白昼蝶夢の章 其ノ四「竈食」


 次の日、典甚は星ノ宮神社まで来ると只ならぬ雰囲気を感じ取る。本殿にはイロハも来ていたが明らかに様子がおかしかった。

(志乃の奴また何か隠してやがるな。しかし妙だな、妖怪が襲ってきたにしては散らかってねぇし……)

 シラを切る志乃たちを不審には思ったが確証も持てない。仕方なくこの場は志乃に余り神社を空けないよう釘をさす。勝手に問題を起こされては適わないというのもあったが地擦り組の事もある。警戒させておくに越したことはないだろう。護衛を付けさせようかとも考えたがまだその時でもないだろうと思い、その場を後にしたのだった。


(志乃の強さは奴らも十分知っているからな。そうそう奇襲なんぞかけてこねぇとは思うが……それにしても、やっぱし気になんな)


 石段を降り、上から見えない位置まで来ると隠れて様子を見張ることにした。

 暫く待つとイロハが降りてきた。


「イロハ!」

「典爺?! う、うわわ!!」

「おっとっと」


 急に呼ばれて驚き、蹴躓いて転びそうになった。


「 典爺、帰ったんじゃなかったんけ?」

「ちょいとおめぇに聞きてぇことがあってな」

「よ、妖怪なら居ねぇぞ! もう追っ払った!」

「どんな奴だ?」

「え? あ、えと……とにかくでかくて……すばしっこくて何とかって奴だ、志乃から聞いてくろ! オラわがんね!」

「……」


 余程知られたくないことがあったのだろう。嘘をついて隠しているのがまるわかりだったが他に聞きたいこともある。この場はえて聞かぬことにした。


「ところでよ、志乃はおめぇに何か言ってなかったか? そのよ……暫く神社に来るなとか……」

「え? そんなの聞いてねぇぞ?」

(おいおい……)


 結局志乃はイロハに何も言えなかったようだ。呆れる典甚だったが、仕方なしと思う。まぁ想像は付いていたことだ。


(いや、こいつは待てよ?)


 ここで典甚は考え直す。このままイロハが神社に来てくれていればそれは志乃の護衛にも繋がるのではないか、と。

「いや、それなら構わねぇんだ。何時でもここさ来て貰っていいぞ」

「うん。でも……」

「どした?」


 急にイロハの顔が曇る。


「オラ、色々やらなきゃいけねぇことがあるし、おとうも病気だから、余り来れねぐなっかもしんねぇんだ」

「おぉ……そうか」

「ほんでもたまになら来れると思う。忙しくてもたまーになら、いかんべ?」


 真剣なイロハの表情に、典甚は揺さぶられる思いがした。


「……ほだな。たまーにならいいんじゃねぇか?」


 そう答えてやるとイロハの表情に笑顔が戻る。

「ほだんべ!? あぁ、えがった! じゃあ典爺、またな!」


 元気に駆け出すと弁天入りの林へと消えていった。

 典甚は改めて自分のしていることへ罪悪を感じる。


(あいつらはダチ同士で付き合ってるっていうのによ、俺はそれを損得で見なきゃいけねぇとはつくづく嫌になっちまぁなぁ……おとうが病気、か。そういやあいつの親は……まさかな)


 さて、イロハは帰ったが再び志乃を問い詰めようか。

 そう考えていた時神社から降りてくる気配!


 慌てて茂みに隠れた。


(志乃か……違う! 誰だありゃ!?)


 石段から降りて来たのは見た事の無い旅姿の女であった。しかもかなりの美人であり、もし神社にいたなら気が付かない筈は無かっただろう。


(姿が透けてやがる……! そうか、妙な気配はあいつか!)


 女は暫く周りを警戒している様子だったが、誰もいないと悟ると笛を吹き出す。音は聞こえなかったが暫くすると一匹の蝙蝠こうもりが飛んできた。


 次の瞬間、典甚は思わず目を見張った!

 女は懐から結んだ紙を蝙蝠に持たせたではないか!


 蝙蝠が飛び去ったのを確認すると、女は道を歩いていき、姿を消した。


(なんちゅうこった!!)



星ノ巫女 白昼蝶夢の章「竈食へぐい」 完

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