音無奏編①

今日は、朝から教室がざわついていた。


話す友達も居ない僕は一人、教室の隅。

寂しくは無い。このヘッドホンと音楽があるから──でも。



ヘッドホンをしていても、その場所の音は嫌でも聞こえてくるのだ。

うるさい。もっと遅くこれば良かった……



……体育祭とか文化祭とか、そんな感じにクラスがざわつく時は分かる。


これも、僕の魔法の恩恵なのだろう。


……でも、今日はそんなポジティブなものじゃない。


どちらかといえば……それは、テスト前日のような、厳しい科目の先生が来る前のような。



そんな、悪い音だ。





「えーっと、こちらが優生君になりますでーす!」




少し、耳を傾ける。


転校生。

この学園には極めて珍しいその存在。


本来はクラスが沸くそれに、悪い音がしたのは……転校生が既に嫌われているから。


『魔法が使えない』『親が校長と繋がりがある』『実績はゼロ』


そんな者がーーこの星丘魔法学園にやってきたのだ。

誇りある生徒達の反感を買うのは当たり前の事。


でも……正直どうでも良い。


僕に関わらないでくれたら、別に裏口入学であろうとどうでも──



「よろしく」


ぼーっとしていると、不意に声を掛ける転校生。


心臓が、止まるかと思った。


え、嘘……僕の隣なの!?

嫌だ。こんな問題を一杯抱えてそうな人が隣なんて。

きっと『煩く』なってしまう。


ずっと先生には、僕だけ隣の席に誰も居ないようにしてって言ったのにーー



「それじゃ、朝のホームルームを始めますね!」



ヘッドホンを抑える。

僕はーー大丈夫なんだろうか。




――――――――――――



幸い、転校生の授業態度は真面目だった。


別にいわゆる『問題児』、みたいな感じには見えない。

碧優生……黒板に書かれていたその名前。


確か、親が凄い魔法使いの人なんだって。

少しだけ――『自分』と被る。



「よお、転校生?」


不意にーー耳障りな音。

敵意を丸出しにしたその声。


転校生に絡んでくる生徒だ。


ヘッドホン越しでも聞こえてしまう。

僕の大嫌いな音──


「てめえ、何ニヤついてやがんだ!」


うるさい。


「『裏口入学』の、『コネ野郎』が──!」


耳障りだ。

うるさいうるさい。

お願いだから、静かにして──



『キーンコーンカーン……』


「はあ、はあ……」


限界が来て、僕は魔法を発動した。

偽のチャイム音を作って、教室中に流す。



僕の一族に伝わる──『音魔法』だ。


「チッ……また後で、覚えてろよ」



うるさいのが消えていく。

本当に、最悪だ。


これからしばらく、『こんなの』なんて──




「ありがとな」


「っ!」


ヘッドホン越し、ほんの小さな転校生の声。

……今、僕に言ったの?


また、心臓が止まりそうになった。

分からない。鼓動が早くなっていく。


「……」


こっそり隣を見る。

僕の方を見ている訳じゃ無い。でも……


……


ヘッドホンに手を掛ける。


『「ありがとな」』……『「ありがとな」』



音魔法ーー『リピート』。


僕が聞いた言葉を、もう1度再生する事ができる魔法だ。



「……う」


何度か再生して、それを止めた。


僕は人の声が怖い。でも。

今の優生君の声は、違うものだ。


分からない。

ほんの少しお礼が聞こえたぐらいで……どうしてこんな。

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