2.薬草調達の依頼

 治癒能力を持つ他、医療行為の一環として薬剤研究を行う一帆は、材料の調達を頼むことがある。

 本人が行って探すのが一番早いが、一帆は体が弱いため、他の妖魔士に依頼することが多い。特に古い付き合いである青也には、少々無茶な内容を振ることがあった。


「俺、怪我してんのに?」

「でも怪我したからって大人しく家にいるタイプじゃないでしょ」

「それはそうだけど、前みたいに断崖絶壁に生えてる草とかは採れねぇよ」


 右足首からふくらはぎまでを覆う包帯を示しつつ、青也は言った。

 いくら運動神経がよくても、片足のバランスを失った身体で平常時の能力を発揮するのは不可能だった。


「俺はお前と違って馬鹿じゃないから、そんなことは頼まないよ」

「なんで息するように俺を傷つけるんだよ」

「実は薬草はもうあるんだよ。それを取りに来るように言われててさ」


 一帆は訥々トツトツと説明をする。

 その薬草は、東都の外れの森の中で採取できるもので、しかしそこは代々ある家の所有地となっている。一帆はそこに住んでいる老人に採取を依頼していたが、採取後に老人は腰を痛めてしまい、一帆に薬草を届けることが出来なくなってしまった。


 取りに行かなければならないのだが、一帆も東都での用事が立て込んでおり、すぐには向かえない。誰かに頼もうとした時に、世にも馬鹿らしい理由で怪我をした青也が来たと言うわけだった。


「いやー、飛んで火にいる夏の馬鹿ってやつだね」

「取り行かねぇぞ」

「冗談だよ。ご老人には連絡しておくから、薬草を取りに行ってくれるかい? 交通費は別途請求で」


 青也は少し考える素振りをしながら、診察室の隅に立てかけた自分の刀を見た。鮮やかな青色の刀袋は、白が大部分を占める部屋で存在感を放っていた。

 話を聞く限り必要はないだろうが、万一を考えて持っていたほうが都合が良い。


「構わねぇけど、一応書面作ってくれよ」

「えー。いちいち?」


 不満そうな顔をする一帆に、青也も似たような顔をする。


「俺だってやりたくないけど、バレると面倒なんだもん。いいじゃねぇか、適当に金額入れて、サインするだけなんだから」

「それもそうなんだけどね。まぁお前のところに喧嘩売るほど暇じゃないから書いてあげるよ」


 何かと一言多い一帆に、青也は苦笑いをするだけで特に言葉は発さなかった。一帆の皮肉っぽい性格は今始まったことではなく、幼少期から地道に培われてきたものである。幼少期からの付き合いである青也にとっては、今更目くじらを立てるものでもなかった。


「お前のところに届けて、ついでに待ってても構わない?」

「いいよ。あ、でも今日は叔父さんがいるかも」


 青也がそう言うと、一帆が何度か瞬きをした。


「あぁ……先代?」

「うん」

「生きてるの、あの人」

「残念ながら。まぁいても無視していいからさ」

「俺、あの人苦手だな」


 うんざりしたような一帆の言葉に、青也はやはり無言を返した。叔父が誰にも好かれない事実も、今に始まったことではなかった。

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