決闘③

「それでは――両者始め!」


『立会人』がその声を上げる。


同時に――



「「火よ、彼の者に炎を――」」「「水よ、敵に水針を――」」「「風よ、前へ――」」



覚悟が出来ていなかった者も居たが、周りの詠唱に感化され――そして『煉』を除く全員が、詠唱を開始した。


総勢三十名、有象無象の大詠唱。


勿論、その全ては――『碧優生』に向けてのモノ。




「……」




彼は動じない。


まるでその詠唱に聞き入っているかのように、立ち尽くしたまま。



やがて――



「「「ファイアーボール!」」」


「「「アイスアロー!」」」


「「「ウィンドブラスト!」」」




火の玉、氷の矢、風の塊――多種多様な魔法。


だが――標的はたった『一人』。


この決闘では死ぬことはない。が、術者は魔法の発動後――確かに彼の『死』が見えた。



「――――『装甲化』」



幾多の魔法で彼の姿が見えなくなるほどになった頃、小さく彼の声が聞こえる。


魔法の使えない彼は、その詠唱など行う事は無い。



これは、単なる彼のイメージのだ。


そして、それは――



彼の『能力』の、『引き金』でもあった。





―――――――――――――――


―――――――――


――――――





「……ゆ、優生君?」



最初に声を発したのは、立会人の彼女だった。

ざわつく決闘場。


確かに――彼の姿が隠れる程の魔法の数の、その全てが標的に命中したように見える。



『星丘』の優秀な生徒達だ――術者の攻撃は全員、見事に碧優生を捉えたと確信していた。



しかし。


……『決闘の終了』。


それは『片方の意識が無くなった時』、『降参を表した時』、そして、『死の状態になるほどのダメージを受けた時』。

その三つ。



その終了を知らせるブザーが、鳴らなかったのだ。



「な、なあ、不味いんじゃないか?」


「まさか、この決闘場で事故なんて――」



舞う塵がその姿を隠す。

それが一層、彼らの不安を煽った。


『やりすぎた』――そんな考えが過り始めた生徒達。


前代未聞の一対三十一。

そして魔法の一斉発動。


『何か』が起こってもおかしくないかもしれない。


しかし――その不安は、一斉に払われる事になる。




「……ん?」



煙の中、何事も無かったかのように――碧優生は姿を現す。


『無傷』の、彼が。




「はは……おいおい、あんだけの魔法ブッパしといて――『心配』でもしてんのかよ?」




彼らはその姿に絶句して、声を出す事が出来ない。


先程まで心配していた……そう思った男が無傷で現れたのだから。



「さて、と……今から、お前ら一人ずつ――気絶するまで殴っていくぞ」




彼の宣言。



握り締めた彼の拳は、『本気』のモノだった。



「ふ、ふざけんな!」


「な、殴るってお前――」



対する声。


その声を聴いて、彼はため息をつく。





「しょうがねえだろ?お前らの知ってる通り――使



嘆くようにそう言って、彼らの内の一人へと歩き出す優生。


「ち、近付くな――っ!ひ、火よ、彼の者に炎の矢を――」


怯えながらも詠唱を始める彼に、一切の戸惑いも無く近付いていく。



「……無駄だっての」


「ファイアーアロー!!」



至近距離――生まれ飛んでいく一つの炎の矢。


先程の無数の魔法と違ってその瞬間は良く見える。


パリン、と――そんな音と共に彼の『服』に触れた瞬間……消えたのだ。



「は……?」


「言っただろ、『無駄』だってな」



彼は歩く。


もう――距離は、拳が届く距離だった。



「ひっ――!」


「歯、食いしばれよ――」



振り上げられた拳。


そんな彼にまた、魔法が飛んでいく。



「ファイアーボール!」


「ウォーターアロー!」


「アースボール!」



彼はそれを見もしない。


パリン、パリンと消えていく魔法。



――



容赦なく振るわれる拳。


場内に、鈍い殴打の音が木霊する。



「ぐっ――がああ!い、痛い、痛い!!」


「……当たり前だろ、殴ってんだから」



彼の目には、まだ怒りが満ちている。


まだまだ――『足りない』と言うように。



「安心しろ、『次』でお前の意識は飛ぶはずだ……それで終わりなんだろ?お前との決闘は」


「……ひっ――わ、悪かった!こ、降参、降参だ!!」



悲鳴に近い声で、地べたに転がった彼は言った。


そのまま決闘場から走って、出口に逃げる。



「……はあ、根性ねえ奴だな……さて、次は――」


ため息。


直後――優生が残りの三十名を睨む。



「わ、私も降参で!!」


「お……俺も!」


「こんなのやってられっか――!俺もだ!」




続々と現れる降参者。


彼はそれを追おうともしない。


ただ待つ――これで全員逃げてくれれば、それで終わりだからだ。



「へ、え?み、皆待ってよおー!!」



急な事態にハッとする立会人。


勝敗を決定する立場の彼女が呼び止めても、無駄だった。


総勢三十一名居た空間から、ドタドタと人が消えていく。



「へえ、お前だけは残るんだな」



しかし――


それは、『全員』ではなかった。

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