魔法の世界へ

前には優理。


俺は深呼吸をする。


「すー、はー。すーはー……」


「お兄ちゃんそこまで身構えなくても……」


そんなことは無い。




「単刀直入に言うね」



静かにそう切り出す優理。



「……」



俺は、唾を飲み込む。


そして――優理が口を開く。




「お兄ちゃんには――私と同じ魔法学園……『星丘魔法学園』に入学してもらうって」



「…………は?」



口を開くまで十秒程かかった。



思考が追い付かない。

ただでさえ……魔法系列の高校に入らされるなんて思っていなかった。魔法都市でも、一応魔法を扱わない所もあると思っていたし。


しかもその高校が――優理と同じ、『星丘魔法学園』だと?





「『魔法』が使えない俺が、なんでそんな場所に行かなきゃならないんだ?」



『星丘魔法学園』、それは魔法の道を進む者にとっては憧れの学び舎だ。


小学校から大学、その先まで『星丘』の名は存在し、またその学歴は、人生において輝かしい進路を与える。


妹は魔法の才能が認められ……見事に星丘魔法学園へ入学を果たした。



そう――『魔法の才能』が無ければ、その門に入る事さえ許されない。


俺には、その才能が全く、欠片も無いのだ。



「それは……理由として、二つ」


優理は、苛立つ俺に冷静に続ける。


「お兄ちゃんを、お母さんの手の届く所に置いておきたいから。星丘はセキュリティも凄いし、危険な目には少なくとも学校では会わないと思う」


お母さんも心配なんだよ、と笑って言う優理。


そこまで心配しなくていいんだけどな……


「それなら、ここに住むだけってだけでいい気がするが、二つ目は?」


「……」


俺がそう問うと、優理は黙り込む。そして顔が紅い。



「……え、何?」



「その、私を……守ってあげて、って。……い、いや!違うんだよ?お母さんがそう言ってたんだから、私は大丈夫だって言ったんだけど」




優理はそう、慌ただしく俺に話す。分かりやすいな。


確かに……母さんも父さんもかなり忙しい生活を送ってるからな、ほとんど構ってやれてないんだ。


優理の精神的にもかなり負担が大きいだろうし、学校での様子も心配なんだろう。……確か、星丘魔法学園は中高同じ場所にあるからな。


俺が入学すれば安心って訳だ。



「そういう事ならしょうがない。可愛い妹の為だ。まあどうなるか知ったこったねえけど」


恐らく母さんの力なら俺を一つの学校に捻じ込む事は……可能だろう。というか息子だし余裕だろうな。


ただ入ってからが問題だ。俺は魔法が使えない。そこを母さんは、どう考えているんだろうか。……全くわからん。


最悪……入って即退学もありえるぞ?


「へへ……そう?そっかー、んじゃお兄ちゃんは星丘魔法学園高校に入るって事で良いんだね?」


やけに嬉しそうに、優理はそう言う。本当に分かりやすい。


「はは、母さんの思惑は知らないけど、まあ取り合えず入ってみるわ」



というか、俺がもし断ってたらどうなってたんだよこれ。



「……実は、もう一つ理由があるんだ」


話も終わったと思い、俺が席を立つと優理はそう口を開く。



「ん?もう一つ?」



三つ目の理由……分からず俺は、そう返す。


「……うん、お母さんは――この機会に、『もう一度だけ』、お兄ちゃんが魔法の世界へ踏み出してほしい、って」


そんな感じ、と優理は笑ってそう言い終わる。


もう一度……か。



「そっか」


「う……秘密だよ?」


「ありがとな、優理。ほんの少し気合が入ったよ」


優理の頭をぽんぽんと叩く。


「えーっ、ほんの少し?」


「はは、ああ」



魔法の世界。

魔法が使えない俺が――どこまでもがけるか。


先行きは全く見えないが……頑張ってはみるよ、母さん。

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