不意

 

 いつもの通り一人、帰路に着く。


 碧君が神楽さんに連れられてから、何かがおかしい。


 もやもやとした何かが、頭を遮る。



「……」



 ヘッドホンに手をかける。

 いつもより大きめに曲を流した。


 ……別に、僕は碧君にとって、何でもないんだから。


 友達でも、ないから。




「……っ」



 ボリュームを更に上げる。


 耳が壊れてしまうと思える程まで。

 今はそうしていたかった。


 歩く足を早める。

 人気の無い道の方へ行く。


 今は、一人が良かった。



「————」



 早足で、気付けば誰もいない路地裏に入っていた。


 丁度良い。

 今日は、ここを通って——



「————!————!」



 気付く。


 音魔法――『アラート』。

 自身に危険が迫った時、僕の耳に警告音が鳴る魔法だ。

 寝ている時も、これのおかげで身の危険が迫った時は教えてくれる。


 いつもなら、これが発動する前に気付くけれど――今は、爆音の音楽で気付けなかった。



「よっす」


「『音無、奏』だな」



 現れたのは、僕より一回り程身体が大きい男の人と、女の人の二人。


 前、後ろ。すぐそこに居る。顔は——仮面のようなものを付けていて見えない。


 攻撃――攻撃しないと!



「暴れて——『サウンドノイズ』……っ!?」



 間髪入れず、省略した詠唱付きの『サウンドノイズ』。

 無詠唱のそれは気絶までは行かない音。


 しかし詠唱を入れれば――『不快』どころではなく意識を失わせる音になる。



 ――なのに。


「へえ……これが音魔法か」


「大した事ないっすね」


「お前「がそれを言うな、俺のお陰だろうが」




 二人とも——何事も無かった様に立っていた。




「――『サウンド・ステップ』!」



 それを唱えると、ヘッドホンから音が僕に流れる。

 この魔法は、音の力を利用して自身の移動速度を上げるものだ。


 テンポの速い音楽が流れ、僕の足を操っていく。



『逃げる』、それだけを考えないと——




「逃がさないっすよ~!」


「——っ!?」



 スピードに乗った僕を、反対方向に居たはずの二人組の内一人が抑える。


 どうして。


 僕の魔法が、全く通用しない。



「まあ、そう暴れんな。俺達も女の子に――」


 もう一人が、拳を振り上げる。


「暴力は、振るいたくないんでね」



 拳が、僕の眼前に迫って静止。


 がくがくと足が震える。息が止まる。

『恐怖』。僕はそれに支配された。


 

「……うん、良い子だ。おい『紙魚シミ』、連れて来い」


「その名前で呼ばないで下さいよ!」



 手慣れた手つきで、僕の腕が何かに拘束される。


 目も見えなくなり、足も動かない。

 まるで何かにがっしりと掴まれた様な感覚。



『逃げられない』。



 ヘッドホンが、耳から落ちた。

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