪気は全くなく、彼はそんな人(?)なのだ。

 カレンは賢く、すぐに席を外してくれた。

 シウは思案しつつ、喩え話として話をすることにした。

「……例えばだけどね。聖獣の卵石を発見したら、王族に献上するよね?」

「うむ。そうだ」

「それって、絶対だよね? ルール、規則だよね? この世界の」

「規則、というと語弊があるのだが、まあそうだな」

 拾ったのか? という視線が飛んできたので、苦笑して首を横に振った。卵石を拾ったわけではない。

「でも、どうして? なんだってそんな決まりがあるの?」

「前にも話したかと思うが、保護だ。一番の理由は、悪事に利用されないことだ」

「ふうん」

 それでも、過去にはいろいろ嫌な事件もあったようだが。

 それはさておき、核心に入る。

「じゃあ、保護した王族が、悪い人ならどうなるの? 悪事に利用したりとか」

「……む。それはいかん」

「いかんけどさあ。庶民からすれば、卵石を献上するのは当然でしょ? でもその相手が悪魔みたいな人だったらどうなるのかなーと思って」

「……何故そのようなことを」

「過去の文献を読んで、気になったから。あと、その答えによっては、古文書の解析も変わってくるし」

 しらっと、半分は本当のこと、半分は適当に話してみた。

 シュヴィークザームは特に疑うこともなく、そうかと頷いた。こういう素直なところが聖獣の、いや希少獣たちの良いところであり、利用されてしまう悲しいところなのだと思う。

「悪事をはたらくようであれば、その時代の聖獣の王が守護することになる」

「じゃあ、今だとシュヴィが守ることになるんだよね?」

「うむ」

「守れるの?」

「うん? それは我に問うておるのか」

「そうだよ。シュヴィは強いけど、相手は他国の王だよね? 国としての問題になったりしないかな」

「……そうしたことを気にしていたのか」

「うん」

「仮定の話をされても、我も困るのだが」

「心配性なんだ」

 すっとぼけて答えると、さすがにシュヴィークザームも瞳の奥を覗くような視線を向けてきた。

 だが、答えずにまっすぐ見返していると彼は、ふうと諦めたように鼻から息を吐いた。

「相手をするしかあるまい。それが怖くて、我が子を守れぬ親など、いはしない」

「国を巻き込んで? 戦争を仕掛けてくるよ。多くの人が死ぬだろうね」

「……おぬしは我に何を言わせたいのだ」

「覚悟だよ。正直、僕なら多くの人が死ぬなら、その王一人をなんとかすれば良いかと思ってしまう。とはいえ、裁く権利なんて僕にはないし、誘拐してどこかに監禁するだけに留めるかもしれないけど」

「おぬし、案外過激なことを言うのだな」

 そうかもしれない。

 けれど、ロトスを殺すために魔法使いへ下げ渡した話は、聞いていてゾッとした。

 当たり前のようにそんなことができる人に、戦争を仕掛けるきっかけを与えてはいけない。だからと言って、何もしていない前から暗殺などというのは、それこそ相手と同じ野蛮さで非論理的だ。

 しかも、戦争を仕掛けるには、物理的に難しいことも分かっている。

 あの国はラトリシア国との間にシュタイバーンを挟んでいる。簡単には襲ってこれない立ち位置だ。それでも、好戦的な国デルフがラトリシアの南にある以上、手を結ばれる可能性も視野に入れておかねばならなかった。

 気になることはとことん、摘んでおきたいのだ。

「厄介な相手に献上しないといけない聖獣の身の上話って、物語としてアリだよね」

「……現実は物語よりも特異なり、と言うか」

 事実は小説よりも奇なり、とも言うが。

「それで、可哀想な卵石は保護されておるのか?」

「卵石じゃないんだけどね」

「……ううむ。であれば、尚更に、我の力が要るではないか」

 何故もっと早くに来ないのだとお怒りになられたので、シウはかくかくしかじかと説明した。

「我に遠慮してか。力ないことを憂慮したか。この国の未来を案じたのか」

 それでも相談してほしかったと、項垂れてしまった。聖獣の王は、シウが思う以上に聖獣たちのことを心配しているようだ。

「シュヴィ、それにね。実は、その子は少し特殊で変わってるんだ。その特殊な部分が僕と波長が合ってね。それでなくとも、助けた僕のことを慕ってくれている。つまり、離されたくないんだよ」

