311 告げ口外交
授業が終わると、アルベリクに相談と称して宮廷魔術師にしてやられた件を詳しく話した。
冒険者ではないアルベリクだが、宮廷魔術師達のやったことが非道だということは理解しているようで憤慨してくれる。有り難いことだ。
何かあった場合は、貴族としていくらか手伝いになれるよう頑張るとも言ってくれたので、シウもお願いしますと頭を下げた。
午後からの授業ではシウの卵石が話題になった。
飛竜でシュタイバーンに里帰りしていて、森で偶然拾ったのだと、ちょっとした嘘をついて説明した。時間的には相当無理があるのだが、誰もそのことには気付かない。
「この寒い時期に飛竜で迎えに来てくれるって、すごい後ろ盾なんだなあ」
素直に信じて驚いてくれるアロンソには悪いが、後から提出しろとラトリシア側に言われたら面倒なので念のために裏工作しているのだ。
実際、卵石はシュタイバーンの地で拾ったものだが、実はラトリシアで拾っていようとも、シウが渡す必要はない。ただただ余計な騒ぎを起こさせないための、処置だ。
辻褄合わせのため、シリルには報告済みで、何かあったら証言してもらう手はずも整えている。こちらの場合は若干疑われた感はある。ただし、深くは追求されなかった。週末ギルドで仕事をしたことなどは彼も知らないからだ。
キリクからは、引きが強いな! と妙な通信連絡が入ったが、シリルによってすぐさま切られていた。
「ちょっとしたことに巻き込まれて、話し合う必要があったんだよ」
「え、何かあったの?」
ウスターシュ達も心配するので、卵石の話から先週の出来事に話が移った。
すると、それぞれ希少獣を持つほどの生徒達で、かつ魔獣魔物生態研究というクラスだからか、皆大いに怒ってくれた。
バルトロメなどは本気で腹を立てて、貴族の票集めなら自分も力になると言ってくれた。
とはいえ、相手は宮廷魔術師だ。
下手な相手に喧嘩を売ってはいけない。
「こちらも、万が一を考えて後ろ盾に報告してますから、大丈夫ですよ」
「それならいいんだけどね。勝手に盗られないよう気を付けて。特に卵石は危険だから」
「シュタイバーンで報告書は出しているけれど、こればっかりは難しいですよね」
「盗られなければ構わないさ。見せてと言われても差し出さないことだね」
などと話し合ってから、それぞれで卵石を観察した。
魔獣魔物生態研究科だけあって、皆がどういった希少獣になるのかなどを想像し合った。
よく分からないが、フェレスはハリーやヒナに対して自慢げに卵石を見せびらかしていた。
「くえ! くえ!」
イレナケウスのハリーは飼い主のアロンソに対して、自分も欲しいと訴えているし、
「きーきーきーきー」
ウェスペルティーリオのヒナも、ウスターシュに欲しい欲しいとおねだりしていた。
「何、言ってるの? え、え?」
「アロンソ、ハリーも卵石が欲しいんだって。ヒナも仲間が欲しいと言ってる」
ウスターシュが通訳してあげていた。
2人とも呆れたような顔をして、自分達の希少獣を見ていた。
「……ごめん。そもそも、うちのフェレスが自慢したのが悪いんだよね」
「フェレス、何て言ってるの?」
「ええと、子分を作ったから楽しみ、とか言ってる」
「子分?」
「うん。この間から変なこと言ってるんだよね。妙なことばっかり覚えるんだから」
溜息を吐いた。
ルフィナとセレーネ達は自分達の小型希少獣を撫でながら笑っていた。
「この子達も、たまに妙なこと言うわよね。わかるわー」
「でもタマラは言わないんじゃないの?」
「この子、ムースだし、そう賢くはないからね。チーズのありかを教えてもらった時は笑ったわ」
「……どこだったの?」
「地下の食糧保存庫。知ってるわよ、って言いそうになったわ」
うとうとしているタマラを撫でながら、笑う。
「総じて、小型の子ってちょっとおバカよね」
セレーネがタマラを見て言ったので、飼い主のルフィナも苦笑していた。
そのセレーネの希少獣も鹿型だが小さいタイプなので騎乗はできない。愛玩用の希少獣だ。
「……フェレスは中型だけど、おバカだよ」
「ああ」
シウの諦めたような一言に、皆が一斉に頷いていた。
「まあ、いいじゃないの。愛すべきおバカよ。天然おバカ。可愛いから良いのよ」
それもそうなのだが。
「にゃにゃにゃにゃ!」
子分をいっぱい作るのだと胸を反らしている姿を見ると、ちょっとだけ可哀想な気になってくるシウなのだった。
翌日、生産の授業でも自由時間の合間に話をした。
レグロは庶民だが生産魔法持ちの中では有名人らしくて、この話を広めてやると請け負ってくれた。
