鮮やかに描かれた情景。
複雑に入り組む人間心理。
ここまで細やかで丁寧な情景描写と心理描写は見たことが無かった。
また、情景に含まれる気候や植物の変化が、作中の人物の心理や状態を表しており、メタファーに理解のある者は、一層深い場所での感動を覚えることになる。
多くのキャラクターがストーリー上を駆け抜けながら、それぞれがそれぞれの信念を全うするために生きている。間違いなく、この作品の中には彼らの人生があった。
主人公・カツミは様々な人と出会い、助けられ、貶められ、信じ、騙され、死の淵のギリギリでそれでも生きていく。
削られ続けた生命は、いつしか輝きだし、『本当』に辿り着く。
ここに描かれた苦悩や葛藤は、物語ならではのものでありながら、しかし我々現代社会に生きる人々のそれと何ら変わりなく、それゆえ主人公の成長が何よりのカタルシスになっている。
タグに偽りなし。これは心理劇であり、成長譚だった。
タグと言えば、JUNEという女性向けな趣向のある作品であることを表すタグもある。私は最初気付かずに読み始めたわけだが、「ああ? え? おおお!?」と赤面してしまった。しかし、上述した通り、繊細で綿密な描写とメタファーの描き方が私の書き手としてのセンサーに触れ、どうあれ勉強のためには読むべき作品だという結論に達した。成長のための新たな扉を開けるべきだと感じた。(セクシャル方面での新たな扉を開けたわけではない)
実際、男の私が読んで、不快に感じるような描写は無かった。男性でも安心して見て頂けるだろうと思う。
惑星間で不毛なゲームのように戦争が行われる世界において、強大な能力を呪いのように背負わされた少年が己の能力や存在を受け入れること、人を愛することなどを学んでいく重厚な心理ドラマです。
登場人物はまっすぐにひとりの人を愛する。そのかたちは執着であったり依存であったり、ときには支配であったりします。そのことによって傷つけあったり運命が縺れあったりする。それぞれの思いの熱量に圧倒されます。
移ろいゆく人間たちのあいだを過ぎていく季節の描写が美しいです。主人公を責めるように積もる雪、赦しのような穏やかな春。少年は、堅く自分を縛りつけていた軛から徐々に自分を解放していきます。自分を無条件で愛してくれる存在を糧にして。
数ヶ月の期間のなかで少年が経験する、喪失と再生の濃密な道のりを、ぜひお楽しみください。
大作、名作という表現では全く足りない、とても奥深く素晴らしい作品です。
過酷な境遇を背負い、自己を肯定できない主人公カツミが、ジェイというパートナーの支えによって自己を肯定し、他者を肯定し、過去を克服し、運命と対峙するというのが本筋ですが、とにかく微に入り細を穿つ心理描写、詩のように美しい情景描写が胸を打ちます。
かつ、キャラクターの心情が、読者が読み取ろうとしなくても頭の中にすっと入ってくる描写は、この作者様ならではの文章力の成せる技でしょう。
また、BL作品だからこそ描けた純化された愛の形には、深い感動を覚えます。
ぜひ、多くの方に読んでもらいたい、文句なしのお薦め作品です!
SFかつミリタリー風の味付けになっていますが、中身は間違いなく心理劇です。
主要な登場人物全てが、大きくえぐれている心の欠片を埋めようとして近しい人に対してぎごちなくアクションを起こすんですが、それがイスカの嘴のごとく噛み合いません。自傷、自虐、他傷、征服……外見からはそれがとても愛情であるとは認識出来ないような感情の発露、行為であっても。それは、間違いなく愛情が出処なんです。
かつて夏祭りの夜店でよく見られた、型抜きという遊戯をご存知でしょうか? 薄い板状の砂糖菓子に何かの形が描かれていて、その部分だけをきれいに切り離せれば景品がもらえるというやつです。
本小説はそれによく似ています。誰もが、こういう愛が欲しいと型抜きを削り始めるんですが、結局割ってしまうんですよ。削り出すプロセスが丁寧であるかどうかは、必ずしも成否に関係しません。型抜きというのはそういうものなんです。
割れたら終わりだと思ってしまえば、本小説の一部しか理解出来ません。削り出すという行為そのものではなく、取り出そうとした愛情の本質を見極められるか。それが、この小説の醍醐味だろうと思っています。
著者が長い間かけて磨き込んできた主要人物群。主人公のカツミだけでなく、ジェイ、ロイ、フィーア、シド、ルシファー……。著者がそれぞれの人格に象徴させたものが読み取れれば、きっとあなたの嘆息を誘うことでしょう。ああ愛というのは、どのように割れ砕けてもそれでも愛なのだなと。