紙魚

「……危なかったな」


俺は、目の前の光景を見て声を漏らす。


何かに縛られている音無。ナイフを振りかざしている仮面の女。

あと一秒でも遅ければ……考えたくない。


そしてその仮面の彼女が、俺に明確に殺意を持っているのが分かった。



「……あんた、どうしてここが分かったっすか」


「さっきも言ったろ仮面女、音無の声が聞こえたからだ」


「……っ……ここ一帯、彼女の声は聞こえないどころか、魔法も使えないはずなんすけどね」



俺の言葉に苛ついたらしい仮面の女は、手に持つナイフをこちらに向ける。



「まあ良いっす。あんた、生きて帰れないっすよ?」


「へえ」


コイツの情報は全く無い。

今持っているナイフが武器って事しか分からん。


まあ良い――いつも通りやるしかないだろう。



「『ウィンド・ステップ』」


早い!


彼女が唱えた直後――すぐに俺の目の前に現れた。


対応しようとするものの、その仮面に潜り込まれる。


「――っ」


「遅いっすよ!」


そのまま腹へと襲い掛かるナイフ。


避けきれない――



「『装甲化』!!」




回避は不可能。俺は制服を『あの時』のように硬くする。



「――っ!?何すかこれ!」



ガキン、と鈍い音。

ナイフが俺の服に弾かれる音だった。


正直……これはやりたくなかったんだがな。



「……只者じゃないっすね、あんた」




距離を取り、構え直す彼女。


俺は服を摩る。



「……ごめん、新品なのに穴開けるかもしれねえわ」



フラつく体を支え呟く。

『刃物』は、服には天敵。


ただでさえ今日は体調が悪い上に、イヤホン、地図の力を引き出すのに大量に体力を消耗しているんだ。


このまま攻撃を受けていれば——いつか『剥がれる』。




「……?まあ良いっす。一発で通らないなら百発——兄貴の教え!」



仮面の女は突っ込んで来ない。


『何か』を、しようとしている。



「『紙魔法』――『百切』!」



ナイフを此方に向けたと思えば、それが『分裂』する。


『紙』の様に薄いナイフが――パラパラと数えきれない程舞う。

そしてそれは、俺の方に刃先を向けた。


……これは、洒落になんねえぞ。



「――遅いっす!」


「ぐっ――!」



避けようとするが間に合わない。


『装甲』を抜けるべく紙のナイフが、俺の身体に襲い掛かる。



「はあ、はあ……流石にきついよな。ごめん」




防ぐ事が出来たのは半分程度。


後は全て——俺の服を貫通した。

まるで針が無数に突き刺さっているような痛み。


流れる血が、俺の意識を朦朧とさせた。



「……どうやら、終わりみたいっすね――『我求めるは、千の数。敵を覆い尽くす刃となりて――今ここに裂せよ』!」



冷酷に告げると共に、詠唱を始める仮面。


先程とは比にならない鳥を象ったような刃が創られ、宙に舞う。



「『千刃鶴せんばづる』!!」



それが全て俺に向かった。


まるで紙吹雪。

側から見れば綺麗だが……俺にとっちゃ『死』が見えている。



……悪いが、それを甘んじて受けるつもりなんてねえよ。


「――、音無」


覚悟を決めよう。

恐らくこれが――俺の最後の攻撃だ。

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