篭め 篭め 下章 其ノ七
暗くどこまでも広がる空間を、あさぎは迷いもせずに歩いていく。
「……葦鹿までは送れないわ。もし私が葦鹿で術を使えば即座に『黒い鏡』に気づかれてしまう。そうなったらまずいことになるわ」
「どういうこと? …まさか!」
「ついこの間、黒い鏡が葦鹿にいることがわかったの」
「何ですって!?」
立ち止まり、志乃を正面から見据えた。
「いい? もし私に協力して黒い鏡を割るのなら、一切の私情は捨てなさい。それが出来ないなら貴女は戦うべきではないわ」
勝手なことを! さくらの仇などと言っておきながら!
「佐夜を見捨てろというの!?」
「志乃、私の言う事をよく聞いて。これから貴女は太古の神ですら倒せなかった相手と戦うの。僅かな油断や隙があれば必ず喰われる。そうなれば何もかも全てを失ってしまうわ……貴女も、私もね」
あさぎは懐から通行手形を取り出した。
暗い闇の先に小さな光が見え始め、次第に大きくなる。
「もし一切の迷いを捨て、黒い鏡を割ることに協力してくれるならこの手形を取って
「さっきから随分勝手な物言いだな!」
あさぎの一方的な話に我慢できず、トラが
「貴様と志乃がどういう取り決めをしたかは知らん! そんなに黒い鏡とやらを割りたければ勝手に割ればいい! 志乃に何の関係がある!? 何故巻き込む!?」
「この子が黒い鏡を割れる『希望』だからよ。……そうね、私は都合よく志乃を利用しようとしたのかもしれない。だからこの場で選ばせることにするの」
「ふざけるなっ! 今更八潮に戻ったところで志乃に居場所など無いわ! ……志乃、騙されるな! こいつは何か
「…待って、トラ」
あさぎを威嚇し、今にも飛び掛らんばかりのトラを
「離せ志乃! こやつが黒い鏡とやらとつるんでいるのかも知れんぞ! この国を乗っ取る為にな!!」
「志乃、どうしても嫌なら強要はしない。貴女を失っても今ならまだ他の手が無い訳じゃない。黒い鏡を再び異界へ逃がし、僅かな期間で他の『希望』を探すわ。 …それに
「…それ、現実的なの?」
「ご想像にお任せするわ」
一思案して、志乃は手形に手を伸ばす。
「よせっ! 冷静に考えろ志乃! そ、そうだ、
志乃はあさぎから手形を受け取る。手形に聞いたことの無い寺社の名前、用向きは「東照宮参拝」とある。
持ち主名は「ちゆり」になっていた。
「…前にどんなことでも協力すると言ったわね? 黒い鏡を割ったらかあさんを探すのに全力を注ぐと誓える?」
「…誓うわ。八百万の神の力を頼ってでもね」
志乃は手形を収めると代わりに被っていた笠を差し出す。
笠の下から現れたのは昨日までの志乃ではない。
短い黒髪の娘の姿であった。
「本当に感謝するわ。安曇に着いたら私から報告があるまで葦鹿に近づかないようにしていてね」
「安曇から出ても?」
「ケノ国の北部へ向かわないのなら構わない。貴女の居場所はわかるから」
志乃は黙って歩き始めた。残されたトラはあさぎを振り返り睨みつける。
鬼の形相のトラに対し、あさぎは笑みを浮かべ愛想で応えた。
「ありがとう、貴方のおかげね」
「貴様……事が済んだら必ず地獄に送ってやる…! たとえ火車となりこの身が朽ちても、必ずだ!!!」
口惜しそうに走っていくトラの姿を見送ると、あさぎは来た道を戻り始めた。
(……ようやく場が
星ノ巫女 ~篭め 篭め 下章~ 完
化ノ国物語 ─かごめ かごめ─ より
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