第120話 悪魔種の可能性

 ギュンター・ディミトリエにとって今日という日は彼の人生で最も忘れ難い日になった事だろう。

 事の発端は週の始まり『聖女の祝日』の日での事だった。

 聖都アクアの中心『アクアリア大聖堂』にて、教皇による説法が毎週行われていたのだが…。この日、信徒の前で教皇が倒れたのだ。直ぐに治療室に運ばれ迅速な処置をされたが原因は不明。常駐の医師からは高齢で激務から来る疲労ではと診断された。だが、その日から教皇が目覚めることは無かった。

 そんな時だ、サンドラゴ枢機卿が次期教皇に名乗りを上げたのは。だが驚くべきは反発する勢力、厳密には他の枢機卿たちなのだが全くと言っていいほど反応は薄い。むしろ可決する勢いだ。

 部下からの報告では、サンドラゴ枢機卿は野心的な人物ではあったが目立った動きは無いとのことだった。もっと深くまで調べさせるかと思ったちょうどその頃だ。

 その日は厚い雲が空を覆っていた。まるで嵐の前触れだというほどに。その日の夜、ディミトリエは胸のざわつきが抑えられずにいた。巡回の護衛とは別に彼自身が教皇の居間にて護衛をした日だった。大聖堂へと暗殺者がやって来たのは。

 教皇へと襲いかかる襲撃者達。彼らにとって予想外なのは執行者エクゼキュートのトップ、総督官自らが護衛していた事だろう。

 襲撃者の攻撃をいなし斬り伏せ素顔を晒せば、出てきた顔は部下だった男数名だった。そして気づく、あの日会場を仕切っていたのは医師も含めサンドラゴ枢機卿の手の者。ディミトリエはこの時初めて喉元まで敵に食い破られていたと知った。

 同等の実権を持つ枢機卿たち、暗部に属する嘗ての配下たち。サンドラゴ派は一体どうやって彼らを自陣へ引き入れらることができたのか。簡単に寝返るほどヤワな組織では無かったはずだが今となってはそれももう…。

 どのみち『聖都ここ』にいるのはまずいとすぐに教皇をつれ馬車で聖都を出た。


 この道中で自分についてきたのは最も信用できる部下男女合わせて5名である。彼らはディミトリエ自身が孤児院の院長に配属されていた当時にいた子供たちだった。

 彼ら彼女らが立派に育ったのは良いが出来る事なら平穏な人生を送ってほしかったと思ってしまうあたり、彼にも人の情はあったのだろう。

 自ら選んだ人生であるが、死んでしまっては元も後もない。かなり厳しく鍛えた者たちだが、それでも主を守るには心許なかった。

 襲撃は昼夜関係なく行なわれた。基本的には『ならず者』を利用した雑な襲撃だった。だが、それも毎夜やられると精神がすり減っていく。そんなわけで、まともに休憩も挟めず本来の目的地ともだいぶ離れてしまったある日の事だった。敵も大詰めといったところか、かなりの数を投入してきた。こちらも罠を凝らして数を減らすことには成功したが残ったのは凄腕と思わしき数名だった。

 ここが正念場と迎撃を試みる。…違う。そうせざるを得なかったのだ。ここで襲撃者を落とさねばコチラが自滅するのはわかりきっていた。それだけ疲労が蓄積していた。

 厳しい戦闘だった。ギュンター自身は何とでもなるが部下が普段の半分の実力も出せず倒れていく…はずが何故か回復し戦線に復帰する。はじめは気づかなかったが、遠距離から高度な治癒魔法をかけられた事がわかった。この辺りを根城にしている術者だろうか?有難いが隠れている場所がわかればその術者も間違いなく消されるだろう。無関係な人間が巻き添えを食らうなど腹立たしい事この上ない。だが、現れたのは…。



「私は…ゼンラーマン!



…あ、パンツ履いてた」





「脱ごうとするなぁぁ!!」




 青い肌の悪魔種 (変態) だった。


 イケませんな。テンションの赴くままに脱衣解放するところでした。

 保護対象には女性が二名ほどいる模様。おそらくは馬車の中ですね。え?なんで分かるって?そりぁ淑女独特の香りがしますからね。え?ニオイフェチじゃありませんよ悪魔のポテンシャルです。便利ですね悪魔。あ、トラン殿も出来たかも


※まさかの風評被害


 にしても困りましたね。女性の前での虐殺行為は気が引けます。そもそも私、グロイのはちょっと…悪魔らしくないですか?そうでしょうとも。これでも私、元日本人・・・ですから。多分。

 そうこうしてるうちに囲まれ斬りかかってきましたね。まぁ、ここまでの手際も身のこなしも合格点なんですがね、ただ、相手が悪いと思っていただきますかね。そのすべての斬撃を拾った木の枝で叩き落としました。エリナさんに今の勇姿を見せて差し上げたい!!


