転入試験③

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松上先生に連れられ、着いたのは外のグラウンドのような場所だった。


学校も休みなのか、誰もいないそこはやけに広く見える。


……いや、見えるんじゃなく実際に広いんだろう。前の学校の3倍ぐらいあるなこれ。



「……君は、魔法が使えないんだってな」



不意に、松上先生は俺に言う。


さっきよりも、低い声だった。



「そうですが」


「っ……正直、私は君の入学には反対だ」


「……」



そう言われると、俺はどうしようもないんだけど。


でも気持ちは分からなくもない。


この人、真面目そうだしな……



「校長がああ言うのだ、恐らく君は特別なんだろう」


「……そうですかね」


俺は言葉を濁す。


実際特別ではある――本来こんな学園に俺が入る事なんてありえない事なんだから。


でもそれは俺自身ではなく、俺の周り……この場合では母さんがそうだろう。



「でも、私は容赦しない。この学園に相応しくないと思えば――すぐに出ていってもらうぞ」


「……そうですか」


凄まじい剣幕だ。


ってか俺、さっきから『そうですか』とかしか言えてない気がする。


……はあ、面倒だなこの人……



「――それでは、実技試験の説明をする。あの的が見えるか」


「はい」



俺達の25m程先。


そこには、ダーツの的のようなものがあった。


的は5m程の棒の上に存在している。



「アレを――どんな魔法を使ってもいい、破壊しろ」


「……魔法じゃなくてもいいんですか?」


一応、聞いておく。


まあでもあれは――棒のせいで登って素手で破壊、とかは無理だろうな。


その辺の石ころでも投げてと思ったんだが、石なんて一つも無い。

整備されすぎだろ……流石星丘魔法学園。



「出来るなら、な……言っておくがあれはかなりの耐性を持っている。下手をするのは止めておけ。お前が怪我をするぞ」


「……分かりました」


頷く。少しだけイラッとした。

一応、手はある。多分行けるってのが二つ。


……うーん。決めた。



「ねえ先生、さっき煙草か何か吸いました?」


「っ、君には関係ないだろうが」


少し動揺したのか、顔に焦りが見える。

服に微かに残る煙の香りは嘘じゃないはず。


……別に俺は禁煙を勧めようってわけじゃない。


俺はただ――さっき使ったであろう道具が欲しいだけだ。



「あの、ライター貸してくれませんか?」


「は……?」



唖然とする先生。

別に俺は大真面目なんだが……


「はは、俺も吸いたいってわけじゃありませんよ。今、この試験で使わせて欲しいんです」


「……私が吸っていると断定するな。それに試験でこんなモノを貸すなんて――」


「別に試験の禁止行為に道具を借りるな、なんてルールは無かったはずですよ」


「っ、それはまた別の話だ」


中々折れないな、めんどくせえ……


ああ。もういいや。



「じゃあ、こうしましょう。もしこれで先生が満足する結果じゃ無ければ――俺の入学、取り消して良いですよ」


俺は、先生にそう告げる。


元々の試験は、入学の合否を決める為のもの。

初めから合格が決まってるなんて甘い。それなら俺から受けてやろうじゃないか。


「……本気で言っているのか?」


「そうですけど」


信じられない、そんな表情の先生。

別に俺は、受験生として当たり前の事を言っているだけだ。


「くっ……分かった、一度だけ貸してやる。それで終わりだ、いいな」


「どうも。んじゃ早速いいですか」


俺は手を差し出す。


先生は懐からライターを取り出して、俺の手に載せた。

銀色に鈍く光るそれは本格的なモノで、使い込まれているのがよく分かる。



「いいライターですね」


「……さっさと始めろ」


まったく、そこまで急かさなくてもいいってのに。


「ふー」


ライターを握り、深呼吸。

使い方は……確か前、ドラマで見たな。フタを開けて、歯車を回せば良いだけだ。



イメージする。


コイツは、あらゆる物体に火を宿すモノ。

俺はそれを引き出してやれば良い。


時間はあるんだ。


ゆっくりと。

イメージを膨らませて行く。


『火』を――あの的に。的を壊すまで、決して消えない火を。



「『着火』」


それを口にすると同時に、俺は指で思いっ切り歯車を弾く。


火は出ない。代わりに――



「っ――な、何だと!?」


声を上げる先生の視線の先。


そこには轟々と燃える、炎に包まれた的があった。

あの勢いなら――全て消炭になるのも時間の問題だろう。


「……」


「……燃えましたね」


先生と燃えていく的を眺めていると、やがて全て燃え切ってしまった。


俺のイメージは的だけだったから、支えていた棒は燃えていない。

我ながら上手くいったもんだ。



「……碧優生、だったな」


「?そうですが」


「……『試験』は合格だ。今日はもう帰って良い」


なぜか分からないが……酷く疲れた表情で先生は俺に言う。


元々入学が決まっていたとはいえ、合格と言われると嬉しいもんだ。


「後日また連絡する――碧優理!そこにいるんだろう?」


急に叫ぶ先生。

その声の先にはーー草むらに隠れられていない優理が居た。

……うん、バレバレだわ。


「えへへ、すいません」


「……本来は試験を覗く等許せんが、今回は見逃す。優生の帰りの案内を頼んだぞ」


「はい、任せてください!」


元気にそう返事する優理。


全くコイツは……


「……また後日、君には連絡する。それでは」



疲れた様子で去っていく先生。


……俺も結構疲れた。

学科試験、実技試験共に結構体力を使ったからな。



「帰るか、覗き魔さんよ」


「そんな呼び方しないでよ~!」



優理と共に学園から出る。

長かった?入学前試験。


見上げた空はもう、夕に染まっていた。

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