017 遊びと訓練、懐かしのおでん




 朝ご飯が終わると、外に出た。

 ぶるっと震えはするが、希少獣たちはよほどの暑さや寒さでない限りは問題ない。

 若干、クロが寒さを感じるのと、他の子は夏の暑さが苦手なぐらいだろう。

「じゃあ、フェレスは見回りお願いね」

「にゃ!」

 分かった、と嬉しそうに尻尾を振って、飛んでいった。見回りもしつつ、森の中で訓練を兼ねた遊びを行うのだ。

「クロとブランカはもうすぐ大人になるから、そのための訓練がてら遊ぼうね」

「きゅぃ!」

「ぎゃぅ」

(俺はー?)

「一緒に遊んでても良いし、人化の練習するとか」

 あ、そうか、と今更のように思い出していた。どうも獣姿が長いので、完全にそれで落ち着いているというか、人化の必要性を忘れていたようだ。

 けれど、誰かから隠れるにしても、街中へ遊びに行くにしても人化は必要だと思う。

 特に聖獣は目立つので、異世界を楽しみたいなら最低限、人化はできないと。

 ロトスもそれを思い出したらしく、あーと呻きながら、分かった頑張ると宣言していた。


 まず、クロには飛行訓練だ。低空飛行なら今でもできているので、安定して長く飛べるように魔力の扱い方を含めて指導した。

 鳥としての飛び方ももちろん大事なのだが、長く飛んだり早く飛ぶには魔力を使うことが必要となる。希少獣なので、そのあたりは普通の獣と違う。

 彼の場合は頭が良く、教えたら教えただけ理解して実践できていた。

 ブランカも飛びたいらしいのだが、騎獣は成獣にならないと飛べないので無理だ。

 代わりに、マナーについて教えこむ。

 今まで許されていたことでも、今後は騎獣としてきちんと振る舞うことが要求される。人前でだらんとした格好はもってのほかなのだ。

 また大事なのが、主の命令なしに人を襲わないこと、である。

 もっとも、主として人を襲うような命令は下すことなどないのだが、ここはしっかり教えこまないといけない。

 フェレスも、シウが襲われているのを見ても絶対に動かないよう、訓練されている。

「絶対に人を襲っちゃダメだ。勝手に動くのも本当はダメだよ。でも森のなかでは自己判断で動くことも大切だからね。そのあたりの線引が難しいよね」

(俺でも難しいぜ)

 横で聞いていたロトスがうんうんと頷いていた。

 時折、分からないと首を傾げるブランカに助け舟を出してもくれた。幼獣とはいえ聖獣に、獣の言葉で伝えられると本能を呼び起こされるのか、理解できているようだった。


 子供たちの集中力は一時間ぐらいが限度なので、遊びも交えて途中で違う作業を挟んだりして、午後は湖の上を飛んでみた。

 シウは飛行板に乗り、クロを飛行板の先頭に乗せて飛んだ。飛んでいる感覚を掴んでもらうためだ。魔法を使っているので、それも感じやすいだろう。

 ブランカはフェレスに乗って、飛ぶ感覚を掴ませる。途中、アクロバティックなことをするだろうことを踏まえ、ロトスはシウが引き受けていた。

 案の定、ブランカが背中で暴れるので、フェレスが宙返りをして振り落としていた。

 多少のことはやってもいいと言ったが、本当にやるのかと呆れ顔で見ていたら、冷たい湖の中からブランカがぎゃぅぎゃぅと文句を言っていた。

(なあ、あれ、大丈夫なのか? 溺れるんじゃないか?)

 不安そうに聞くロトスに、シウは笑った。

「大丈夫だよ。何度も泳ぎの練習しているし、あの子たちは、特にブランカはニクスレオパルドスだからね。寒さには強いんだ」

 言っている間に、フェレスが滞空飛行を行いながらブランカの首を掴んで持ち上げていた。水を吸って重いはずだが、意外と水気を弾いているようだ。ただし獣の本能でか、体をぶるっと震えさせたいようだった。仕方なく、フェレスは湖畔まで飛んで戻っていた。

(俺も飛べるようになるのかなー?)

「聖獣は飛べるはずだよ」

(……でもさあ、俺って、普通の聖獣と違うんだろ? 黒が混じってるって、おかしいんだろ?)

「そういう子がいなかっただけで、突然変異とか、特殊個体ってあると思うよ。ウルペースレクスなんだし、特別な感じで良いんじゃないの」

(そりゃまあ、神様にチートでって、ねだったわけだけどさあ。特別な存在って、悪い意味でも特別になっちゃうんだってこと、知らなかったんだもんよー)

 考えが思い至らなかったのは、仕方のないことだ。

 前世ではまだ二十歳という若さで亡くなっているのだから。

 シウは足の間で震えながら座り込んでいるロトスの頭を、しゃがんで撫でて、慰めてあげた。

「生まれた時よりは白くなってきているんでしょ? それに、黒が混じっているとただの騎獣のフリもできるよ。黒い騎獣がいないわけじゃないんだから」

 完全な黒というのは騎獣ではいないが、小型希少獣なら蝙蝠型のウェスペルティーリオや鴉型のコルニクスなどがいる。クロも九官鳥型のグラークルスなのに全体が黒い。

「良いように考えないと。人化でも黒が混じっていると楽だよ。なにしろ、聖獣の人化って真っ白いから。目立つよー」

「きゃん?」

 そうなのか、と見上げてくる。

「真っ白い人って、いないからね。いざとなればカツラを被ったり、偽装しても良いんだけど。見破る人もいるから。あ、そうだ。認識阻害の魔法を付与したもの、後であげるね。首輪にするか、耳にピアスでも開けるかして」

