第11話 能力《ちから》の根源

 鬼教官もとい師匠の剣術稽古が始まるって時だった。ナバルは木剣を持って緊張ぎみ、俺も木剣を取ろうとしたら


「ん?トラン、ぬしは爪で来んのか?」

「爪?何の事?」

黒刃熊ニグレドラベアと言えば左右十本の鋭利な剣爪であろう?」


 にぐ…何だって?さっぱりわからん。師匠に聞いたところオレとホルンの素体の魔獣は巨体のわりにえらい素早く、小型のドラゴン位なら食っちまう程に危険な魔物らしい。…バアちゃん、よくそんなんでキメラ作る気になったね。で、オレの元の奴は細い剣みたいな爪を使うらしいんだが、どうやって出すんだよ…今まで出したことねぇよ。試しに指の先を伸ばす感じにやったら…


シャキィン!!


 …出ちゃったよ。レイピアみたいだな。刃渡りは50cm位かな?真っ白で綺麗なんだけど、どんだけ頑丈なんだ?パッキリ折れたら洒落にならんぞ。とりあえず近くにある木に刃先を当てたら…

あっさり刺さるんですが…豆腐に包丁刺したみたいにあっさり食い込んだんですが!

 そっと抜いてよく見ようととりあえず刃先を岩場に乗っけたら…岩切れてるんですけど…

 無いって!これ無いって!

 師匠も驚いて刃には触れないよう剣脊しのぎっていったか?を持って軽く叩いたりしてる。


「うーむ、もしやオリジナルを超えたか?」


 はい、オレの身体はヤバいことになってます。聞かなかったことにしよう。と、思ったのもつかの間


「よし、トランとは本身ほんみでやるとしよう! (ニッコリ)」

「やだよ!怖えぇよ!」

「しかしなぁ、主は爪での戦闘に慣れた方がよかろう?となれば木剣では打ち合いにはならん。ワシもこいつを使わねば話にならんのだ」


 そう言うと腰に下げた刀を軽く持ち上げる。


「そもそも黒刃熊ニグレドラベアの爪は余程の名剣でもなければ太刀打ち出来ぬ代物なのだぞ。まして主の爪はそれ以上だろう。それこそワシの『夜月』でもなければ厳しかろうて」


 仕方ないと言う師匠。

 ちょっと嬉しそうな師匠。

 オレだけハードル上がってね?泣くよ?


「二人とも、まずは基礎からいくぞ!トランは一応、十の剣爪全てを抜くのだ!」

「「お、おう」」


1度出したらコツがわかったよ。左右合わせて十の爪がすんなり出てきた。

…自分を切りそうでマジ怖い。



……


「ハヒィ、ハヒィ、師匠!

オレだけメニューおかしい!!」

「ふはははは!何を言うトラン!せっかく十本もあるのだ!使いこなせば10人力だぞ!」

「俺そんなに欲張よくばらないから!

つつましく生きてくから!」


 師匠の斬撃がトランを襲う。おかしいね、師匠の剣が10本に見えるよ?

 トラン、死ぬなよ。

 気合の声なのか泣き声なのかよくわからない叫び声が響くなか、俺は魔術の練習ということでその場を離れた。


「おやナバルや、やっと来たね。そこに座りな」


バアちゃんの所に来るとナナイとホルンちゃんが仲良く遊んでいた。

 ナナイの楽しそうな顔をみるとここに来て本当に良かったと思う。父ちゃんが死んでからずっとふさぎ込みがちだったから心配だったんだ。たまに辛そうな顔をするけど…それはしょうがないよな。俺もキツいもん。


「これじゃ分からないかもしれないが…一応両手で持ってみな」

バアちゃんに渡された水晶玉は淡く光り始めた…けどそれだけだった。

「やはりねぇ…」


 水晶玉をしまうとバアちゃんは俺の両手をとって


「ナバルや、目を瞑り頭の中を真っ白にしてごらん…そうだよ。そのまま…身体の真ん中に暖かいのが感じるかい?」

「うん、たくさん…は無いけど…いくつかあるよ」

「ああ、そのままでいるんだよ…ほお、成る程ねぇ…」


 暫くすると


「もういいよ」


と手を離した。


「ナバルや、あんたの力の話をする前に基本的な魔術を説明した方が良いかねぇ」

「俺は他とは違うの?」

「ああそうさ、違う。『今の時代』じゃアンタだけだろねぇ」


 俺だけ?俺なんか変なのか?すげえ不安になってきた。


「安心しな。順番に話すさね」


 バアちゃんはさっきの水晶玉を出して


「良いかい?普通、魔術ってのは魔力を媒介に…魔力をきっかけにって言った方がわかるかねぇ、それを使って自分と『世界』との対話や願い、祈りなんかをする事で成り立つのさ」


 そう言うとバアちゃんの水晶玉を中心に小さい光が幾つも現れた。

 赤いの、青いの、緑色?茶色?それと真っ白と黒いモヤモヤ。それと何だろう、透明なんだと思う。見えないけど何かある。


「まあ、ナナイみたいに精霊に直接頼むことでも使えるが、それは誰でもできることじゃないからねぇ」


ナナイ魔術使えるのかよ!すげえ!!


「でもアンタはそのどれでもない」


え?どういうこと?


「良いかい…ナバルや、アンタの中には『7本の剣』がある」


…は?


「そいつを『形にして出現すこと』で初めて魔術を使えるのさ」


 俺は自分の手をまじまじ見て…


「俺、そんなのやったことも、出来たことも一度もないぞ?」


「今まではねぇ、そうだろさ。アンタの中には『ふた』がしてあったのさ。そいつを少し緩めといたよ」


じゃあ、今なら出せるのか?


「両手を合わせて、剣を持つイメージをしてごらん」


 やってみた…そしたら…『ボッ』という音と一緒に小さな火が出た


「おおお!…ちっさいな」

「今はそんなもんだろねぇ、どれ、今度は腰の木剣を構えて『氷の剣』をイメージしてやってみな」


 …火は止めろってことね。ゴメンよバアちゃん。

 俺は木剣を構えると氷の剣をイメージしてみた。したら木剣を中心に白いモヤが集まり出して…


キィーーン


うぉ!かっけえ!!俺の木剣が氷の剣になった!


「おお、最初にしては上手じゃないかい。媒介がある方が良いみたいだねぇ」


俺は気になることを聞いてみた


「なぁバアちゃん、さっき『蓋を少しずらした』って言ったけどもっとずらしたらもっと強くなるのか?」


「普通はそうだねぇ、でもナバルや、今アンタは初めて魔術を使ったね?」


 俺は頷いた。


「いきなり多くの力を使おうとすると『自分』が負けちまうのさ。だから最初は誰もがそんなものなんだよ。」


 ああ、俺はまだ弱いんだな


「だから一歩ずつ進みな。最初は小さくてもアンタは必ず強くなる。慌てずじっくり鍛えていけば良いさね。」


 そう言ってバアちゃんは笑った。


「魔術ならアタシが、剣ならガドが教えるさね」

そう言うとバアちゃんと二人、窓の外を見た。



『あんぎゃぁぁぁぁぁ!!』


パッカーーーーン!


トランが吹っ飛ばされてった。

「…バアちゃん俺、強くなりたいけど、ちょっとずつでいいや」


「はぁ、しまらないねぇ」


 ありがとうトラン。お前のお陰であわてない方がいいってわかったよ。


「なんか納得いかねぇ!!!」




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