第10話 出会いはいつも突然で

「だから言ったじゃん!鹿はまだ早えぇって!」


「はぁ!はぁ!…俺の知ってる鹿じゃない!」


『フムォォォォォォ!!』


 森の中をナバルと二人、全力で駆け抜ける。後ろに全長5メートルほどの化け物みたいな鹿しかつのをブンブン振り回しながら追いかけてくる。殆どの木をなぎ倒してるが時たま引っ掛かるらしく、おかげで俺らは助かってるが。


「ぜはぁ!ぜはぁ!…あいつイラついてね?」


「そりゃたまに引っ掛かってるもん。面白くないだろぅよ」


『フムォフォフォフォォォォォ!!』


 あかん、キレた。

 鹿って切れるとヘドバンするの?すんげぇ頭振ってんだけど…ナバルはもう倒れそうだ。しかたねぇなぁ。


「おい!俺に乗れ!」


「ぜはぁ!…俺よりちっさいのにどこ乗れるんだよ!」


「ちっさい言うなボケぇ!」


 俺はナバルの両足をかかえ肩車して全力で走る。


「はぇぇぇぇーー!げぼはぁ!」


 地面を蹴る瞬間に風魔法で加速を加えると速度の大幅アップができる!失敗するとエラいことになるがそこら辺は練習済みですよ。木の枝がナバルの顔面がんめんを何度か強打してるが死にはしないだろう。そんなことより、俺はこうなった経緯と、とりあえずの打開策に悩むはめになった。



 数時間前にさかのぼる。



 2、3日もしないうちに魔王は二人を連れてひょっこりやって来た。


「やぁ、君がトランかい?私の事はウィルとでも呼んでくれ」


「お、おう。バアちゃんに用だろ?今呼んでくるよ」


「…本当に知性があるんだね。生まれたときからと聞いたが大したものだね」


「誉めてもなにもでないぜ?フフン。…茶でも飲むか?」


「…茶は出るんだ。頼むよ」


「おうよ。後ろのチビっ子どももあがんな。茶しかねぇけど。」


 じっと見てた子供たちにも声をかける。そこらの魔物と思われても困るしな。


「…クマがしゃべった」


「クマちゃんこんにちわ!」


「おう、よろしくな。

 バアちゃん客来たぞォォォ!」


「叫ぶんじゃないよ!聞こえてるよ!」


 奥の部屋からバアちゃんが出てくる。また何かの調合かな?そっちも教わりたいが今は魔法の基礎だけでお腹いっぱいだから余計なことは言わない俺、学習しましたよ。ヘヘン。


「二人とも、怖がんなくても良いよ。別にとって食おうってんじゃないんだ。アタシゃこの森にすんでる、キャリバンヌ・ノーチェスって言うのさ。町の方じゃ『深緑の魔女』なんて呼ばれちゃいるが実際は何処にでもいるただの魔術師だよ。よろしくねぇ」


 俺が茶の用意をしてる間に、バアちゃんは二人がどの程度の知識を持ってるのか聞いて調べてた。

 驚いたことに少年ナバル (名前はこの時知った)は薬草の選別が出来るらしい。すげぇな。で、妹のナナイちゃんは俺に釘づけである。


『じーーーーっ』


 え~と、俺どうしたらいいの?

 部屋の奥から『あうあうあ~』と声がする。ホルンが起きたらしい。


「バアちゃん、俺ホルンの様子見てくるわ」


「頼んだよ」


 脱出成功 ♪ そのままホルンをダシに部屋に引っ込むと、なんとナナイちゃんもついてきた!

 うぉい!ナバルにいちゃん妹捕まえとけよ!