アマリアは、ゴーレム作成のヒントをくれたし、それでなくても友人だからと言ってくれて、父親に話をしておくと言ってくれた。
彼女はヴィクストレム公爵の親戚であり、父親も同じ姓を持つ伯爵だ。
かなりの高位貴族となるので力になってくれるなら助かる。
「それにしても、同じラトリシア貴族の者として、恥ずかしいですわ」
「お嬢様、その者のことわたくしも調べておきましょう」
「ええ。オデッタ、あなたがわたくしの騎士で良かったわ。あなたなら、そのような真似、決して許さないでしょうから」
そう言うと、女騎士のオデッタは頬を紅潮させて、直立不動で敬礼した。
「とんでもないことです!」
敬愛する主人に褒められて嬉しいらしい。アマリアは意外と策士なのかなと、彼等の様子を見て思った。
大貴族の出自らしく、そうした付き合いに慣れているのかもしれないが、おっとりとしておとなしいアマリアでさえ、こうしたことができるのだから。
午後の複数属性術式開発の授業でも、授業の合間にトリスタンへ報告した。
男爵位だけれど、受け持つ生徒の状況を知っておくことは悪いことではないだろう。
実際、現在のシアーナ街道がどうなっているのか知らなかったらしく、シウの話をとても興味深そうに聞いてくれた。
「チコ=フェルマー伯爵第二級宮廷魔術師か。あまりぱっとした話は聞かないから、大したことはないのだろう。だからこそ、そのような物言いをしたのだ。君にグラキエースギガスをあてて、上手くいけば手柄を横取りする気だったのかもしれん」
こうなってくると、飛行板を登録していないのは良かったと、トリスタンは言った。
「この国にとってどちらがより役立つのか、貴族達の説得材料にもなる。冒険者ギルドでもそのように話を持っていくのではないだろうか」
「そこまで揉めないことを祈ってます」
「ふむ。だが、相手は高慢な貴族だ。きっと君から騎獣を取り上げるために全力でかかってくるぞ。とにかく、気を付けなさい」
「はい」
相談に乗るから、とにかく奪われないよう、その対策だけはきっちりするようにと言われた。
そして、このまま新しい魔術式の開発や、魔道具の特許申請などは控えるようにとも。
ようは商人ギルドも巻き込めということだ。
それもそうかと、授業終わりに行く予定だったが、取りやめることにした。
木の日は休んでいいとアラリコから言われていたので、学校へは行かずに屋敷に籠っていた。
先週末の埋め合わせではないが、リュカと一緒に過ごす。
料理の作り置きもした。大量に作るので、リュカだけでなく料理人達も驚いている。
「アイテムボックスをお持ちだとやることが違いますなあ」
羨ましいを通り越して、呆れているようだった。
翌日は戦術戦士科の授業だったのでドーム体育館へ直行だ。
レイナルドを含めて数人に、飛行板はまだ売らないのか聞かれたので、状況が状況なので無理だと理由を含めて答えたら、一番憤慨された。
特にレイナルドは本気で欲しかったらしく、クラリーサを唆していた。
「親父様に言っておいてくれよ。こんな酷い話はないぞ。な? な?」
「は、はあ」
その剣幕に少しばかり引きつっていたものの、クラリーサ自身もチコの態度は気に入らないと言ってくれて、レイナルドのお願いを聞いていた。
「しかし、騎士団も憐れですね」
私設騎士となるダリラが眉を顰めて言う。同じく騎士のルイジも頷いていた。
「誇り高き騎士も、上に立つ者によってはプライドを押し曲げねばならん。つくづく、我等は姫の騎士で良かったと思います」
阿るのではなく、本気で言っているようだった。
クラリーサも誇らしく彼等を見ていた。
「わたくしだってそう思いますわ。あなた方がわたくしの騎士で良かったわ」
ダリラとルイジが嬉しげに胸を張っていた。
「それにしても、情けないことですね。討伐依頼を受けているくせに、それを子供に丸投げしようとするなんて」
「冗談としても許されない発言ですよ」
ラニエロとサリオが同調するように言った。それぞれ男爵家と騎士家の子なので、思うところがあるようだ。
「つくづく、そんな人の下でなくて良かったと思います」
ルイジの発言に対して、商家の子であるヴェネリオが、
「案外、同じ穴のなんとやらで、子が親に似るように、下の者も同じ性質の者がへばりついていくんじゃないですかね。結局は、似たり寄ったりなんですよ」
と、辛辣な一言を放っていた。
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