音無奏編③

「……」



授業に付いていくべく、頑張っている碧君。


僕はそれを、気付かれない様に盗み見ていた。

授業の方は——僕の魔法で好きなだけ家で再生出来る。


何でこんな事をしているのかは分からない。

ただ——碧君を見ていると、胸の辺りが温かくなる。

心地良い、そして飽きない感覚。



「……?」



たまにこちらを見る碧君。

勿論その時は全く知らない顔をして、前を向く。


そしてその時は、より温かくなって。


「……気のせいか」


彼は再び授業に取り組む。

邪魔はしちゃいけない……そう分かっているけれど、やめられなかった。


僕は一体、どうしてしまったんだろう。



――――――――――――


昼休み。


軽いご飯を素早く食べて、音楽の世界に浸る。

……今まではそうだった。



『俺と、友達になってくれないか?』


『俺と、友達になってくれないか?』


『俺と、友達になってくれないか?』



碧君の声を聞く。


授業中では使えない分、昼休みは思う存分再生出来る。


……でもこれは、やましい目的でやっているんじゃない。

もし……次碧君が話しかけてきた時の、練習としてやっているだけだ。



「……」



僕と同じ様に、イヤホンを着けて眠る碧君。

大丈夫……バレてない。


バレるわけも無いんだけど……やっぱり少しは不安になる。


でも、その感覚がまた——いいや、何もない。



『全くの他人だ。隣の席ってだけのな』


『全くの他人だ。隣の席ってだけのな』


『全くの他人だ。隣の席ってだけのな』



また、僕はリピートする。


この『声』は……正直、まだ聞いていて胸が締め付けられる。

でもその真意は知っている。言葉とそれに込められたモノが、全く逆だったそれ。


一応練習なんだ、こういう感じの声にも慣れておかなきゃ。


「……!?」


リピート中、隣の碧君が突然飛び起きた。


再生を切る。一応、一応だけど……びっくりした。

別に、悪い事ではないはずだけど。


まさか、バレてるなんて事はないよね。


―――――――――


―――――――



『キーンコーン……』



この日最後の授業のチャイムが鳴る。


しばらくして——部活や放課後の話で教室が賑わう、そんな時間。


が、来なかった。




「……え、『炎剣』だ」


「どうしてこんな教室に——」



学年十位、神楽煉。別名『炎剣』。


彼女が——クラスのドアを開けたのだ。

当然ざわつくクラスメイト達。



「見せもんじゃねえぞオラァ!!」



思わず耳を押さえる。

彼女のその声と共に、ざわめきは静寂となった。


まるでクラスメイト全員が、蛇に睨まれた蛙の様に。

——いや。一人、全く臆していない。




「……入っていきなりうっせーな、何だよ煉」


「いや……お前、『こんなん』だから学校の事知らなそうだと思って、『学校案内でもって——」


「お、本当か?頼むよ」


「……あ、ああ」



静寂の教室の中、繰り広げられる二人の会話。

クラスメイト全員が、有り得ないモノを見る様な目をしている。



「「れ、煉さん!俺達も——」」


「テメエらは着いてくんな!!」


「「え、ええ」」



彼女によく着いて行っていたクラスの二人に怒鳴った後、碧君と神楽さんは教室を後にする。

嵐の様な出来事。やっぱりああいうタイプの声は僕は苦手だ。


……でも。


碧君に対する彼女の声は、全く『悪い音』じゃなかった。

善意から、『学校案内』をしようとしていた。


「怖かったあ……」


「『炎剣』……本当女と思えねえ迫力だわ」


「転校生も中々度胸あるよな、あれ一応昨日闘った相手だぞ……」




クラスメイト達は緊張の糸が切れた様に、また話を始める。


僕は一人。


胸の中にもやもやとした何かが出来ていた。

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