 追い返すのもなんか不自然で泣き出されても困る。俺はスルーでホルンのところに行った。


「…!ネコちゃん?赤ちゃん?かわいいの。」


「キャッ♪キャッ♪」


 ナナイは獣人を初めてみたのか驚いてるがホルンを気に入った様子。ホルンも機嫌きげんは良いらしい。ひとまずは安心かな?どっちかが騒いだらどうしようか俺も一様悩んだのよ?でも端から見てると仲良くなりそうだ。良かった良かった。


「トランや、ナバルに薬草の採集頼んだからお前もついていきな。」


「あいよ!」


 たぶん護衛の意味もあるんだろなぁ。

 森の家の周りは一応、バアちゃんお手製の魔物避けが張り巡らされてるけど用心に越したことはない。俺はついでにウサギ狩りの準備をする。少しは小僧に手伝わせるか。にしし。

 準備って言ってもバアちゃんお手製のリュック背負うだけなんだけどね。


 ホルンが見つかったら不味かったか気になってバアちゃんに聞いてみたら


「ホルンの成長に影響あるのが『お前』だけじゃ不安だからねぇ。こっちとしても都合良いさね」


「バアちゃん今日は辛口じゃね?」


「…はぁ。自覚ないのも困りものだねぇ」


 ツボに入ったのか魔王は必死に笑いを堪えてる。まぁいいや

「次いでに狩りもしてくるからちょっと遅れるかもよ?」


「わかったよ。でもあんまり無理するんじゃないよ」


「ほいほーい」



これが数時間前のやり取りである。

薬草の採集までは良かったんだよ。問題はこのあとで


「なぁ、狩りっていつも何狩ってんだ?」

「ウサギだなぁ。たまにホロホロ鳥もとったりするぞ」

「へー、村の狩人はよく鹿しか捕ってくるぞ」


 …なんでだろう、『おまえ鹿も狩れねぇの?』って言われてる気がするのは。


「ナバル君、この森の鹿はねぇ、他の鹿とは違うのだよ」

「へー」

ガサガサッ

「 (怒)…この森の魔物はねぇ、凶悪なやつらが多いからねぇ、鹿もヤバいのがゴロゴロいるんだよ」

「へー」

ガサガサガサッ


(スーッハー、スーッハー)

 ↑ 怒りを押さえる深呼吸


「 この森はねぇ、魔力が渦巻いてるからねぇ、普通の動物も魔物化することがあるんだよ。半端なくヤバいんだよ。だからまだ僕らには早いのだよ」


「でも鹿だろ?」


ブチィ!!!


 悪意が無いだけに重い一言ってあるんだね。

ガサガサガサガ


「お前さっきからうるせぇよ!」


八つ当たりとばかりに風魔法をぶっぱなした。魔除けの範囲内だから正直、油断もしてたと思う。

 魔法の着弾地点の草は弾け飛び、音の正体は丸出しになった。

 それは5メートル近い大鹿のケツだった。奴はこちらを睨み付けると


『フムォォォォォォ!!』


 青ざめる俺とナバル。お互い顔を見合わせると全力疾走ですよ。


「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」」


 で、今に至ると。

 うん、なんも策が思い付かん。そう思った瞬間、後ろの気配がゆれた!

 奴は俺らの横の大木に三角飛びをかましやがった!嘘だろ!

 横からの襲撃にビビったのもつかの間、俺らの前方からデタラメな殺気が来た。

その瞬間、鹿は首から上が切り落とされ崩れ落ちた。殺気も消えて。俺は全神経を使っていつでも逃げれるように警戒しまくりだ。


 そこには一人の剣士が立っていた。

 鍛え抜かれた身体に黒革の鎧を纏い、手には日本刀らしき剣を持って。

 何より特徴的なのは顔がまんま狼だった。


「ウム、二人とも無事で何より。おや、ナバルはグッタリしておるのう」


 おいおい、二人は知り合いか?


「とりあえず助かったよ。礼を言う。ところでこの坊主と知り合いか?」


 ぐったりしてるナバルを無視して聞いてみたら狼獣人は怪訝な顔をして


「聞いておらんか?ワシはガド。我が主の命により二人を鍛えることを仰せつかった」


 我が主=魔王

 命令=もしかして側近?

 側近?=クソ強えぇ

 クソ強い=特訓は地獄


「聞ぃてないよぉぉぉぉ!」

 俺たちはこうして最悪のげふんげふん。

最強の師匠に出会った。

 彼こそ魔王の右腕、剣狼ガドその人である。

 やな予感しかしないんですが…

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