主人公は、えっ? 詩人!?
一筋縄ではいかない相手との交渉でも本領を発揮しますが、いざとなれば剣も使う。文武両道に秀でてるなんて、もう最強でしょう!
知識で戦う吟遊詩人に、こんなカッコ良さがあったのか!
ここに至るまでには、詩人ウィルに、いったいどんな過去があったのか興味津々です。
女城主コーデリア様は可愛く、滑稽なほどの老婆心を見せる老臣アレイド、話の分かる自由騎士団長カイルなど、序盤から魅力的なキャラクターたちが登場します。
エルフやドワーフ等、ファンタジーではおなじみの種族と、目次に並ぶ魅力的なタイトルだけでもワクワクします。
品のある文体で描かれる美しい情景、独特の術の描写や迫力ある戦い、作者様こそ、この旅に同行し、サーガを作り上げた吟遊詩人なのではないかと思えてくるほどの臨場感です。
ファンタジー好きな方にも、それほどでもない方にも是非読んでいただきたい。
本格的ハイファンタジーが楽しめます!
伝説の刺客にして稀代の詩人・荊軻の生き様を壮絶に描き上げた左安倍虎先生がまたもやってくださいました。
精緻に描かれた剣と魔法の世界の中で、一人の詩人が大国を相手に渡り合い、その侵略の魔手を払い除け、己の因縁に一つの決着をつける大人の為の物語です。
氏の傑作である易水悲歌において、主人公である荊軻は死して多くの者の胸に生きた証を遺します。
ですが、今回の物語において主人公のウィルは生きて戦い続けることによって多くの者を救います。
この変化に、氏の作品を追っていた私は注目しました。
易水悲歌は誇りを描き、死と悲しみに彩られた美しい物語でしたが、阿呆鳥は生きてどこまでも飛び続け、数多の人に夢と希望と詩の羽根を振りまきます。
この作品は生命賛歌なのです。
美しさはいずれの作品も同じなのですが、この作品の中には氏の作品に有る命への讃歌が強く織り込まれていて、その分私には好ましいものだと感じられました。
作中、ウィルは己を阿呆鳥だと言っています。ですが彼のような智者に阿呆だなどととても呼びません。故に私は彼を天を信じ、人事を尽くした智者として、信天翁と呼びたいと思います。
どうでしょうか皆さん。阿呆鳥の英雄譚にしばし耳を傾けてみてくれませんか?