妖鬼討伐演舞祭の章 其ノニ
頭の笠をとり、社の中をじっと見る僧侶。
この僧侶の名は「
今まで志乃は、神社にイロハやトラがいることを誰にも言わなかった。神聖な社に妖怪を住ませている、などとと知られたら小幡神社はもとより、
しかしたった今、社の中で仲良くお茶を飲んでいるところまでばっちり見られた。流石にいくら話の分かる典甚でも見逃してはくれないだろう。
「あー……
「んー?……ふむぅ……まぁ上がらせてもらおう」
そう言って本殿に上がり、典甚はイロハとトラを見つけると目を細めた。
「そこの
「……ほんとけ?」
「ほんだほんだ。……ありゃ、猫の方はどっか行っちまったげ」
トラは天井裏に隠れて出てこない。典甚はどかりと
「飲みたきゃ器もってこ。いい酒が蔵で入ってよ、時期そこらに出回るだろ。それと漬物はねぇけ、こっちのおめえも飲むか? ん?」
「あ…う…」
「……」
イロハたちのことなど気にも留めない素振りだ。意図はわからないが、ここは成り行きに任せるしかないだろう。
仕方なく離れから貰い物の浅漬けと杯を持ってくる志乃。
場合によってはイロハは捕まり、自分は神社を追い出される。いや、寺社改め方に突き出されて罰を受けるかもしれない。悪い予感が次々と浮かび、頭の中をぐるぐると駆け回る。自分は構わないがイロハとトラだけは逃がさないと……。
志乃が本殿に戻ると、典甚はイロハと話し込んでいるようだった。典甚は首を
「……ほうか、イロハっちゅうんか……。ふむー、誰かに似とるような……」
(う……ほんと何もしないんけ?)
志乃は典甚からイロハを
「典爺、イロハは見ての通り妖怪だけど妖怪討伐を手伝ってくれてるわ。社に妖怪を連れ込んだのは私、だから……」
「ほんでどうするってんだ? 責任とって
典甚は漬物をつまむと杯を空けた。
重い空気が本殿を包む。
「──はっはっはー!! くっくっくっ……!」
「……」
「な、何がおかしいべ?!」
突然、典甚は大声で笑い出した。一通り笑うと、すまんすまんと詫びる。
「いやぁよ、志乃。おめぇは今までずーっとこの神社さ一人していたわけだべ? ほんで里にダチもいねぇ、神社に誰も来ねぇでよ、俺も小幡も心配してたんだ。いくらなんでも年頃の娘がこれじゃまずかんべ、ってな。ほんだきとこの通りダチさいたんべ、ほんだからいがったなって話よ」
それを聞いた志乃は、顔を真っ赤にして典甚を
「そ、そんなことどうでもいいじゃない! 問題はそこじゃないでしょ!」
「ど、どしたんだ志乃?」
「イロハは黙ってて!」
「あう…」
「ま、確かに神社に妖怪呼ぶってのはどうかとは思うきとがな。事が事だけに小幡も目
イロハは無二の親友である。親友を
「イロハは友達よ、式神でも使い魔でもないわ」
「わかっとるわかっとる、他の人間の話だ」
「人間が妖怪を使うんけ?」
「うむ……ところで今日は大事な話があって来たんだ。志乃、これ見とけ」
そう言って典甚の取り出した紙には「
「妖鬼討伐演舞祭」昔、ケノ国で
一時期は幕府の財政難が原因で
今回志乃へとお鉢が回って来たのは、小幡の宮司が祭りの役員だからだ。志乃の活躍振りは各地の同業者の間で広まっており、小幡も志乃を出さずにはいられなくなってしまったのだろう。
だが、志乃はこういった目立つことが嫌いである。年端もいかない娘が妖怪退治をしている、などと
「まぁ小幡も乗り気ではなかったがな。だがよ、志乃。こう言うのも辛えが、これも仕事のうちだと考えてくんねぇかなぁ……」
遠回しに小幡の
「今回だけって約束なら出るわ。小幡様にもそう伝えて頂戴」
「ほうか! 悪いな志乃。この紙は置いてぐから、何に出るか決めといてくれや」
(あれ、酒持ってっちまったぞ……?)
てっきりくれると思っていた酒を持って、典甚は帰って行ってしまった。
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