第9話 聖教会

「して、聖堂騎士が錯乱状態で発見されたと報告があったがどういう事か、ギュンター司祭」


 聖教会。正確には『アクアリア聖堂教会』。その総本殿にて教皇アームヒルト三世は目の前の男に問いただす。男は膝をつき、神に祈るような仕草を解くと


「はい。お恥ずかしながら一部過激派が独断で『例の儀式』に協力した模様。その者達が『何者か』によって返り討ちにあったとのこと。ただ今詳細を調査中ですのでわかり次第ご報告を」


 慇懃に礼をする。

 ギュンター・ディミストリ司祭。司祭とは思えぬほどの鍛えぬかれた身体はローブの上からもはっきりわかる。その彼にはもう一つの肩書きがあった。


執行者エクゼキュート総督官。

 異教徒弾圧の精鋭部隊、その総責任者であった。

 一司祭が、と思われるだろうが実際は逆である。総督官が司祭をしているのだ。総督官の立場は基本階位に左右されない。それに司祭という立場は丁度良い隠れ蓑になる。だからディミストリが執行者だということをほとんどの者は知らない。


「…わかった、報告を待とう。それと儀式だけでなく人拐いを直接行ってる者もすぐにあぶり出し中止させよ。勇者召喚の為とはいえ人の命を捧げるなど言語道断である。」

「御意」


 ディミストリは瞳をより鋭くすると再度礼をしその場を去る。

 戸が閉まるのを見届けると教皇は「はぁ」とため息と同時に腰を掛ける。一部過激派が横行する毎に聖教会の風当たりも厳しくなる。そんなこともわからんのかと嘆きたくもなるものだ。ただ、ディミストリの意を決した表情を見るに事件解決もそう遠くはないだろう。


「それに『何者か』も黙ってはおるまい。ただ、どうやってなだめるかのぅ」


 心当たりのある教皇は今度は別の意味で頭を悩ました。

 かの魔王は人との争いも征服も求めてはいない。その証拠にここ何百年もあの国は静寂を保ったままなのだ。そんな彼らに喧嘩を売って何になるというのか。

 女神アクアリアの掲げる『悪に鉄槌を』の悪は=魔族とは限らない。むしろ誰人にもある『悪しき心』こそ断て。と教皇はいている。


「何度も言っておるのにのぅ」


 人は自分と違うものに糾弾きゅうだんしがちになる。優越感、劣等感、嫉妬。そういった感情にこそ危惧すべきなのに肝心な者たちにはそれがわからないらしい。

 それから一週間後、儀式の場所は押さえたと報告はあったが首謀者はわからないままであった。何故なら儀式に関わっていたとされる全員が変死体として発見されたからである。捜査は振り出しに戻った。




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