「……我の袂に来れば安全ではあるが、おぬしと離されるのを恐れたというのか。まだ幼獣でありながら、それほどとはのう」

 憐れだと、また落ち込んでしまった。

「せめて人化できれば、もう少し安心できるし、成獣になれば力も蓄えられて、一方的にやられることもないでしょう?」

「人化できぬのか?」

「理由は本人にも分かってないようだけどね。全く兆しも見えないよ」

「……一度会ってみたいのだが」

「それは僕も有り難いけど、どうやって?」

 ふらふら飛んできたら、ヴィンセントに目を付けられてしまう。彼にバレたら、大事おおごとだ。

 国の一大事でもあるし、いつ何時、国として強制的にロトスを「保護」すると言い出すか分からない。

 また、そうなったら政治の流れ、駆け引きによってはロトスを引き渡される可能性だってあるのだ。

 だからこそ、絶対に国の中枢にバレてはいけない。

 せめて成獣になって力をつけるまでは。

 シュヴィークザームもそのあたりはよく分かっているらしく、悩ましいようだった。

「とりあえず、どうにかして一度会ってみたいものだが」

「王城に連れてくる案も考えたんだけど、何かのきっかけでバレたら怖いしね」

 デルフ国のように、あちこち変な魔法陣が描かれていることはない。しかし、魔法使いは普通に歩いているので、見破られる可能性もある。

 背中のリュックに鑑定を掛けられたら終わりだ。

 シウも、さすがに自分の能力に万全の力があるとは思っていない。

 それはシュヴィークザームもだ。

「……少し、考えてみるとしよう」

「とりあえず、さっきの話は全部架空の話だからね?」

「分かっておる。おぬしのことだ、バレたらとっとと逃げる気でおるのだろう?」

 もちろんだ。迷惑を掛けたくないので、カスパルにもどうかしたら記憶を改竄しようかと思っているほどだ。知らなければそれで済む。

 いつだって逃げる算段は付いていた。

「シウよ。我が同族の子を、よろしく頼むぞ」

「はい」

 一応の話を通して、シウも少しホッとした。情報を共有できる相手がいるのは有り難い。

 シウはシュヴィークザームにくれぐれも誰にも話さないよう念を押して、城を後にした。




 ロトスには、シュヴィークザームのことを全部話して聞かせ、今日の出来事も教えた。

 自分の立ち位置を改めて理解して、ショックを受けてはいたが、助けになってくれる人(聖獣)もいるのだと分かって安堵している。

「僕に万が一のことがあっても、フェレスもいる。聖獣ポエニクスのシュヴィークザームは全面的にロトスの味方だし、シュタイバーン国だとキリクへ頼ると良いから」

(キリクって、あの綺麗な貴族の女の子の婚約者か)

「そうだよ。オスカリウス辺境伯って言えば有名だからね」

(リア充かぁ。でも、頼りになるんだよな。分かった。でも、その前に人化だよな)

「できればね。最悪、ウルペースのフリをすれば良いし」

 ウルペースなら騎獣として存在するし、偽装はできる。

 その代わり、尻尾をなんとかしなくてはならないだろうが。

 広がった九本の尻尾を見て、思案する。ロトスも気付いたのか、振り返るが、小さい体なので尻尾も付いて行ってしまった。きっと今の彼には尻尾の先しか見えないことだろう。ブランカのように尻尾を咥えることはできないらしい。

(俺、三頭身だよなー。狐なのにまんまるでもこもこしてるし)

 はあ、と溜息を吐いて尻尾の先を見ていた。

(もうちょっと格好良いのを期待していたんだけど)

「大人になれば変わるんじゃない? 子供のうちは大抵ころころしているよ。ブランカも猫……って言うよりは、ライオンやトラの子供みたいにころころしてたし」

 フェレスは猫型なので、完全に猫の子だった。

(そっかなー。あ、でも、狐って顔がみょーんと長いんだよな。しまった。俺、柴犬ならタヌキ顔が好きなのに)

「……本当に、格好良いってだけで、転生先を選んじゃったんだね」

(シウは?)

「僕は記憶さえあれば、それでいいかなと思ってたし。おかげで、前世の顔に似てるよ」

(え、そうなの? そういや、あの貴族の女の子は外人だったなー。てっきり貴族だからだと思ってた。でもさあ、だったら、シウの顔って浮いてない? ちょっと薄いよな。完全な日本人顔ってわけじゃないけど)

「シャイターン国なら、割とこんな感じらしいって。大体、獣人族とかエルフとかいるんだから、僕の顔程度じゃ浮かないよ。むしろ聖獣の人化した姿の方が目立つね」

(げっ)

「人化した時に黒い部分があるといいね。正直、全身が真っ白い姿って、相当すごいからね」

(げげ!)

 格好良いのは好きだが、変に目立つのは嫌だと、割と我が儘なことを言って、ロトスは悩ましげにグルグル回っていた。

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