白面九尾の復活 中章 其ノ五
ガサッ! ザッ! タッタッタッ……!
道無き剣岳の山林の中を、月光は逃れるように走っていた。
(大分遅れてしまった。もうイロハは山頂にいるだろうか)
月光がここに居る理由、それは蒼牙とイロハが戦うのを阻止する為であった。
昨晩のこと、蒼牙に呼び出された月光は驚くべき話を聞かされる。それは今回の継承の儀において、今まで封印されていた先代と次代の決闘の復活……つまり、蒼牙はイロハと死合いを行うというものだ。理由は蒼牙が老い先短いこと、イロハがどれだけの力を持っているか試したいということ。そして何より父を斬れる決断力が無ければ当主は務まらぬということだった。
月光は反対したが、結局話はつかず今に至る。
(……何故そこまでする必要がある! 当主を譲った後も、イロハの側に居てやれば良いではないか!)
月光は常々、蒼牙が妙なところで
だがそれも今は難しくなっている。こっそり屋敷の裏口から出て、イロハとは別の方向から剣岳を目指したものの、邪頭衆に出くわし戦いを余儀なくされている。やっとの思いで剣岳に着くも体は傷だらけであった。
(しつこい連中だ! 何故今日に限ってこの場所に邪頭衆が集まっている?!)
水倉の山狗の中でも随一力の強い月光、だが多勢に無勢。邪頭衆は山を二つ越えてもまだ追いかけてくる。更にこの山に入ったところで数が増したように思えた。
『いたぞ! 囲めー!』
(ちっ!)
獣道に出くわしたところで別の野狗が! あっという間に後ろから来た野狗たちにも追いつかれ、囲まれる形となってしまった!
「ぐはははは! 俺たちだけ除け者かと思っていたが思わぬ手柄首だ!」
ひと回り大きく、毛並みの悪い野狗が笑う。
邪頭衆幹部の一匹、尾無しの「
「下らぬ、俺がお前ら如きに負けると思うか?!」
「この数を前によくほざいたわ! あの世へ行っても憶えておけ! 俺の名は……」
『どけぇ──!!!』
ザァァァァァ────!!!
「うお?!」
「うわぁぁぁ?!」
子供の声と共に、麓からの突風が吹きぬける。
辺りの木々が
「ぐっ!何だ今の風は!? …まぁいい、俺の名は」
ドッドッドッドッ!!
ドカッ!!
「キャイーン!」
今度は下から獣道を走ってきた何かに跳ね飛ばされた!
(な、何者だ!?)
「っつつ……やいてめえ! 待ちやがれ!!」
すると先程の何かが戻ってくる。
それは春華を追ってイロハの元へと向かうトラと志乃だった。
「な、なんだこいつ…熊か?!」
「人間を乗せてるぞ?!」
「で、でけぇ!」
「ちょっとトラ、春華見失っちゃうでしょ? 一体どうしたの?」
「気のせいか知り合いが見えた気がしてな」
ぐるりと辺りにいる野狗を見渡す。
「ひぃぃ」
それだけで野狗たちは逃げ腰になった。
トラは白い毛並みの野狗を見つける。
「ぬ! 何じゃ、蒼牙かと思ったら違ったか」
「知り合いじゃないの? 随分傷だらけね」
「!? 叔父御の見知りか?!」
「蒼牙の甥か! 道理で似とる訳だ!」
先程から無視されていた黄土の怒りが爆発する。
「何だてめぇら! いいとこで邪魔しやがって!! いいか! 俺は!!」
「やかましいっ!!」
べチッ!!
ドカッ!
「ギャン!」
黄土はトラに前足で跳ね飛ばされ、近くの木に激突すると動かなくなった。
「「他に歯向かう者がいれば容赦はせんぞ!」
睨みを利かせウゥーっと低く
入れ替わって春華が戻ってくる。
「何ぐずぐずしてんだよ! 早く行かないとイロハ死んじゃう!!」
「イロハが?! 何が起こっている?!」
「九尾の狐が復活したのよ! あんたもイロハを助けに来たんじゃないの?」
「九尾の狐だと…!」
一度に色々な事を聞かされ混乱する月光。
イロハが九尾の狐に?!
ならば蒼牙は?!
「その傷ではまともに戦えまい、お主はここで休んでおれ。……時間をとらせたな、急ぐぞ」
先を急ごうと、春華とトラが山頂へ向かう。
少し月光は考えたが、すぐトラに追いつきこう言った。
「俺も行く! あの化け物を封じる手が閉ざされて無ければよいが!」
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