「き…キサマ何者だ!人間種ヒトですら無いお前のような輩が何故…」


「フッフッフッ…確かにこれでは『語るに落ちる』とはまさにこの事」


 確かに『こんなナリ』では何を言われても否定できませんね。誰かしらの息を飲む音が静寂の中に響く。バッと手を大きく広げると黒装束の者たちは構えを取りつつわずかに下がりました。



「『パンツ』を履いては『全裸』に非ず!よろしい!それでは


「「「そっちじゃねぇよアホォ!!」」」」


え??」



「もういい。れ」


 黒装束たちが一斉に飛びかかろうとしました。が、甘いですね〜。

 そうだ!1丁私もカッコつけてみますかね。ヒーロールックですし。


※パンツ1丁は変態です


ワタシヲ前ニシテ随分ト余裕ガオ有リノヨウデスネ』


「くっ!」


 殺気を混ぜた魔力を解放しました。どうです?悪魔っぽいでしょ。エリナさんがいたら惚れ直してしまいますねドゥフフフフ…。

 よく見れば馬車チームが膝をついてるのが何人か。あらら、彼らにまで悪影響が出てしまいましたか。これは早急に決着をつけねばなりませんね。


「『大地よ我が意に従え!


連鎖する戒磔クローズ・ド・ワーロック!』」


 私の詠唱に呼応して大地から半透明の黒光りする鎖が彼らを捉えました。ホントに魔法って便利ですね。

 まぁ、本来なら術理を構成する詠唱が必要なのですが、この悪魔ボディ、大気の魔力との親和性がアホ高いんですよ。オマケに体内の魔力もやたらと多い。なので思い描いた通りに術が発動するのです。便利ですね〜悪魔って。

 ですが万能ってわけでもないんですよ。例えば…。




「『重ねて命ずる!恥辱をもって彼の者を束縛せん!


バツ印の磔のヤツクロス・ホールド!』


○甲縛りでお預けセクシー・ロック!』


三○木馬トライアングル・ヤメテケレー!』



 黒い鎖が僅かに震える。そして起きた事象といえば…。


1人は大地に両手足が拘束されただけ。


2人目は亀の甲羅的な縛りとは程遠い、ミイラもびっくりのぐるぐる巻き。


3人目に至っては三角どころか、幼児が遊んでそうな木彫りの馬のヤツ。


 そう、ことごとくが中途半端感が否めないのです。まるで世界が拒絶反応をしたような感じなんですよね。何ででしょ?せっかく私が編み出した[セクシー魔法]なのにガッカリですよ。

 ま、それでも黒ずくめ達は軒並み喚き叫び発狂しだしてますからこれで良しとしますかね。しかし我ながらなんと見事な手際の良さか。馬車チームがドン引きしてますが、そこはどうでも良いでしょう。


 あ!まだこちらを監視している者がいますね。どこでしょう?魔力を網状に広げ探索をかけると一羽の鳥を捉えました。いえ、あれは土人形ゴーレムですね。


「『穿つ硬塊ルティン・ラス』」


 土属性、魔力で固めた弾丸で撃ち抜きます。あ、派手に爆散しましたね。でもこれで追跡されることはないでしょう。


…アレ?追跡?それでは馬車チームの皆さんは今までマトモに寝れてないのでは??



 いけません!それはイケませんな〜。

 キチンとした休みを取らなければ100%のポテンシャルは出せませんぞ。これでも私、冒険者ギルドのギルドマスターなので、そういうのは見てみぬふりは出来んのです。ブラック業務反対!休むときは休む!遊ぶときは遊ぶ!脱ぐときは全部脱ぐ!


「と、いうわけでしばらく進んだ先で休憩といきましょう」


「き、貴殿は先を急ぐのでは?」


 大柄のリーダーと思わしき男性がそんな事を言いました。イヤですね〜。困ってる人を放置してサヨナラなんて出来ませんよ。私は悪魔ですがね。

 こうして私は彼らとしばしの間、同行することになりました。


「‥服を着てもらえるかね?」


「え?コレダメですか?」







………………………………

お待たせしました。

次回は主人公視点の予定。

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