(首輪は良いけど、ピアスはやだなー)

「首輪の方が嫌だと思ったんだけど」

 元人間としては、首輪なんて複雑じゃなかろうかと思ったのだが。

(ほんとだ。なんでだろー。でも首輪は平気。ピアスは女みたいで、やだ)

 同じ時代を生きていたので、男でもピアスをしていた子も周囲にいただろうに。意外と古風なのかなと思っていたら、ぼそっと呟いた。

(……痛そうだし)

 どうやら、怖がりらしい。

 シウは笑いを堪えて、湖上の飛行を楽しんだ。



 夕方、遊び疲れた子たちがうとうとするのを横目に、料理を作る。

 あちこちの市場で相変わらず買いだめしているのだが、調理しないまま空間庫に入れている分も多い。だから、こうして作る時間があると創作料理を楽しむ。

 調理済みのものを空間庫に入れておく場合は定番料理が多いが、時間を掛けて作れる時は思うままにするのだ。

 気に入れば、多めに作って空間庫へ保管しておく。

 この日は、おでんを作ってみた。夏の間に、市場で買った白身魚の身を練り物にしていたのだが、ここで役に立った。厚揚げもあるし、普通の鶏の卵など時間ごとで分けてごった煮にする。本当は素材によって別々に煮るのが正しいらしいのだが、シウは断然ごった煮派だ。牛すじ肉は角牛のものにしてみた。巾着餅だとか、子供が好きだろうとウィンナーも最後の方で入れる。

 これだけだと彩りが悪いので、ほうれん草の胡麻和えも作った。少し甘目にしているのは、子供たちのためだ。

 他に酸っぱいものが欲しかったので、シウ用に人参と大根で酢の物を作った。ブリの焼いたものが残っていたので身をほぐして混ぜる。こちらも酸味を抑えて甘みが強い。

 最後に餅を用意して、焼いてから海苔を巻くか、大根おろしと醤油にするか悩みつつ準備だけした。


 フェレスたちはいつも通り、特に疑問も感じず美味しい美味しいと食べていたが、ロトスは戸惑っているようだった。

「どうしたの? おでん、嫌いだった?」

(おでん……)

「そうだけど。あれ? もしかして、ロトスのところではおでんの中身が違う?」

(ううん。大体こんな感じ。あと、これでジャガイモがあったら完璧)

「あ、そうか。ジャガイモね。忘れてた。追加で入れようか? 味ならすぐ染みこませられるよ」

 魔法があるし、それでなくても調理時間を早めるぐらい訳ない。

 が、ロトスはううんと首を横に振った。それから、ちょこんと首を傾け、照れ臭そうにお礼を言った。

(ありがとうな、シウ。俺のこと考えて、作ってくれたんだろ?)

「……どういたしまして」

(へっへー。俺、おでん大好き。卵とジャガイモをご飯に混ぜて、たっぷりの汁を入れるんだ。これやると母ちゃんに怒られたんだけど、美味しかったんだよなー)

「猫マンマだね」

(そうそう! 母ちゃんに、お前は猫かって、怒られた。……今は狐だけど)

 スンと鼻をすすり、その後は一心不乱に皿へ顔を突っ込み、頬張っていた。


 ところで、餅にも喜んでいたロトスだが、彼は砂糖醤油派だった。

「……聞いたことあるけど、本当に砂糖醤油なんだね」

(うん。それより、海苔で食べるってのは知らなかった。そっちの方がビックリだぜ)

「そう? 僕は海苔好きだからなあ。マグロも海苔で巻いて、醤油にちょっと付けて食べるのが好きだ」

(マグロあるの?)

「こっちの世界、大抵のものはあるよ。むしろ食材的には魔獣もあるから、こっちの方が多いぐらい」

 そう言うと、ロトスはちょっぴり顔を顰めていた。

(魔獣、やっぱ食うのか)

 この話を聞いた時の彼の顔ときたらなかった。

 確かにシウも、魔獣食べるのか! と思ったから、転生組は同じ衝撃を味わっているのかもしれない。

(まあ、獣と同じだよな。魔素があるだけで)

 案外ロトスみたいにすぐ馴染んでいるかもしれないが。

「マグロ、好きなら出すけど。刺し身もできるよ?」

 そう言うと、ロトスは首を振った。

(まだ食べたいおでんあるから、入んないよ。それに楽しみが増えるから、その時でいいや。あ、俺、中トロの炙ったやつが好きだから! 楽しみにしてるな!)

 そう言うと尻尾を振って、おでんの続きを食べ始めていた。


 ちなみに温泉へは入らずだった。遊び疲れて皆眠ったのだ。シウだけが堪能して、終わってしまった。

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