音無奏の声②

 ――――――――――



「……何気に初めて来たな、ここ」



 図書室。


 いいや、これはもはや『図書館』と言ってもいい。

 校舎を出て直ぐにあるそれは、大量の本だけでなく設備面も充実している。


 説明していたらキリがないが……今必要なのは、自習机だ。


 生徒が一人で集中して勉強出来るよう、簡単な個室のような場所がある。

 ……俺が考えられる一番静かな場所がここってわけだ。

 ここを知ったのは、昨日の煉の学校案内のおかげである。



「……ふう」



 深呼吸。俺は、イヤホンを装着した。



『…………』


 まだ。


『……△……』



 ノイズ。もっと集中しなければ。



「……◇……□□』



 このままじゃ、やはり訳の分からない音のまま。


 ……仕方ない。


「『音質上昇』」


 耳に手を当てトリガーを引く。


 より明確に音を理解する為、イヤホンの音質を強化した。



「……◇◇◇……△◇◯◯」


 ノイズがマシになるが——足りない。


 こんなもんじゃ、音無の声は聞き取れない。


 もっと、もっとだ——



『あ……く………』


「——っ!」


 声。

 さらに俺は、イヤホンに力を込める。



『――――たす、けて――――』



 ――耳に届く、その音。


 しっかりと聞き取れた。


 助けを求めるその声が――




「……今行く」



 遠くの声に、俺は答える。


 イヤホンを置き――俺は机を立った。



 ―――――――――


「こんなもんか」



『魔法都市観光マップ』


『学生の為の魔法都市・第六区明細地図』


『流行に遅れるな!第六区スイーツマップ』


 俺の手にはいくつかの本が握られている。

 この学園エリア……魔法都市第六区に関する地図だ。


 手当たり次第に取っていったが、これで十分だろう——




「……久しぶりだな、『アレ』をやるのは……」



 机に戻り、さっきの本を広げる。

 俺の現時点の場所のページ……星丘学園で引けば直ぐ出て来たな。流石名門校だ。



「……ふう……よし」


 深呼吸。覚悟を決める。

 これからやるのは、かなりの体力を消耗する。


 何せ――、モノの力を引き出すからな。


 集中。



 地図に手をかざし、イヤホンを着けておく。



「『地理把握』——……っ」


 まずは地図の力を引き出し、地理情報を頭の中へ急速に取り込んでいく。

 様々な情報を頭に取り込み、自分だけの地図を作り出す。



 魔法都市、情報量が多すぎて目眩がするな……



「……はあ、はあ……」


 息が切れる。

 何とか学園区域を頭の中に叩き込んだ。

 今なら――まるでそこを歩いているかの様に、三次元の地図を頭に浮かべられる。


 一つは完了。

 次……イヤホンに手を当てる。



「『音量上昇』」


 イヤホンを通じて、今度は音量を強化する。

 より大きくノイズを拾う必要があったからだ。


「……△△!!◇!」


「っ――十分」


 耳を刺すノイズに顔をしかめながら、苦笑いする。

 少々デカすぎるぐらいが丁度良い。



「よし」



 これで――全ての準備は整った。

 音無を、絶対に見つけ出す。



「……◇……〇〇」


 現れる次のノイズ。


 俺は、能力のトリガーを引いた。




「『『捜索サーチ』』!」




 耳に届いた爆音のノイズを、学園区域の地理に『紐付け』する。

 音の発生源を、俺の頭の中の地図に与えるイメージだ。


 音の行方に向けて——現在地から伸びていく線。

 あらゆる道を通り、時折曲がっていく。



 やがて――ある場所に、その音は到達した。



「……そこか」



 距離にして、ここから二十キロ程離れた場所。

 そこに――確実にいる。


 地図とイヤホンから手を離し、俺は立ち上がった。



「待ってろよ、音無!」

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